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第120話 ソース

 おまけで貰ったナイフは鞘とベルト付きだった。柄が短いので、咄嗟に取りやすい右側に下げておくか。その辺は追々調整して、自分のスタイルを決めていこう。


 鞘からナイフを抜き、眺めてみる。ナイフと聞いてチンピラが持ってそうな刃渡り十センチ位のを想像してたが、思ってたよりもデカい。というか、鞘からして明らかにデカかったんだから、当然と言えば当然か。


 しかし刃の厚みといい大きさといい、これって鉈だよな? 尤も俺の知ってる鉈は、こんな感じに先っちょが尖ってないけどね。

 これなら戦闘用としてだけでなく、森の中を進む時に枝を払うのにも使えそうだし、解体用としても使えそうだ。

 軽く振ってみるが、問題はなさそう。まぁ槍に比べれば軽いしな。あとはレベルアップの影響もあるのか。


 シャーロット(教官)からも「武器は一つだけでなく複数あった方がいい」とのアドバイスも貰ったし、いい取引が出来た気がする。


「あとついでに、これもね」


 そう言って渡されたのは三つの砥石だった。三種類あるのは、荒砥用・中砥用・仕上げ用だったかな? 昨日アレク君に教わった覚えがある。これは助かるな。三つもあるから、ちょっと重いけど。


「何から何まで、ありがとうございます」

「いやいや、僕の方こそお礼を言わせて欲しい。ここだけの話だけどね……ここの所、フランったらスランプだーとか言って、サボり気味だったんだよ。

 でも、あの包丁を見て、何か感じたんだろうね。久しぶりに生き生きしたフランを見られたよ」


 そういってマルクさんは目を細める。おおう、中々のラブラブっぷりっすね。一人身には身に染みますよ。


 槍と皮鎧に加えて、皮の盾とナイフを装備する。マントにリュックを背負えば、一端の冒険者っぽくなれたかな?


「まだまだ、ひよっ子もいいとこだ」シャーロット。

「だな」フランさん。

「ですね」マルクさん。


 フルボッコだった……。


 まぁ、冒険者になって四日目だしな。仕方ない仕方ない。マルクさんとフランさんに別れを告げて、宿屋へ向かう。

 なんだかんだで、お昼近くになっている。昼食は宿で食べるとしよう。きっとガロンさんが、なんか作ってくれるはずだ。

 シャーロットも同意している。いや、お前さっき串焼き三本食べてたよね? 巾着袋もだけど、お前の胃袋も大概だな。




 ガロンさんの宿の前に着いたが、マロンちゃんのお出迎えはなかった。まぁ昼時だし、中に居るのだろう。そのまま宿の中に入る。

 無人の受付をスルーして、食堂へ向かう。居るとすればここだろうしね。案の定、マデリーネさんとマロンちゃんが食事中だ。あれ? ガロンさんは?


「あっ、シャーロットお姉ちゃんたちだ。おかえりー」

「あぁ、ただいま。っと食事中だったか」

「あぁすみません。あの、もし良かったら、ご一緒にいかがですか?」

「そうだな……ご迷惑でなかったら、御相伴にあずからせてもらおうか」

「どうぞどうぞ」


 ……ひどい三文芝居を見てた気がする。シャーロットよ……もう少し食い気を抑えとけ。マロンちゃんは「たくさんたべてねー」って気にしてないけど、マデリーネさんにバレバレだぞ?

 折角なので、俺も席に着く。メニューは、テーブルの真ん中にあるビーフシチューっぽいのが入った鍋一品のようだ。二人分にしては大き目の鍋から、各自よそって食べる。


 さっそく一口。……あれ? 思ってたよりも今一つな感じがする。いや、十分美味しいとは思うんだけどね。ガロンさんが作ったにしては、何というのかな……ぶっちゃけ美味しくない。

 正直試作途中の料理を食べさせられた感がある。シャーロットも同様の感想を抱いたのだろう。彼女も微妙な顔をして食べている。


「正直に言っていいのよ? なんかイマイチな味よね」

「いやっ、そんなことは」

「そうだな。これならアレクのスープの方がずっと美味かったな」


 マデリーネさんの言葉にシャーロットが同意する。聞く方も聞く方だが、馬鹿正直に答える方も答える方な気がする。


「昨日から、ずっとこんな調子なのよ。『とんかつ』っていったかしら? それ用のソースを作るんだって言って、厨房に籠りっきりなのよ」

「そうだったんですか。ひょっとして、このシチューは?」

「ソース作りの失敗作ってところかしらね。まぁソコソコの美味しさではあるけど、普段の主人の料理から比べるとねぇ……」


 どうやらガロンさんはソース作りに励んでいるようだ。本当はソースも作って欲しかったけど、残念ながら俺もとんかつソースのレシピなんて知らない。

 まぁトンカツなら塩かけて食べればいいやと思って、ソースの事は伝えていなかったのだ。


 だがガロンさんは、トンカツを試食してソースの必要性に気付いてしまったのだろう。たった一晩でデミグラスソースもどきの、ビーフシチューを作り上げている。

 さすがはガロンさんだと感心するが、何かが足りないのだ。多分最後の一ピースが足りていないんだろう。

 その一ピースを埋めることが出来るのは、本来のとんかつソースの味を知る俺ぐらいだろう。そう思い立ち厨房へ向かう。




 そこで目にしたのは、真っ白に燃え尽きたガロンさんの姿だった。

17/08/17

馬鹿正直に答える方も答える方無きがする。→馬鹿正直に答える方も答える方な気がする。



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