第148話 奴隷制度
いつもの墓標に付いたので遠隔操作で着陸したけど、その時レーダーに写っていた緑の点の一つが気になったので、ちょっと拡大してみた。
ぱっと見サッカーボールサイズの青いゼリーっぽい何かが、ウネウネと獲物を探すように動いている。
「スライムがどうかしたのか?」
シートに座って拡大した映像を眺めていた俺が気になったのか、シャーロットがシートの背中越しに聞いてきた。
そうか、やはりあいつはスライムだったのか。俺と遭遇した個体かどうかは分からないが、ココであったが七日目とばかりにリベンジを挑むか?
……いや、よそう。俺は既にアイツよりも遥かに強くなっているのだからな。スライム相手に今更勝っても、何が得られるというのか……
アイツ等とは何もなかった。それでいいじゃないか。そうだな、そうしよう。よし、黒歴史抹消っと。
「あー、いや。何でもない。スライムなんて初めてだから、ちょっと見て見たかっただけだ」
「あれ? 前に聞いた時、ショータが目覚めた時にスライムがどうとか言ってなかったか?」
「はぁ? 言ってねーし。スライムなんて今初めて見たし」
「そ、そうか。なら私の記憶違いだろう。あぁ、そうだとも。スライムと引き分けたと聞いた時、我が耳を疑った程だからな。そういう事にしておこう」
振り向かなくても分かる、シャーロットのニヤニヤ顔にチョップくれたい。
「飛空艇を使っても、結構ギリギリだったな」
「いや、あの群生地までの採取が日帰りで済んだのだから、素直に喜ぶべきだと思うぞ?」
そんなもんなのかね。俺としてはもうちょっと早く済みそうな気がしたんだけど、やはりあの墓標までがネックだったな。
結局城門をくぐった頃には、既に空は赤く染まっていた。ギルドに着くころには、すっかり日が落ちてしまうだろう。
行き交う人たちも心なしか足早になっている。良い子はお家に帰る時間って奴だな。
「おニーさん、ちょっとミテかない? カワイーこ、タクサンいるよー」
そして、そんな時間帯になれば、変な客引きとか現れるんだよな。出張とかで繁華街に行ってみると、こんなベタな客引きも見かけたよな。
そういえば、この世界でもキャバクラとかあるのか? リアルバニーガールとか、是非一度……イエ、何モ考エテイマセンヨ? だからその足をどけて頂けると、大変有難いのですが……
シャーロットとの二人三脚(ただし俺の足が下)をしながら、客引きから離れていく。いい加減俺の足のダメージが心配になってきたところで、ようやく彼女の足が離れてくれた。
「あの店の奴隷を買うのはヤメておいた方がいいぞ」
「え? あの店、奴隷を扱ってたの? っていうか奴隷っているの?」
「そうか、ショータのいた世界には奴隷はいなかったのだったな」
「あれ? そんな事いったっけ?」
「いや、聞いてないな」
「??」
どうしよう。シャーロットが遂に壊れたみたいだ。修理とかどこに持って行けばいいんだ? あ、保証書あったかな?
「ショータと同じ世界から来た人間が、今よりもずっと昔に現れたのだ」
「過去の転移者って奴か」
「そうだな。その者はこの世界で奴隷を解放すると言ってたそうだ」
「へぇー」
「まぁ、結局は果たす事は出来なかったがな。ただ彼によって奴隷達の立場は大幅に改善することができ、今でも公営の奴隷商会はリンカーン協定を守っているのだ」
「リンカーンってまさか……」
「いや、本人の名前ではなく、彼が尊敬している者の名前だと言ってたな」
セェェーーフ。どっかの暗殺された大統領が異世界転移、いや転生? とかシャレにならんぞ。
「リンカーン協定とはな……」
長いよ。なんで突然滔々と語り出すんだよ。いい加減ギルドで清算したいよ。で、長すぎた彼女の話を要約すると、それまでは主人に虐待され、時には殺されてしまっても何も言えなかった奴隷たちに、ある程度の人権を認めるって事らしい。
先ずは今まで一緒くたの扱いだった、重犯罪奴隷と軽犯罪奴隷、そして借金奴隷の区別。そして、借金奴隷には最低賃金を保証し、自分を買い戻せる制度を作ったそうだ。
さらに奴隷商は奴隷達に衣食住を最低限保証するようにすることに加え、奴隷たちに職業訓練を施すことを義務づけた。
そう考えると、奴隷商って大損じゃね? って思うけど、その代わり奴隷商は領主や国から補助が受けられるし、人手が足りない工房やら農場、時には領主や国の軍隊に自分で教育した奴隷達を送り込むことが出来るそうだ。
つまり借金で奴隷なった奴は、奴隷商のところである程度の職業訓練を受けたのち、強制的にどっかの工房やら軍隊やらに送り込まれる。
尤も強制と言っても、多少は本人の意思とか適性は考慮されるらしいけどね。まぁイメージとしては強制力のある職業訓練校兼ハロワっぽい所か?
そして送り込まれた先で稼いだ賃金で自分を買い戻せれば、晴れて自由の身になるって訳だ。ま、大抵はそのまま送り込まれた先に居付くらしいけど。
つまり、借金奴隷は手に職を付けられ、更には就職先まで斡旋される。就職先は一から教える必要ない人材が入って来るので教育の手間が省ける。
奴隷商は、奴隷自身の開放金額(当然元の金額より高い)を手に入れられ、領主や国からも補助が受けられる。ついでに言うと、質の良い教育をしていれば、各方面へのコネと信頼を築くことができるだろうしな。
で、国や領主は工房やらが栄えれば、その分税収が上がる。ついでにセーフティーネットっぽいのも作れる訳だ。
まぁ、これは理想的に物事が進んだ場合の話だけどね。実際のところは、まぁトントンといったところで運営されてるみたい。
軽犯罪奴隷も似たような感じだな。違うのは開放の条件が賃金ではなく、年数といったところか?
一定年数キチンと勤め上げれば解放される。なお、その間の賃金は本人一割、奴隷商九割が基本らしい。
重犯罪奴隷だと基本国や領主が引き取って、イロイロするそうだ。残念ながら彼らに人権は無い。流石に重犯罪者にかける情けは無かった様だ。




