第166話 買い出し
ギルドに到着すると、ザルゾさんは馬車を仕舞うので、ここでお別れとなる。半日程度の講習とはいえ、俺が御者マスターになれるほどの指導をしてもらったのだ。デキる社会人(元)としては、お世話になったのだから十分なお礼をしておかねばなるまい。
賄賂? 違うな。これはお中元的なものだ。渡すのも石鹸だしな。ネコミミ店主の雑貨屋でも低品質ではあるが石鹸は売ってたから、渡しても問題ないだろう。
「ザルゾさん、今日はありがとうございました。あの、コレよかったらどうぞ」
「お? なんだコレ? あぁ石鹸か。ありがたくもらっとくよ」
「じゃあ、明日もよろしくお願いします」
「あぁ、コレのお礼って訳じゃないけど、念入りに世話しておくよ。ついでに道中の餌とかもな」
ガロンさんの宿にも馬房はあるようなので、馬車を借りたまま宿に戻ってもいいんだけど、馬も慣れた馬房の方がゆっくり休めるだろうしな。明日までザルゾさんのところで預かっておいてもらうのだ。
決して馬の世話が面倒なわけでは無い。ただちょっと舐められた時のトラウマが甦るだけだ。馬だけに。
馬車の事はザルゾさんに丸投げしておけば大丈夫だろう。石鹸のお礼に道中の飼い葉も用意しておいてくれるそうだし、賄賂もといお中元様々だな。
あとは俺達の準備か。装備いいとしても、多分向こうで一泊か二泊はするよな? 転移初日の食糧難は懲り懲りなんで、食料を買い込んでおかなくては。
バックドアがあるとはいえ、いつでも使えるとは限らないだろうしな。多少保存が効きそうなのを買い集める必要があるよな?
「馬車の目途は立ったわけだし、あとは保存食を買い込んでおくぐらいか?」
「そうだな。一応五日分ぐらいは買っておくべきだろう」
「そんなに必要なのか? 船の保存食もあるし三日分ぐらいでもよくないか?」
「あぁ、そうだったな……分かった、三日分にしておこう」
今日明日で四十食分ぐらいのパックごはんとカップ麺は確保できるだろうし、米だって二十キロは何とかなるだろう。主食だけならひと月は持ちそうだ。
あとは食料と並んで大事な水だけど、魔法もあるしバックドアもある。せいぜい馬車に置いておく樽を用意するぐらいか? これっきりかもしれないけど、なんなら飛空艇のインテリアにしてもいいしな。
でも、樽ってどこで売ってるんだ? 酒場になら空のがあるのか? あぁ、酒の詰まってた樽に水を入れるのも良くないか。
「水用の樽って、どこで売ってるか分かるか?」
「樽か……例の雑貨屋で見かけた気がするな」
ネコミミ店主の雑貨屋か。保存食も扱ってたし、あいつのところで買い込むとするか。
「よし、じゃあ雑貨屋で買い出しだな」
「あぁ」
「ふぅ……いい買い物をしたぜ」
「そうだな。気まぐれセールをやってる時に買えたのは幸運だった」
買い物シーン? ネコミミヤロウの事なんて、どうでもいいじゃないか。大事なのは結果だよ、結果。三日分の保存食と水用の樽が、通常銀貨五枚の所三枚になった事だけで十分だろう。
買い込んだものはいつも通り巾着袋行きだが、一日分は俺のマジックバッグに入れておいた。万が一シャーロットとはぐれたとき、俺の食料が無くなってしまうかならな。
野外調理用の鍋とかは飛空艇からの持ち出しで十分だろう。寝るときのテントはシャーロットのがあるし、毛布は飛空艇の寝室にあったはずだ。ワザワザ用意する必要は無い。
あ、薪が必要なのか? 現地で枯れ枝とか燃料になりそうなものが無ければ、食事も満足に取れなくなる。多少は持っておくべきだろう。これはガロンさんに分けてもらえばいいな。
さて、そうこうしているうちに夕暮れ時になって来た。明日は遠出になるんだし、宿に戻るとしよう。
あ、その前にガロンさんというかクォートさんの屋台に寄って、明日の夕食用に串焼きとサンドを買っておくか。
ネコミミ店主「ニャーのエピソードが、またしてもオミットされたニャ!?」




