第159話 ガロンさんの過去?
「おし、そっちの準備もいいみたいだな。じゃあ、行くか」
「はい!」
「「行ってらっしゃーい」」
俺とシャーロットにガロンさん、更にはアレク君達の三人の計計六人で宿を出る。見送りにはマロンちゃんに加えマデリーネさんも参加している。
「別にオメーらまで付いて来なくても良かったんだがな」
「えーっと……スミマセンです」
「ま、まぁ行先は一緒なんだし、いいじゃないですか」
何故かガロンさんはアレク君達まで一緒に行く事に不満げな様子だ。彼らも依頼を確認するためギルドへ向かう訳だし、一緒に行ってもいいと思うんだけどな。
強いて言えばガロンさんを先頭に俺、シャーロット、アレク君達と、カルガモの親子よろしく縦に並んで歩いてるのが気になるぐらいか。
「お、ガロン。今日は新人達の教習か? 宿屋の主人もいいが、偶には町の外にでも出かけたらどうだ?」
「うるせー。俺はもう引退したんだ。二人目も生まれるし、命懸けの稼業は辞めたんだよ!」
「そーかそーか。せーぜー長生きするんだな」
「お前もな!」
通りを歩いていたら前から来た冒険者っぽい奴にガロンさんが声を掛けられた。あれ? アイツはどっかで見たような……どこで見たっけ? ……まぁいいや。野郎の顔なんぞ一々覚えておく必要もないしな。
そんなどうでもいい事より、ガロンさんが気になる事を言ってたな。引退がどうとか命懸けがどうとか。
ひょっとしてガロンさんって宿屋の親父をやる前は、何か別な、例えば冒険者とかだったのか?
「あの……ガロンさんって昔は冒険者だったんですか?」
「あー、まぁそんなとこだな。あぁ既に引退届は出してるから、指名依頼の方は問題ないぞ?」
「ほう……いつかガロン殿の武勇伝も聞きたいものだな」
「そんな大したものじゃないさ」
元冒険者で調理スキル持ちの宿屋の亭主か……ガロンさんの経歴がよく分からなくなって来たな。いつか機会があったら聞いてみよう。
アレク君もガロンさんが元冒険者だったのは初耳だったらしく驚いていた。クレアに至っては「ガロンさんって生まれた時から宿屋の亭主だと思ってたわ」って、それはいくら何でもないだろ。
「おし、俺は指名依頼を出してくるから、オメーらはここで待ってろ」
「分かりました」
「僕たちは掲示板の方に行ってますね」
そう言ってガロンさんは、俺達がいつも使っている受付には並ばず、二階の方へ向かって行った。どうやら依頼者用の受付は二階にあるようだ。
とりあえずガロンさんが戻って来るまでは暇になったので、テーブルで大人しく待っていることにした。あ、そういえば結局、依頼内容の相談が出来なかったな。何かとんでもない依頼にならない事を願おう。
「コッコゥ五羽ぐらいの簡単な依頼だといいな」
「まぁガロン殿の事だから大丈夫だろう……多分」
――ガロン視点――
冒険者ギルドに来るのも久しぶり……でもないな。この前コッコゥの依頼を出したばかりだったか。結局その依頼はショータの奴が受けたらしいから、これも縁ってヤツのなのかもな。
しかし、オレも指名依頼を出す側になる時が来るとは、なんだか感慨深いもんだな。オレが新人の頃、指名依頼を出してくれたオヤっさんも、こんな気持ちだったのか。
などと考えに耽っていると、応接室のドアがノックされる。どうやらアイツも来たようだな。返事を返すと、なぜか受付嬢の格好をしたアイツが入って来た。
「なんだ、最近のギルドじゃ人手が足りなくて、ギルマスまで受付嬢の真似事をしてるのか?」
「真似事とは失礼ですね。これでも昔は人気受付嬢だったんですよ? なんならアナタが私に言った口説き文句でも思い出させてあげましょうか?」
「そいつは勘弁してくれ。それよりもサッサと依頼を決めちまおう」
「そうですか……では『パレシャード』のお二人に教えるとしましょう」
「おい!」
「冗談ですよ。そうですね……彼らの実力ではこの辺の依頼が丁度良いのではないでしょうか」
そういって受付嬢の格好をした冒険者ギルドのギルドマスターであるメルタが依頼の書かれた紙を取り出す。
「ほう、ワイルド・ボアはともかく、マダラ熊まであるのか」
「えぇ、彼らは薬草採取の依頼しか受けていないのですが、それとは別にトロールやワイルド・ボア、それにウコッコゥまで狩ってますからね。これ位が妥当かと」
「マダラ熊までやれるようなら、ランペーロでも問題ないな」
「ランペーロですか……そういえばそんな時期でしたね」
「まぁ群れともなると厳しいだろうが、ハグレなら問題ないだろうしな。よし、コイツに決めた」
「分かりました。それと確認ですが、指名依頼を出す事に問題ないでしょうか?」
メルタが聞いている問題ってのは、新人冒険者への指名依頼が単純な依頼とは意味合いが異なるからだ。
なんせ依頼主が、その冒険者の保護者であり後見人というかパトロンになるんだからな。
新人が何も問題を起こさなければいいが、場合によってはオレの方まで責任が回って来るから覚悟ってもんが必要になる。
まぁ逆に新人が有名になれば、ソイツを見出したって事で依頼主も評価されるがな。デカい商会じゃ積極的に新人冒険者の依頼主になって名声を得てるなんて話もある。
まぁ新人にとっては、この町に受け入れられるかどうかの試練でもあり、依頼主というかこの町にとっては新人を受け入れるかどうかの見極めでもあるわけだ。
「あぁ、問題ない。アイツ等なら上手くやって行けるだろう」
「そうですか……かしこまりました。『辺境の宿』亭主ガロン様より『パレシャード』様への指名依頼。確かに承りました」
「あぁ、頼んだぜ」
「しかし『戦う料理人』とも呼ばれたアナタが依頼する側ですか……時の流れを感じますね」
「見た目がほとんど変わってないお前が言うと、説得力ってもんが欠片もないな」
「あら? アナタが口説いた頃のままって事ですか? やっぱり彼らにも教えて差し上げた方がよさそうですね」
「だから勘弁してくれ」
初めて別視点ってのをやってみました。(スライムとスケルトンは除く)




