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第128話 伝説のレシピ

「ショータ。せっかく来たんだ。ついでにビールの補充もさせてくれ」

「……まぁどうぞ」


 違った。シャーロットの頭の中には食い気以外に飲み気もあったんだった。あと風呂もか。ある意味幸せでいいね。

 厨房から食堂に移動すると、シャーロットが巾着袋から空の氷ジョッキを次々に取り出し、テーブルに置いていく。まさかの作り置きだった。


 氷ジョッキが並ぶ光景に呆気に取られていると、「早くしないと溶けてしまうぞ」と急かさる。確かに見ててもビールが注がれることは無い。慌ててビールを注いでいく。

 注がれたビールは氷ジョッキごと巾着袋に仕舞われていくが、仕舞う度に出てくる空のジョッキを見ていると、ビールだけが収納されてるように錯覚してしまう。


 一体幾つのジョッキにビールを注いだのだろうか。出しては仕舞うを繰り返しているから、正確な数が分からない。一つだけ分かっているのは、巾着袋の収納力、マジどうなってるの? ってのとビールどんだけ出てくるの? ってことだ。二つだったな。


 こうなったらビールが尽きるのが先か、巾着袋の収納限界が先かのチキンレースだな。でも、ビールが尽きたらどうなるんだ? まさか後日トンデモない額の請求が来たりとかしないよな?

 だが、その前にシャーロットから待ったがかかる。どうやらビール側()の勝ちのようだな。


「とうとう容量が一杯になったのか?」

「いや、まだまだ入るが、これ以上は飲み切る前に美味しくなくなるだろうからな。ここまでにしておくとしよう」


 容量は容量でも、飲み切れる容量だったか。というか、あれだけの量を飲み切れるんですか、そうですか。

 実は一杯大銅貨一枚ですとか言ったら、どんな顔をするのだろうか。まぁ言わないけどね。でも案外アッサリ支払いそうだよな。ワイルド・ボアの報酬の金貨一枚ちょっとは、彼女に全て渡した訳だし。




 宿の食堂に戻ると、既に夕食がテーブルに並んでいた。メインは勿論トンカツだ。それにアレはまさか……


「ひょっとして唐揚げか?」

「そうだ。『勇者のレシピ』の内の失われた一つ、『カラアゲ』だ。まさかこの俺が再現できるとは思ってもみなかったがな」

「なんだ、その『なんとかのレシピ』ってのは」

「『勇者のレシピ』ってのはだな――」

「大昔にあった大戦前に生み出されたという、伝説のレシピですよ。なんでも勇者様が作り上げたとかって話です」

「ほー、もしかして『しゃぶしゃぶ』や『生姜焼き』もか?」

「あぁ、そう――」

「そうなんですよ。再現に成功した方は大変な名誉を授かったらしいです。ただ残念なことに、他にも様々なレシピがあったそうなんですけど、時代と共に失われてしまったものも数多くあるんです」

「そりゃぁ勿体ないな」


 もし残っていれば、もうちょっと食文化は豊かになってたろうに。


「でもなんで失われたんだ? そんなに美味しいレシピなら、普通保護するなり、広めるなりするよな?」

「それはだな――」

「なんでも、キーとなる調味料の入手が困難になったのが主な原因らしいです」

「アレク……ちょっと黙ってろ」

「ハイ! スミマセン!」


 ガロンさんよりアレク君の方が興奮してたようで、ちょいちょいガロンさんの話に割り込んできたが、今は大人しく配膳をしている。どうやら俺が間に入らなくても、無事弟子入りできたようでよかった。


「その調味料ってのが醤油だったんだがな、大昔の火事で製法が失われたりして、いつの間にか作られなくなったらしい。俺が手に入れたのは偶然だしな」


 そういえば、ガロンさんの醤油は何とかの魔道具から出てきたって言ってたな。これからは定期的に手に入りますよって言ってみたい。言わないけど。


「この『カラアゲ』も醤油を使ったレシピの一つだったんだがな。材料が分かっても調理法が分からないってんで、失伝レシピの一つになってたんだ」


 なるほど。通りで唐揚げの色が醤油っぽいこげ茶色してるわけだ。ってまさか?!


「ガロンさん。まさか使い切ったんですか?」

「あぁ、だが悔いはない。伝説のレシピの復活に携われたんだからな」

「そうなんです! ガロンさんはレシピ復活のために、貴重な醤油を使う決断をしたんです! 流石です! カッコいいです! 憧れます!」

「……アレク」

「ひゃい、スミマセン。スミマセン」


 あー、あれは単に照れてるだけだから、そんなに怖がらなくてもいいぞ。まぁアレク君の事は置いといて……そっかー、使い切ったかー。もっと別な使い道もあったろうに、今回の為に使ってくれたのかー。

 あー、もういいや。これで裏切られても、後悔はしない。おれはガロンさんの心意気に応えたい。


 でも食事が先だけどね。シャーロットは既に席についてるし、ご飯の入った鍋も隣のテーブルに出してある。あとは俺達が座れば食べ始められる状態だ。


 クレアは「さっさと座りなさいよ」と睨んで(目で脅して)るし、ベルは既に涎を垂らしている(スタンバイ済みだ)

 マデリーネさんはいつもと変わらないニコニコ顔だが、マロンちゃんは「お腹がすいたよぅ」と呟いている。


 これはいかんと急いでシャーロットの隣に座る。続いてアレク君がクレアとベルの間に座り、最後にガロンさんが大皿と共にマデリーネさんたちの間に座る。


「よし、じゃあサッサと食えや」

「「「「「「「はーい」」」」」」」


 七人・・の声が唱和され、食事会が始まった。

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