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第164話 ピラフと塩

「よし、この辺でいいか。じゃあショータからやってみろ」

「分かりました」


 ザルゾさんの案内でたどり着いたのは、街道からちょっと外れたところにある草原だ。草原といっても足首程度の高さの草しか生えておらず、馬車が走るには丁度良さそうだ。

 ザルゾさんから御者を代わり、御者台に座ると手綱を握る。いよいよ御者デビューだ。いざスタートって時になって「グー」と誰かの腹の虫が鳴る。


「あー、そういえば昼時か。先に昼食にするか? といっても保存食のパンと干し肉しか積んでないが」

「そうですね。あ、弁当はありますので大丈夫です」

「私もだ」


 ザルゾさんが御者台の脇にあった袋からパンとジャーキーっぽい干し肉を取り出したが、俺達はガロンさん特製のオニギリ弁当があるので遠慮しておいた。

 ザルゾさんは「コイツも待ってる間暇だろうからな」と馬を荷車から放して休ませると、そのまま自分用であろう弁当を取り出し荷台の上で食事を始めた。


 俺達も『洗浄』で手を綺麗にしてから、例の包みを取り出す。葉っぱに包まれたオニギリを一つ取り出し、その包みを解く。中から出てきたのはオニギリはオニギリでも、ピラフのオニギリだった。


 そう来たか。思わず笑みが浮かんでしまう。さっそく一口頬張ると、炒めた米の香りと共に具材の香りが口の中に広がる。

 多分トリガラスープで炊いたのだろう、昨日食べたトリ粥に近い味だ。だが炒めた事により香ばしさが加わったことで、まさしく一味違った美味さだ。


「単純な塩オニギリも良かったが、こっちの方がいいな。もし売り出すならピラフオニギリだろうな」

「そうか? 私は塩だけの方がシンプルだが、コメの旨みが分かっていいと思うぞ」


 米の旨みとか、シャーロットの方が食通っぽい。うーん、そう言われてみると、やっぱピラフのオニギリは邪道のような気がする。

 って、よく見たら彼女が食べているのは塩むすびだ。あれ? 俺の方には塩むすびなんか入ってなかったぞ? ガロンさんめ、シャーロットの分だけひいきしたのか?


「これか? 例のごはんパックで作って貰った」


 シャーロットがフフン顔で解説する。いつの間に? 今朝はそんな余裕なかったはずだぞ?


「昨日のうちに温めておいたのを、今朝の朝練前にガロン殿に握って貰ったのだ」


 なるほど、彼女の巾着袋なら一晩置いたぐらいでは、冷めることは無いだろう。ガロンさんなら朝食の支度をするときに頼めばやってくれるだろうしな。道理であの時のオニギリの握り方が上手かった訳だ。

 だが微妙に許せないのは、その塩むすびを独り占めしていることだ。俺にもお裾分けを。ギブミーオニギリ。口には出さないが目で訴える。そんな視線に耐えかねたのか、シャーロットが渋々だが塩むすびを一つ渡してくれた。


「催促したみたいですまんな」

「まぁいいだろう。元々は例の所からのだからな」


 ……よくよく考えたら、出所は飛空艇だった。MPを出したのは彼女だけど、俺にも貰う権利があると言えよう。ちょっと強引な解釈だけどな。

 渡された塩むすびに早速齧り付く。確かに彼女の言うように塩だけの方が米の味を楽しむには向いているだろう。


 だが売るとしたら、単なる塩むすびよりもピラフオニギリの方が売れる気がする。俺達が食べているものが気になっていたのか、さっきからチラ見していたザルゾさんに、ちょっとづつお裾分けして両方を食べ比べてもらう。


「ほう……オニギリといったか? 初めて食べるが食べやすいな。最近流行っている何とかサンドもいいが、俺はこっちの方が好みだな」


 いや、オニギリ自体の評価はいいから、ピラフか塩かどっちがいいかを判断してください。


「ん? あぁ、どっちがいいかか。そうだな……俺はこっちの方が味が塩が美味くていいな」


 そういって選んだのは塩むすびの方だ。ぬぅ、予想が外れたか。というか決め手が塩って……なんか塩むすびが凄いんじゃなくて、塩自体が評価されてる気がする。

 そういえば屋台も塩を変えた途端に繁盛しだしたよな? もしかしたらこの町の人達は塩に飢えているとか? いやいや、まさかね……。




「さぁ、気を取り直して練習、練習!」


 昼食を終え、ザルゾさんが馬を再び荷車に繋ぐと御者練習のスタートだ。さっきから馬の世話を、ザルゾさんに任せっきりだな。

 けど馬房と違って不慣れな外で素人がやろうとすると、逆に馬の方が落ち着かないので、任せた方がいいそうだ。適材適所ってことだな……ちょっと違うか。


 手綱を握り、馬に真っ直ぐ進めの指示を出す。が、動かない。やり方はあってるはずなのに、馬がちっともいう事を聞いてくれない。


「お前の緊張が馬にも伝わってる。もうちょっと肩の力を抜け」


 ザルゾさんがアドバイスしてくれるが、そうはいっても初御者の緊張感は簡単には消えない。不意に車の免許を取った時の事を思い出す。

 初めての路上教習も緊張したが、それよりも緊張したのは初めて実際に車を運転した時だ。


 何故か教習車がマニュアル車だったので、エンストしまくってかなりパニクってたのを思い出した。あの時教官には何と言われたっけ?


 ………そうだ。まずは深呼吸だ。大きく息を吸って吐くだけでもかなり違うと言われた。あとは「慌てない」と口に出す。口に出すだけでも自己暗示になるからだ。

 それでも駄目だったんで、見かねた教官が、これでも触ってみるか? と差し出したのは……


「シャーロット。お前の胸を貸してくれ! 昔似たようなことがあった時、そうやって落ち着いたんだ」


 厳密には某ゲームのスライム人形だったがな。ムニョっと感がなかなかのもので、アッサリ落ち着けた覚えがある。彼女の褐色スライムさんなら抜群の効果を発揮するだろう。








 うん、ボコられたよ。おかげで落ち着けたけどな。

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