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第130話 あたためますか?

 俺だけ塩カツ丼だった夕食会のあとは、ごく自然な流れで飲み会へと移行していった。尤も飲み会に参加しているのは俺とシャーロット、ガロンさんの三人だけだけどね。

 マデリーネさんはマロンちゃんを寝かせた後で来る予定だが、アレク君達三人は共同で借りているアパートに帰ってもらった。


 アレク君達三人も参加したかったようだが、流石に年齢がアウトだろ。まぁこの世界じゃ成人してれば飲酒はOKらしいけどな。

 あれ? そうなるとシャーロットも十七歳 ((自称))だから、アイツも禁止するべきか? ……まぁいいか。アイツの場合、止めても飲みそうだし。527歳? ナンノコトダカ、ワカラナイナァ。


 今回は俺もビールにしている。エールも悪くないが、やはりビールの方が口に合う。酒の肴は例によってカリカリ揚げだ。ただしウコッコゥの皮のな。

 コッコゥよりもワンランク上の美味さだったウコッコゥは、皮も美味いのだ。そこへガロンさんの手が加わっている。美味くない筈が無い。

 味付けは塩胡椒レモンに加え、隠し味に醤油を使ってるとガロンさんが教えてくれた。有難いことに、カリカリ揚げの為に少しだけ残しておいたそうだ。


「なーに、俺も美味いもんが食いたかっただけだ。それに後生大事にしまっといたって、ダメになるだけだしな。いい機会だったってことだよ」


 ガロンさん潔すぎだろ……そんなに潔いと醤油が定期的に入手可能ですよ、と言い出しにくい。

 でも碌に料理しない俺が持ってても正直宝の持ち腐れだろうし、逆にガロンさんなら更なる料理を作ってくれるだろう。

 そう、これは俺が美味しい料理にありつくための投資なんだ。


「そのことなんですが、実は……」


 といって、米と醤油をアイテムバッグから取り出す。途端にガロンさんの目付きが変わった。袋に入ってて中身が見えない筈なのに、調理スキルに反応したのだろう。いつもの気のいいおっちゃんモードから、料理人モードに切り替わる。


 醤油の入った紙パックも気になっているようだが、先ずは米の入った袋を開け中身を確認するガロンさん。そのまま生の米を齧り出す。


「こいつがコメとやらか……」


 初見(初食?)で米と判るとは凄いなと思ったが、さっきまでご飯食べてたし米の事も以前教えていたんだった。まぁ俺に同じ事が出来るかと聞かれればNOだがな。

 ひとしきり生米を齧っていたガロンさんだったが、本命(醤油)のパックを手に取る。少し手が震えているのは、一度は失ったはずの醤油を再び手にした喜びと、その時覚悟は一体という怒りによるものか。


 なんでそんなに詳しくわかるのかだって? さっきからパック持ったままガロンさんがブツブツ呟いてるからだよ。

 どうしようか迷ってシャーロットを見たけど、アイツはアイツでカリカリ揚げを食べてるし。おい、俺の分も残しとけよ?


 だが、ヤツは俺の視線に気付くどころか、更に食べるペースを速めやがった。コイツ気付いてやってるな?

 相変わらず呟いたままのガロンさんを放置して、カリカリ揚げ争奪戦に参加する。ガロンさんの分? 知らん! それよりもシャーロットに食われない方が先決だ。

 そんな争奪戦が引き分けに終わっても、ガロンさんはまだ呟いたままだ。というか器用なことに、呟いたままビールを飲んでいる。うーん……放置だな。


 それより酒の肴が終わってしまったんだよな。これはマデリーネさんが来る前に解散かな?

 いや、シャーロットが串焼きを巾着袋から取り出した。いつの間に用意したんだ? って屋台で買った時の分か。あの時買った十本がまだ残ってたらしい。

 そういえばと、俺も串焼きサンドが残ってたのを思い出す。でも夕食後に串焼きサンドは、ちょっと重いよなぁ。チラッとシャーロットの串焼きを見る。


「これは私の分だからな。やらんぞ」


 ぐぬぬ……ビール代を請求してやろうか。串焼きは貰えそうにないので、何かツマミになりそうなものは無いか探してみたが見つからない。

 結局冷めた串焼きサンドを片手にビールを飲む俺だった。アイツのは暖かそうでいいなぁ。そうだ温める魔法とかあるんじゃね?


「なぁ、こういう冷めたものを温めなおす魔法ってないのか?」

「温める? 焼くのならファイヤーボールとかあるが、温めるとなるとな……」


 ファイヤーボールじゃ黒焦げどころか、炭すら残らなそうだ。理想は電子レンジだけど、アレってどうやって温めてるんだ?


「なんというか、こう……お湯が沸騰するぐらいの温度を周りに保つ魔法みたいなの」

「うーん、こんな感じか?」


 そういってシャーロットは、自分の持っていた串焼きに手の平をかざす。するとどうだろう。串焼きが香ばしく焼かれているではないか。

 ただ温度が高い様で、早くも新たな焦げ目が出来始めている。あれでは温度が高すぎるようだ。


「それじゃただ炙ってるだけだ。もっと温度を下げられないのか?」

「無茶云うな。これでも一番下げてるんだぞ?」

「うーん、別の方法を考えた方がよさそうか」


 焼いたり炙ったりでは焦げるだけだ。茹でたのではビチョビチョになるしなぁ。

 そうだ! 茹でるのではなく、蒸せばいいんだ。水蒸気だと同じことになるだろうから。温めた空気を周りに集めるようにすればもしかしたら……。


「無茶云うな! 火に風に結界魔法まで使う必要があるんだぞ? いくら私でも、無理なものは無理だ」


 そうなのか……魔法って何でもアリかと思ってたけど、串焼きサンド一つ温めることすら出来ないんだな。


「魔法にだって出来ない事は沢山あるし、そもそも温めなおすために魔法を使うようなヤツなんて居る訳ないだろう」


 ここに居るんだけどな……魔法使えないけど。というか冷えたビールといい、魔法がある割に料理に応用していないのが不思議で仕方ない。何か理由でもあるのかね。

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