第1401話 アイスクリーム
エイプリルフールネタが思いつかなかったんで、通常営業です。
ドンッと目の前に置かれているのは、推定20Lは入ってそうなミルク缶。
仮にこれを飲もうとするなら、一人頭1L以上は飲まなくてはならない。
だが牛乳、いやウージィミルクならば、そのまま飲むよりも食材として使う方がずっと使い道がある。
例えばチーズなんかは良い例だろう。
しかしチーズを作るにはレンネット等の特殊な薬品が必要だ。
それよりももっと手軽に加工できるメニューの方が良い。
そこでシュリから出てきたアイディアがアイスクリームだ。
俺としてはアイスクリームよりソフトクリームの方が好きなんだが、アレは謎のマシンを使わなくては作れないからな。
そういった特別なマシンが無くても作れるアイスクリームの方が、ずっと難易度は低いはずだ。
とはいえ、そのまま凍らせればミルク味のアイスキャンデーになってしまうのは、小学生の頃に経験済み。
あの頃の俺はアイスクリームの作り方なんて全く知らず、単純に凍らせればいいと思って作った結果、出来たのは製氷皿に入った凍った牛乳。
砂糖すら入れてなかったため、アイスキャンデーと呼ぶことすら憚れる代物になったのは苦い思い出だ。
まぁ凍ってるとはいえ牛乳には変わりないんで、苦くはなかったけどな(スタッフが美味しく頂きました)。
さて、そんなアイスクリームの作り方だが、実はあまり詳しくないし、作ったことなんぞ一度も無い。
せいぜい、いつものバイブル『美味〇んぼ』にあった、空気を含ませることが大事だって事ぐらいだろうか。
シュリに聞いても「バニラエッセンスがないと、バニラアイスにならないっス」と、実に当てにならない。
「ほう、何やら美味そうな話をしているな」
俺とシュリが何とかアイスクリームの作り方を思い出そうとしていると、それをシャーロットが目敏く……いや耳聡く聞きつけてきやがった。
まぁ、食材を前に何に使うか話し合っていれば、美味い物をつくるだろうと推測するのも容易いか。
「おにーちゃん、何か美味しいモノ、作るの?」
「ショータさん、何か思いつきましたか?」
「お、なんだ? チーズ以外でコイツの良い使い道があるのか?」
シャーロットの発した『美味そう』発言に、全員の目が俺達に向く。
特にアレク君とウージィ乳を持ってきた白髪オッサンの目がギラリと光っている。
キラキラした目のマロンちゃんを見習ってほしい。
しかし美味いモノを考えていたのは事実。
俺はアイスクリームの事を皆にも話してやる。
真っ先に反応したのは、白髪頭のオッサンだった。
「へぇ、ウージィミルクを凍らせるのか。死んだ爺さんもウージィの乳で色々と試してたけど、凍らせるのはやってなかったな……あ、いや待てよ? 爺さんのノートにも、アイスクリームって言葉はあったな。もしかして、爺さんも試してたのか? うーん……」
白髪頭のオッサンは、顎に手を当て何やら考え始める。
ブツブツと聞こえてくるオッサンの呟きから察するに、爺さんってのがこのチーズ牧場を作った人物であり、安定したチーズ作りを確立させた人物でもあるらしい。
そしてアイスクリームって言葉を知っていたって事は、迷い人本人か、あるいはその人と親しかった人物だろう。
出来れば話をしてみたかったが、故人ではどうにもならない。
リョーマ氏もそうだが、生きてるうちに会いかったな。
会ったこともない故人に思いを馳せていると、白髪オッサンが何やら古臭いノートというか藁半紙を束ねたモノを持ってくると、ミルク缶の隣に広げて見せた。
オッサン曰く、彼の祖父がウージィミルクに関して書き記したメモ帳らしい。
素人目に見てもかなり大切なものだと思うのだが、初対面の俺に見せて良いモノなんだろうか?
「あーいや、これは爺さんが遺したメモなんだけどな。爺さんにしか分からない文字で書かれてるから、全然分からないんだよ。それなんで分かりそうな人が来たら、このメモを見てもらってるんだ」
なるほど、言われてメモを見てみれば、そこに使われている文字は日本語だった。
やはりチーズ牧場を創業した爺さんとやらは、迷い人……しかも日本人で確定だな。
かえすがえす故人なのが惜しい。
しかし、これではこちらの言葉しか知らないであろう、白髪オッサンには解読不能だろう。
祖父の遺したメモが全く読めないのは色々と不便だろうし、それなら例えチーズ作りのノウハウが流出するリスクを負ってでも、分かりそうな人に読んでもらいたいのかもしれん。
もっとも、チーズの作り方が分かったとしても、実際に事業として軌道に乗せるのはまた別の苦労が必要だろう。
俺は牧場で働いた経験は無いが漫画とかで見た感じだと、牧場経営って金も人も時間も物凄くかかるだろうし、そう簡単には商売敵にはならないだろう。
というか、供給量からすると需要に全く足りてないから、むしろ同業者が増えるのは大歓迎なのかもしれん。
ただ、一つ気になったのは、『分かりそうな人が来たら、メモを見せている』って部分だ。
日本語が読めるって事は、その人も迷い人の可能性が十分にあるからな。
もしかしたらシュリ以外の同郷の人に、生きて会えるかもしれん。




