第143話 カツサンド
「その時、俺の挑発に反応するかのように背後から気配が生まれる。
咄嗟に振り返った俺の視界の端っこに高速で迫るナニカが写る。
考えるよりも早く体を伏せる俺。
その傍を掠めるように通り過ぎるナニカ。
危なかった。見てからでは遅かったな……だが、自分の判断力に己惚れてる暇はない。
素早く立ち上がり、槍を構える。
奴は……居た! 木の枝に止まり、俺を見下ろしている。
あれは……フクロウか? 大きさが滅茶苦茶だけどな。
あまりのデカさに止まってる枝が折れそうだ。
確かフクロウは音もなく忍び寄るんだったな。
流石のシャーロットも、空から音もなく襲われたのでは、ひとたまりもなかったのだろう」
「フクロウか……音が無いのは厄介だったが、その程度だな」
「……シャーロットの声が聞こえたような気がしたが、気のせいだろう。
もしかしたら、草葉の陰から見守ってる彼女が、どうにか絞り出した最後の思いが、俺に届いたのかもしれない。
いや、気を抜くな。奴はまだ俺を狙っているんだ。
現にフクロウは、木の枝からこっちをジッと見ている。
……来た!
音もなく、だが一直線に向かってくるフクロウ。
速い! 概観視を使っていても、躱すだけで精一杯だ。
そのまま通り過ぎ、木の枝に止まるフクロウ。
どうやら、あの攻撃は連続では出来ない様だな。
ならば、木の枝に止まってる間がチャンスだ……
が、悲しいかな、俺に遠隔攻撃の手段がない。
シャーロットに魔法をちゃんと習っておくんだったな」
「教えたとしても、フクロウを倒せるほどの威力は出せなかったと思うぞ?」
「なんだろう? 空耳か? シャーロットの声が、また聞こえた気がする。
そうか、彼女の思いが俺に宿って、奴を倒せと囁いているのかもしれない。
そうだ、俺は一人じゃない。シャーロットも一緒に戦っているんだ。
その時、俺の目の前にウィンドウが開く。
ダンデライオン号だ!
ダンデライオン号の武装が次々と開放されていく!
パルスレーザー、ショックカノン、各種ミサイル、そして波〇砲。
いつから俺の船はヤ〇トになったんだ?」
「なぁ、〇マトってなんだ?」
「これからがいい所なんだから、ちょっと黙っててくれ。
……開放された武装の全てが、フクロウに照準を定めていく。
フクロウもダンデライオン号の威容にビビったのか、木の枝に止まったままだ。
いや、それどころか命乞いまでしているように見える。
だが、許さん。貴様は俺からシャロを奪った。
ならばその報いを受けるがいい!!
『全弾発射!!』
そして世界は滅んだ……」
「流石に人一人死んだぐらいで、世界を滅ぼすのはやり過ぎだと思うぞ? あと、勝手に私を殺すな」
あー、うん。叫んだ時、概観視がエレベーターの魔法陣が光ったのを捉えていたんだよね。
で、思い出しちゃったんだよ……そういや、シャーロットが「飛空艇に用がある」って言ってたなぁって。
薬草摘みに集中してたから話半分で聞いてたみたいで、ついさっきまでその事を忘れてたんだよな。
どうやら、俺の叫びはしっかり彼女の耳に入ったみたいでな……何とも言えない表情を浮かべたのも、しっかり視えちゃった訳だ。
こうなったら、それっぽい作り話でも披露して誤魔化そうとしたんだけど……余計傷口を悪化させただけだったようだ。
「どうやら、正気に戻ったようだな。突然叫んだかと思ったら、何やらブツブツと呟いているから何事かと思ったぞ? 文字数にして千文字ぐらいは呟いていたな」
「……そんな事より昼飯にしようぜ! お腹が空き過ぎて倒れそうだ」
「……そうだな。そうしよう」
そういってシャーロットは巾着袋から包みを二つ取り出す。あれは今朝ガロンさんから預かったやつだ。一つ受け取ると早速包みを開く。
「おぉ、カツサンドだよ。流石ガロンさんだ。期待を裏切らないな」
「ソースがパンに染みてて美味いな」
シャーロットの言う通り、ソースカツのソースが柔らかいパンに染みこんでいて美味いな。その割に、カツのサクサク感は薄れていない。これはシャーロットの巾着袋のおかげだろう。
あっという間に食べきってしまうが、ちょっと物足りない。それなりにボリュームがあったとはいえ。朝食が物足りなかったせいか、もうちょっと食べたい。
かといってシャーロットの分を貰おうにも、彼女も既に食べきっていて、むしろ俺の分を狙っていたぐらいだ。
これは諦めるしかないのか? とも考えたが、俺には強い味方があるのを思い出した。そうカップ麺だ。昨日、散々補給したあれの出番だ。
「シャーロット。沸騰寸前のお湯って魔法で出せたよな?」
「沸騰寸前のお湯? まぁ出せるが、何に使うんだ?」
そういや、ごはんパックを湯煎するのに魔法でやってたな。だったら大丈夫か。
「コイツにお湯を注いでほしいんだ」
「それは……たしか『かっぷめん』とやらか? どうやって食べるのかと思ってたが、お湯を注げばいいのか」
「あぁ、じゃやってくれ。中に薄っすらと線があるだろ? そこまで注いでもらえればOKだ」
「な、中々難しい注文だな……」
確かに言われてみれば、熱湯をこんな小さな口から入れて、線まで注げってのも結構面倒だろうな。
そうだよな、なんでもかんでも魔法に頼る必要もない。よし、飛空艇にヤカンでも取りに行くかね。




