第144話 カップ麺
エレベーターで飛空艇内に戻った俺達は、その足で厨房へ向かう。たしか鍋とかと一緒にヤカンも見た覚えがあるからだ。
「たしか、この棚に……お、あったあった」
ヤカンに水を入れると、そのままコンロへ載せ火を点ける。あ、シャーロットに沸騰したお湯をヤカンに入れてもらえば、別にコンロで沸かす必要も無かったのか。
まぁ、いいや。なんでもかんでも魔法に頼るのもない言ったばかりだしな。このままお湯が沸くのを待つとしよう。
「沸騰するまでの間で、薬草の整理でもしておくか?」
「あぁ、そうしよう」
と言っても、俺の方はちゃんと十枚一束で集めているから、せいぜい束の数を数えればいい位だ。
むしろシャーロットの方が問題だ。先日の採取した薬草を一緒に束ねた時、ちゃんと注意しなかった俺も悪いが、相変わらず適当に集めやがって……。
「シャーロット……なるべくなら束に「断る!」……一応理由を聞いてもいいか?」
「周囲に敵が居ないうちに、集められるだけ集めるべきではないか? 整理するのはこうして安全な場所でやればよかろう?」
……一理あるな。今回はたまたま敵がいないから、束ねながら出来ていただけだ。仮に不意打ちを警戒しながら採取するとなると、束ねる手間すら惜しい場合もあるだろう。
シャーロットの奴め、てっきり面倒だからやらないのかと思ってたけど、ちゃんと考えてたんだな。いや、そんな言い方をしたら彼女に失礼だよな。
「というのを今思いついたが、中々良い言い訳だと思わないか?」
「俺の感心を返せ!」
訂正。シャーロットはシャーロットだった。
ひーふーみー……俺が十一束、シャーロットが十三束と七枚か。目標が三十五束だから、あと十束ぐらいでいいのか。
一応依頼的には最低五束づつ集めればOKらしいから、このまま引き返してもいいんだけど、時間もある訳だし上限一杯まで集めるかね。ギルドのポイント的なのも上限までの方が当然高いらしいし。
そういや先日はなんだかんだで、三十束集めるだけで、日が暮れたんだよな。今日は昼前で既に二十五束近くも集められたって考えると、飛空艇の便利さが分かるな。
尤も、この前の時は途中の寄り道とかギルドで色々あったってのもあるけどね。ここに辿り着いた時には結構な時間になってたし。
――ピー
「とか言ってるうちに、お湯が沸いたみたいだな」
「お湯が沸くと音がするのか……」
シャーロットは笛付きケトルに興味を持ったようだ。実家でもよく使ってたから気にも留めなかったけど、こっちじゃ珍しいのかね。
おっと、それよりもカップ麺だよ。沸騰したお湯を入れて、三分待つ。キッチンタイマーは……当然ないよな。ま、勘だな。カップ麺生活もしてた俺の実力が発揮される時が来たな。
って、船視点のメニューに時計があるんだった。しかもタイマーだってある。三分後にセットしてっと……これで安心だな。
あとは、箸とシャーロット用にフォークを用意してっと……。
「なぁ、お湯を注ぐだけで本当に料理が出来るのか?」
「あぁ、インスタントなんて、こっちにはないもんな。ま、楽しみにしてるんだな」
「おおぅ……これだよ……この味だよ……」
「ふーむ……お湯を注ぐだけで、料理になってるな……しかも美味い」
暫くぶりのラーメンをズルズルと啜る。隣で一本づつ食べているシャーロットが眉をひそめたが、そんなのは気にしない。なぜならそれが正しい食べ方だからだ。
「なぁ、ショータ。私も細かい事はなるべく気にしないようにしているが――」
「シャーロットの言いたい事は分かる。ただな……こうやって、吸うように食べた方が美味いんだから仕方ないだろ」
「そうなのか? 私を騙していないだろうな?」
「やってみれば分かる」
そういって大きく頷いて見せる。
自信満々な俺に半信半疑ながらも、見様見真似で食べてみるシャーロット。だが、その音はズルズルというよりチュルチュルといった感じだ。
「もっと勢いよく吸ってみろ」
「……」
口の中に麺が入っているので、頷きで返事をするシャーロット。そして……
「ゴフゥッ」
今度は勢いがあり過ぎて、逆に咽てしまったようだ。そういや外国人みたいに、啜る習慣が無い人には結構な難易度だって聞いたような気がするな……あ、シャーロットが睨んでる。
いや啜った方が美味いのは本当だよ? 自分が出来ないからって、人を睨むのはヤメてもらえませんかね。
「ま、まぁ無理はしない方がいいと思うぞ…………分かった。なるべく音を立てないように食べるよ。ただ、癖みたいなものだから、どうしても出てしまうのは勘弁してくれ」
「……そうしてくれ。私もこんな事でパーティーを解散したくもないしな」
あー、そういや合コンで「食べ方の汚い人はマジムリ」って言ってた娘がいたな。基本カップ麺は個人でのお楽しみ用にしよう。




