第139話 副船長
「揺れるかもしれないから、その辺にでも座っててくれ」
「分かった」
操縦室に戻った俺は真ん中のキャプテンシートに座る。遠隔操作でも動かせるけど、それなりに面倒だからな。
一緒に付いてきたシャーロットは残り二つのシートでも使ってもらえばいいか。ってなんかウィンドウが出たな。なになに?
『MP1を消費し「シャーロット」を副船長に登録しますか? MP49/50』
へぇー、その席は副船長用だったのか。取り敢えずNOを押しておく。じゃあ隣の席は何になるんだ?
「シャーロット。スマンが反対側の席に移ってもらってもいいか?」
「は? ……まぁよかろう」
疑問に思っただろうが素直に移ってくれた。
『MP1を消費し「シャーロット」を副船長に登録しますか? MP49/50』
うーん、移ってもらったけど、結果は同じか……ってことは副船長は二人登録できるのかな。というか副船長って何が出来るんだ?
あーヘルプが欲しい。マニュアルでもいい。前々から不満に思ってたけど、この船というか機能って微妙に不親切だよな。
「で、ワザワザ移動させた意味はあったのか?」
おっといかん。心の中で愚痴ってたら、シャーロットが痺れを切らした様だ。
「あー実はな――」
って、ちょっと待て。バカ正直に伝える必要があるのか?
ただでさえ、やりたい放題やってるシャーロットを、何が出来るかは分からんが、それなりに権限のありそうな副船長に登録したらどうなるんだ?
……とりあえずビールと風呂がヤバい位か。今と変わらんな。じゃ、いっか。
「――お前を副船長に登録するかどうか迷ってな」
「副船長?」
「まぁ、何が出来るか分からんけどな」
「うーん、なんだか面白そうだから、やってみてくれ」
「いいのか? ひょっとしたら、命に関わるかもしれないんだぞ? 命に関わらなくても、俺から離れられなくなる可能性だってあるだろうし」
「あー、まぁその時はその時だ」
アッサリしてるな。五百歳超えともなれば達観してるのかね。おっと、彼女は十七歳だったな。
『MP1を消費し「シャーロット」を副船長に登録しますか? MP49/50』
ずっと出たままだったウィンドウのYESを押す。変化はないな。いや、ウィンドウが変わったな。
『副船長の権限を設定してください □操縦 □船内調整 □上限解放 □種類追加 □魔力供給……』
……なるほど副船長の権限を設定できるのか。多分ここに出てる事は船長でも出来るんだろうな。そのうちのいくつかを彼女も出来るようにするってことか。
とりあえず、操縦と魔力供給だけチェック入れておくかね。他の上限解放とかは何かイヤな予感がするんでパスで。
「よし、これでシャーロットは副船長になれたぞ」
「おぉ、で、何ができるようになったんだ?」
「操縦と魔力の供給だな」
「操縦! もしかして私もこの船を操縦できるのか? もしかしてこれか? これで操縦すればいいのか? おお、分かる! 分かるぞ! 素晴らしい! なぁ、動かしていいか? いや、動かすぞ! ……ん? 動かないな? どうしたんだ? なぁ、ショータ。動かないぞ?」
操縦できると聞いてシャーロットが躁舵輪を掴む。ひとしきり騒いだ後、動かない事に気が付き、更に騒ぎ出す。ひょっとして副船長にしたの間違えたか?
「ちょっと落ち着け。いくら何でも慌てすぎだ」
「……スマン。だが飛空艇の操縦なんてしたことないからな。つい興奮してしまった」
そういや俺もこんなテンションだったっけ……いや、もうちょっとマシだった気がするな。
「飛空艇を動かすにはちょっとした手順があってな」
ちょいちょいとシャーロットを手招きすると、誰に聞かれる訳でもないのに、ゴニョゴニョと耳打ちする。
「本当に、そんな事しないと動かないのか?」
「信じるか信じないかは、お前次第だ」
「うぅぅ……」
「あぁ、やるときは思い切ってやった方が気が楽だぞ。これは実際やった者からの助言だ」
「……分かった。やってみる」
しばらく悩んでいたようだったが、覚悟を決めたのか大きく息を吸うシャーロット。そして……
「くぅぅぅぅぜんぜつごのぉぉぉ! ちょぉぉぜつここぉぉの飛空艇副船長!(中略)そう私はぁぁ!サンシャイン! シャーァァァ ボコォ ロッッットォォォォ! イエエェェェェ!!(ぜぇぜぇ)出航!!」(ブリッジしつつ)
うん、ボコボコにされたよ。




