第145話 薬草談義
カップ麺を食べ終え、残りの採取を終わらせるべく外に出た時、シャーロットが飛空艇を見上げながら妙なことを言い出した。
「なぁ、あのアンカーとやらは地表に突き刺す事も可能なのか?」
「あー、どうなんだろうな……ウィンドウにはON・OFFしかなかったし」
言われてみれば、今現在、飛空艇から光の鎖だかロープっぽいのが伸びている。で、その先は変な魔法陣に吸い込まれている状態だ。あの魔法陣が無ければ、当然アンカーは地表ないし木に突き刺さっていたことだろう。
なんにせよ、船から離れた現状では確認のしようがなんだよな……ま、帰る時にでも検証すればいいか。
「ひょっとしたら出来るかも知れないけど、今すぐ確認する必要があるのか? 無いのならサッサと採取を終わらせたいんだけど」
「そうだな……ちょっと気になっただけだ。忘れてくれ」
この時ちゃんと検証をしておけば、あんな苦労をする必要も無かったのにな。と、後の俺は後悔するのだった……なんてな。
その後の薬草採取も、特に手間取ることもなく完了した。さすがのシャーロットも五束五十枚程度なら、ちゃんと束ねながら採取したようだ。
俺の方も六束ほど集めたので、あとは提出するだけだな。多少多めにしておけば、何枚かダメだったとしても平気だろう。前回同様、余れば売ってもいいし自分用にしてもいいしな。
そういや、薬草っていうぐらいだから食べて使うのか? 試しに一枚毟って、そのまま食べてみる。うーん、苦いが食えないほどでもない。
春菊とかパセリといった、青汁系っぽい感じだ。あれ? シャーロットが何かとんでもないものを見たって顔をしてるな。
「まさか薬草をそのまま食べるとはな……」
「え? 薬草って食べちゃまずいものだったのか?」
「いや、食べても命に別状は無い。ただ食べて分かるように、その苦さで食べられないものもいるのでな。普通は患部に貼るかとかで、直接食べるのはあまりしない。効果も落ちるからな」
どうやら薬草ってのは、直接食べたりはしない様だ。折角なので使い方とか聞いてみた。
普通は乾燥・粉砕して粉にしたのを、必要な時に水で練ってペースト状にしたものを、患部に塗るらしい。摘んだばかりの薬草なら、よく揉んで貼るだけでいいそうだ。
ちなみに効果の高い順は、摘みたてを貼る>ペーストを塗る>(超えられない壁)>直接食べる、らしい。
さらにどうでもいい話だが、シャーロットはあの味が苦手なのだそうな。彼女に食べられたくない物には、薬草の粉末でも掛けておくか。
薬草談義はさておき、例の魔力溜まりから魔物が出現しないうちに、引き上げたほうがいいか。シャーロットの話じゃ、トロールみたいな大物が出た後だから、魔素も溜まりにくいらしいけどね。
エレベーターで飛空艇に乗り込むと、操縦室でアンカーを収納する。あ、ついでにさっきのも確認しておくか。
「うーん、どう見てもアンカーの操作はON・OFFしかないよな……」
「そのようだな」
「ん? なんでシャーロットもそんなことが分かるんだ?」
「なんでって言われても……呼び出せたからとしか言いようが無いんだが……」
なるほど、アンカー操作も操縦の範囲内って事なのか。おっとそんな事より、アンカーの方だ。もしかして魔法陣をOFFに出来る様になるには、機能を開放が必要なのかな。
『MP4を消費し「機能:係留用アンカー」の機能拡張しますか? MP50/50』
おっと、機能の開放ではなく拡張になるのか。まぁどっちでもいいけどね。YESを押すとアンカーの操作ウィンドウに変化が現れる。
今までは四カ所のアンカーのON・OFFだけだったところに、固定先の選択肢が表示されるようになった。
選択肢は『係留障壁・地表・手動』の三つ。係留障壁は、通常の魔法陣の事だろう。地表と手動ってのが拡張された部分になる。
試しに一カ所だけ地上に係留してみるか。あ、一応シャーロットにも言っとかないとな――
――ジャララ、ガズン、メキメキメキ・ズシーン
「……た、たまには驚かされる側もいいのではないか?」
「……確かに、これは心臓に悪いな」
俺がやる前に、シャーロットが試した様だ。船視点に切り替えてみれば、船首から伸びた光の鎖が、森の木をへし折った上で地面に突き刺さっていた。
多分あの木を貫通した時、へし折ってしまったのだろう。割と太めの木だったはずなのに、あっさりへし折るとは……錨というより杭打機の方が正しい気がする。
「結構な威力で打ち出されたんだな」
「あぁ……これほどの威力とは思わなかった。これならワイバーンもあるいは……」
あぁ、なるほど。彼女はアンカーを武装として使おうと考えたのか。確かにあの威力ならトロールぐらいならブチ抜けそうだよな。
あとは手動で撃った時の命中率とか、有効射程距離とかも調べた方がいいのか? でも、検証してる時間も微妙なんだよな……例の墓標に戻ってからだって、それなりに時間がかかる訳だし。
「考えていること悪いんだけど、サッサと戻らないと日が暮れるぞ?」
「……そうだな。今日はこれで引き上げるとしよう。じゃあ席についてくれ」
「おう!」
「ダンデライオン号、発進!」
「あれ? なんでシャーロットが操縦するの? 俺、船長だよね?」
「ショータは船長様だからな。私は副船長と操舵士を兼任するとしよう」
「いやいや、普通船長が操縦するべきだろ?」
「イーヤーだー。飛空艇の操縦なんて、滅多にできないんだから私がやる」
「俺の船なんだから、俺が操縦するんに決まってるだろ」
「私だ!」「俺だ!」
「「ぐぬぬぬぬ……」」
「「よし、じゃんけんだ!」」




