第142話 突然の別れ
「ふぅ、とりあえず一休みするか」
屈めていた腰を伸ばしながら、一人呟く。見上げれば太陽は中天に差し掛かるところだ。そろそろ昼飯の時間かな?
薬草の方もそれなりに集まっている。これなら昼飯を挟んでも、目標達成までそんなに掛からないだろう。
しかし、一昨日も結構毟ったはずなのに、そうとは思えない位、薬草は生え茂っている。真夏の雑草よりも生育が早いんじゃないのか?
まぁ雑草と違って、毟れば毟っただけ金になるけどね。とはいえ、これだけ生育が早いと、逆に不安になるよな。ほら、パニック映画か何かで、滅茶苦茶成長の早い植物が都市を飲み込んだとか無かったけ?
向こうの世界じゃ作り話って言い切れただろうけど、こっちの世界じゃあり得そうだよな……ファンタジーなんだから、トレントみたいな意志ある植物とか居そうだよな。
実際、シャーロットの話じゃ、ダンジョンで栽培していた薬草が魔物化したらしいし……
『薬草達の氾濫 ~俺達は癒し系~』
……ないな。ないない。なんで映画のタイトルっぽいのを考えてしまったんだろう。腹が減ってるせいか?
そうだな。結局朝からお粥を食べただけだで、途中で買い食いとかできなかったしな。よし、飯にしよう。
例によってシャーロットに昼飯を預けているから、彼女と合流しないとな。って、どこ行ったんだ? その辺で採取してたと思ってたのに、いつの間にか姿が見えない。
サボるような奴ではないと思っていたが、俺の見込み違いだったのか? いや、そんなことは無いはずだ。現に沼のそばには薬草が山積みになっている。
……沼? まさか、シャーロットの奴、沼にでも入ったのか? 慌てて駆け寄るが、沼は濁ってはいるが静かなままだ。彼女が潜っているようにも、溺れているようにも見えない。
それとも既に沼の底で……って、それは無いな。さっきまで居たんだし……居たよな? あれ? 最後に見たのはいつだ?
必死になって記憶を辿ってみるが、どうもあやふやだ。お互い集中して採取してたから、特に声を掛け合ったりとかはやらなかったしな。
……え? まさか本当に沼の底? でも何で? 自分から入るとも思えないし、入るとしても一声掛けるだろう。ってことは、彼女の意思で入った訳では無いのか?
不意にさっきの妄想がよみがえってくる。いやいや、いくら何でも、薬草の反乱とかないだろ……ないよな?
魔力溜まりが近いとはいえ、魔物化した薬草に襲われた上、既に苗床になって干からびているとか、いくら何でも……あるとすればこの前みたいに、沼から魔物が現れるとかそれぐらいだろ。
それに魔物っていってもトロールとかだろ? シャーロットが負けるとも思えないよなぁ。あ、でも水棲生物ならどうなんだ? ワニとか水中から突然襲ってきたりしたような……
彼女は俺よりもずっと強いんだろうけど、それでも不意を打たれれば、あるいは……
「シャーロット! 何処だ?! 何処にいる?!」
背負っていた槍を構え、シャーロットの名前を呼ぶ。
だが、返事は無い。嫌な予感がしてきた。まさか、俺の想像が当たっているのか?
槍を構えたまま、沼を見つめる俺。相変わらず、水面は静かなままだ。とても彼女が飲み込まれたとは思えない。
静寂が辺りを包む。まさか本当にシャーロットはやられてしまったのか? 出会ってまだ一週間も経っていない付き合いとはいえ、パートナーと見込んだ彼女との不意の別れに涙が出そうになる。
駄目だ! 泣くな! 彼女を飲み込んだナニカは、まだソコにいるんだ。泣いてる暇があったら警戒しろ! 俺まで飲み込まれたら、彼女の無念は誰が晴らすんだ?
……だが、どうする? シャーロットの仇は討ちたいが、俺に出来るのか? ワイルド・ボアを一撃で倒せる彼女が、一声も発せずに敗れたような相手に勝てるのか?
冷静に考えれば、ここは引いてギルドや門番の人に伝えるべきだ。俺が戦ったって勝ち目は無い。だけど……だけど!
「ここで引いたら、男じゃないだろ!! 来いやー! 化物! 俺が相手になってやる!!」
ざんねん!! しゃーろっとの ぼうけんは これでおわってしまった!!




