第118話 クォートとパイン
ギルドを出てガロンさんの屋台へ向かう。この道も慣れたもんだ。時間的には昼前だから、屋台をやってるか微妙なところだけど、まぁその時は宿へ向かえばいいか。
屋台の前には既に行列が出来ている。どうやら営業中のようだ。今日も二人体制で客を捌いている。
注文するわけじゃないけど、割り込むと睨まれそうだから大人しく並んで待つ。
焼き手は相変わらずクォートさんらしい。彼は、ガロンさんがこの屋台を開くにあたって世話になったって人で、ガロンさんの弟弟子にあたる人だそうな。
一時事情があって料理の世界から離れてたらしいけど、結局ガロンさんに捕まって引き摺り戻されたようだ。
ガロンさん曰く、「腕は悪くねぇんだが、もうちょっと覇気というか、強引さが足りねぇんだよな」らしいが、ガロンさん基準なら大抵の人は覇気が足りないだろう。
だが、料理の腕はガロンさんに引けを取らないように見える。ここ数日、毎日屋台を手伝っていたんだろう。以前に比べて、明らかに手際が良くなっている。この分ならガロンさんを超える日も近いかもしれない。
いや、ガロンさんが「バカヤロウ! 俺の本気はこんなもんじゃねぇぞ」って言ってるような気がする。じゃあ、まだまだ先なのか。
まぁ一生懸命焼いているクォートさんは置いといて、ガロンさんにウコッコゥで料理を作ってもらえるか頼まないとね。
さっきから並んでいるが、やっとクォートさんの前だ。ガロンさんまではあと4人か。
しかし、この行列の向きも巧妙だよな。焼き手の方へ列が伸びているから、焼いてる様子を眺めたうえでの注文になる。当然予定以上の本数を頼みたくなるよな。実際一本だけって人は少ない。二本ないし三本ぐらいは普通に買っていってる。
一昨日来た時は反対側に伸びてた覚えがあるから、昨日か今日あたり改善したんだろう。おっと、そうこうしているうちに順番が回って来た。
まずは注文からだな。って、誰だ?! ガロンさんじゃない! 雰囲気がガロンさんに似てたから気が付かなかったけど、声が違う。甲高くなってる。髭もない。一昨日までモジャモジャだったのに。
顔は髭の無いガロンさんだ。もしや? と思い胸元をチラッと見る……デカい。シャーロットほどではないが、明らかにある。
えぇぇ! ガロンさん、女になっちゃったの?
「あら、お客さん。コレが気になる? でも残念ねぇ。コレは非売品なのよ」
「あ、すみません。つい……じゃなくて、あの……失礼ですがガロンさんですよね?」
「はぁ? プッ、アッハハハ……あー可笑しい。兄さんに似てるとはよく言われるけど、本人と間違えられた事は無かったわね」
「あ、ショータさん。いらっしゃい」
ガロンさんの妹さん? に大笑いされてるのにクォートさんが気が付いたようで、焼きながら顔を上げて挨拶してくれた。
「クォートの知り合い?」
「ほら、例の人だよ」
「あぁ、アレの……えーっと、パインといいます。兄がお世話になっております」
「いえいえ、こちらこそお世話になってます」
「いえいえ、こちらの方こそ……」
「いえいえ、俺の方も……」
――ツンツン
横から突かれる。シャーロットだ。振り向けば、シャーロットと並んでいる人達がジト目だ。サッサと注文しろオーラが漂っている。やべっ。
「えーっと、串焼き二本と、サンドを一つください」
「はいな、全部で大銅貨五枚だね……銀貨一枚のお預かりだから、大銅貨五枚のお釣りだね。はいお待たせ。熱いうちに食べてくれよ! ハイ、待たせたね。ご注文は?」
「そうだな。串焼きを十本とサンドを五個もらおうか」
「はいよ! ちょっと数が多いから時間がかかるけどいいかい?」
「私は一向に構わん!」
いや、後ろの奴らの事も考えろよ。代わりに頭を下げる俺。って、なぜ俺が? 解せぬ……まぁ待ってる間に、ガロンさんのことを聞いとくか。
「あの……ガロンさんって今日は来ていないんですか?」
「兄さん? なんか今朝から厨房に籠りっきりみたいよ。おかげでアタシが急きょ代わりに来たって訳。いい迷惑よね」
なるほど、ガロンさんは宿か。
その後、さほど待たずにシャーロットの分も完成したようだ。どうやら彼らにとって、あの程度では大量注文って訳でも無いらしい。
宿に行く道すがら、クォートさんの焼いた串焼きを食べてみる。
「うま!」
「あぁ……これならガロン殿と比べても、なんら遜色ない」
「ガロンさんも、うかうかしてられないだろうな。もしかしたら今日来てないのも、危機感を感じて修行中だったりしてな」
「まさか……と言いたいところだが……」
まぁ宿に行けばわかるか。あぁ、その前に壊れた盾を何とかしないとだな。
先にマルクさんとフランさんの武器屋に行くとしよう。




