第141話 アンカー
「とりあえず、この高さで試してみるか」
「大丈夫なんだろうな?」
現在の高度は、周りの木々よりも高い程度、まぁ20m位か? そのぐらいの高さに飛空艇は停泊している。
これ以上降下すると、周りの木々に当たりそうで怖い。出来ればこの高さで、エレベーターが使えるといいのだけど……。
シャーロットは不安げだな。まぁ高層建築技術もなさそうな世界だし、この高さは慣れないのかな?
「なんだ、怖いのか?」
「私が心配しているのは、飛空艇が風に流されたりしないかの方だ」
「そういえばそうだな」
確かに空に浮いてるだけじゃ、風船と同じだしな。某デッキブラシで空を飛んだの映画でも、飛行船が突風で飛ばされたっけ。
うーん、水に浮いてる船だったら錨でも降ろしておけばいいんだろうけど、飛空艇にそんなのあるのか?
『MP2を消費し「機能:係留用アンカー」を開放しますか? MP48/50』
「あー、何とかなるみたいだ」
「どういうことだ?」
「なんか『係留用アンカー』って機能があるらしい。こいつを開放すれば心配ないはずだ」
「なるほど、ならばいつ強風が吹くかわからないのだし、是非開放して使うべきだな」
「だな。早速開放するとしよう」
ただMP2ってのが気になるんだよな。まぁMPに余裕あるからいいけどね。それじゃあ、YESっと……お、アンカーを使うかのウィンドウが出たな。楕円形の周りに四カ所丸がある。
えーっと、この絵からすると、船首と船尾からそれぞれ二カ所づつ出せるのかな? 勿論四カ所ともONと、ん? なんか音がしたな。
多分アンカーが使われた音だとは思うんだけどな。ウィンドウの丸も色が変わってるし。あ、船視点なら確認できるのか。アンカーの音じゃないかもしれないし、一応見ておくかね。
「はぁぁぁ?」
「なんだ、いきなり変な声を出すな」
シャーロットに注意されたけど、変な声が出るのもしかたないよな。あの光景を見れば彼女だって変な声が出るだろう。
だって、アンカーっぽいのが魔法陣に突き刺さってるんだよ? あれか? 亜空間的な所にアンカーを打ち込んでるって事か?
「な、なぁ……係留用アンカーって……いや、何でもない」
「その様子だと、またとんでもない事になってるようだな……」
察しが良くて助かります。とりあえず、風に流される心配はなくなった訳だしな。サッサと下に降りよう。
「まぁ、流されることは無くなったろうから、安心してくれ」
「……今までの何処に安心できる要素があったんだ?」
こまけぇことはいいんだよ。彼女もこの船に慣れてきたと思ったけど、まだまだな様だな。彼女の肩を掴むと、その目をじっと見つめる。
「シャロ……」
「な、なんだ? いきなり」
「細かいことを気にしてると、ハゲるらしいぞ」
「な!?」
呆気に取られてるスキに、エレベーターに乗り込む。彼女が我に返る前に『B』ボタンを押すと、俺の体は次の瞬間地上にあった。
「エレベーターっていうから、あれだけの高度があれば、下がるときの風景が見られると思ったんだけどな」
まさかの転送装置とかSFかよ。まぁいいけど。それより、よく考えたらエレベーターが使えなかったら我に返ったシャーロットにボコられてた可能性があったのか。
いかん、彼女が来る前に採取を始めよう。流石のシャーロットでも、採取してる奴をボコる事はしないだろうし。
「ショータ! お前というやつは――」
案の定暫くすると、地面に魔法陣が描かれる。更に魔法陣が光ったと思ったら、シャーロットがエレベーターから出て来た。
へー、あんな感じで現れるんだな。あれじゃエレベーターというより、転移魔法だな。実にファンタジーしてる。
「怒るのはいいけど、採取しながらにしてくれ。目標は三十五束だからな」
「……後で説教だからな!」
返事はせず、手をヒラヒラさせる。それで俺が了解したと思ったのだろう、彼女も薬草を毟り始めた。
ふっ甘いな。俺は返事をした訳では無い。ただ手が疲れたからヒラヒラさせただけだしな。まぁそんな言い訳が通るとも思えないけどね。




