第133話 愛称
どうしてこうなった……。
シャーロットの奴が、俺の事をショーちゃんと呼ぶのをやめさせるべく、俺も彼女の事をシャルと愛称で呼んでみることにした。
その結果、何故か彼女の夫になる事になった。
うん、訳が分からない。あれか? 真名的な、知られると己の全てを支配される的な名前でもあるのか?
だったらもっと分かりにくい名前にしておけよな。ちょっと考えただけで直ぐに思いつくような名前じゃ危なっかしいだろうに。
「いや、そういった類のものではなくてだな……その、笑わないでくれるか?」
「……保証は出来ない」
「だったら言わない」
「分かった。俺も言いたくないってのを無理に聞き出す趣味はないしな」
「す、少しも興味ないのか? 私の夫になるかもしれないんだぞ?」
「別に強制力があるわけじゃないんだろ? だったら、無かった事にすればいい訳だしな」
「そうか……」
そういってションボリするシャーロット。聞いて欲しかったのか?
「……はぁ、笑わないから言ってみろ」
「そ、そうか。しょうがないな。特別だぞ?」
イラっとしたが、ここでゴネても話が進まないとグッと我慢する。
「実はな……昔からの夢だったんだ。結婚したら旦那様にシャルと呼んでもらおうと。それまで誰にも呼ばせないと決めていたんだ」
「……それだけ?」
「それだけ、とはなんだ。私としては昔からの夢を壊されたんだぞ? そうだ、いっそショータを亡き者にすれば……」
「おい、物騒な考えはやめろ」
そんなことで殺されるとか、死んでも死にきれないぞ。何とか穏便に済ませなくては。
「えーっと……そうだ、シャロだ。俺はシャロって呼んだんだよ。ほら、シャルとは呼んでいないだろ? だからノーカンだ!」
「今言ったじゃないかー!」
ちょ、お湯の壁を突き破って来るな。まぁ、顔だけなんでスライムさんはボンヤリとしか見えなかったけどな。残念とは微塵も思ってもいないぞ? あとどこ見てんの? ちゃんと人の目を見て話そうね?
「おいおい……お前はそんな事でも言ったことにする気か?」
「むぐ……それもそうだな。わかった、ショータの顔に免じてそういう事にしてやるか」
「はいはい、ありがとうございます」
「返事がいい加減だぞ……まぁいい。しかし、シャルではなくシャロか……フフッ、愛する旦那様からではなかったが、これはこれでアリか。また一つ夢が叶ったな」
「夢?」
「あぁ、旅立つ前に叶えたいと願った夢の一つだ。まさか叶うとは思ってなかったがな」
「なるほどな」
「笑わないのか?」
「人の夢を笑う事はしたくないな。俺だってパイロットになりたいって夢を叶えるために、このスキルを選んだ訳だし」
あの時別のスキルを選んだとしたら、こうして彼女と風呂に入ってる事もなかっただろうしな。
「そうか……よし、なら特別に私の事をシャロと呼ぶことを許可してやろう」
「は? 何でそうなるんだ? 別にお前の夢を否定しなかった事と、シャロ呼びとは関係無いだろ」
「私が決めたんだから、無くはない。さぁ、私の名前を言ってみろ」
お前はどこぞの兄貴か。あと迫って来るな。スライムさんがコンニチハしてるぞ? まぁ、黙ってるけどな。警告でバレないといいな。
「あー、言ってもショーちゃんって呼ばない?」
「……保証は出来ない」
「だったら……まぁいいか。その…… 」
「……聞こえんな。もっと大きな声で」
「……シャロ! これでいいか?!」
「フフフ……シャロ、シャロ。フフフ……」
そういって両手を頬に当ててイヤンイヤンとしている。言うんじゃなかったか? だが零れた水は元に戻らないしな……諦めよう。
しかし、いつまでやってる気だ? 揉めば正気に戻るのか?
「おい、シャーロット。いつまでやってる気だ?」
返事が無い。タダの金髪褐色全裸美女のようだ。
「……シャロ」
「なんだ? ショーちゃん」
「だから、やめろって。せめてショウにしてくれ」
「ショウ?」
「あぁ、翔太だからな。どうせ呼ばれるならショウの方がいい」
ステータス見た時からずっと気になってたんだよな。翔太なのにショータになってるし。仕方ないから名乗るときもショータにしてるけど、出来れば『しょうた』と正しく呼ばれたい。
「そうか……ショウか」
洒落じゃないよな? よく言われてたけど。
「なぁ、ショウ」
「なんだ? シャロ」
「呼んだだけ」
だろうな。分かってて答えた俺も俺だけどな。あと、なんだ? このラブコメ空間は。そんな雰囲気に耐えられる年齢じゃないんだが。
若返ったとはいえ、中身はもっと年がいってるからな? そんなのは十代の若者がやってればいいんだよ。
「ま、まぁ普段はシャーロットって呼ぶけどな」
「まぁいいだろう。私も普段はショータと呼ぶことにする」
愛称で呼び合うなんて恋人と思われるかもしれないしな。特にガロンさん達にバレたら面倒だ。ガロンさんのあのニタニタ顔を、殴らずにいられる自信が無い。
その後は他愛のない話をした。といってもシャーロットからは食べ物の質問ばかりだったがな。もっと他の事だって聞いてもよかったんだよ?
あまり長湯にならないように気を使ったおかげか今回は彼女ものぼせる事も無く、無事に風呂から出ることが出来た。
風呂から出た後、シャーロットはマッサージチェアーに掛かっていくと言うので、ここで別れることにした。俺はこの後装備の手入れをしてから寝る予定だからな。
「じゃあ、俺は手入れがあるからな。あとソコで寝るなよ? じゃあ、お休み……シャロ」
「あぁ、お休み。ショウ」
あれ? 今のは恋人っぽい会話だったか? まぁ意識しなければいいか。気にしないことにして、脱衣所を出た。
~ショータが出て行った脱衣所にて~
「フフッ、シャロか……旅に出た時には思いもよらなかったが、人生何があるか分からないな。だったらアレも見つかるのかもな……」
そう一人呟きながら、マッサージチェアーに掛かり続けるシャーロットだった。
シャーロットといいアレクといい、なぜか風呂に入るとイチャイチャっぽくなるのは、裸の付き合いをしているせいだということで。
 




