第1172話 火龍式乾燥法
「キャス姉ぇ!!」
「きゃっ……って、クレアじゃない。いきなりどうしたの?」
村長さんの家に着くと、丁度外で洗濯物を干していたクレアによく似た女性にクレアが飛びついた。
久しぶりにあう姉に飛びつきたいのは分かるけど、相手は洗濯物を持っているうえ背中に赤ん坊を背負っているのだ。
そんな所に飛びついたら転倒する危険があるだろうが。
同じことをベルも思ったのか、抱き着くクレアとキャス姉ぇさんの二人を丸ごと抱きかかえた。
家系なのか二人とも似たような体格なので、ベルなら余裕で抱きかかえられる。
もっとも、体格は似たり寄ったりだが、テイムしているスライムさんは全く違うけどな。
授乳中の一時的なモノなのか、それとも天然モノなのかは不明だけど、クレアが「アタシも子供を産む!」とか言い出していないから、多分天然モノなんだろう。
片やリッパなスライムさんを持ち旦那と可愛い息子をゲットした姉。
片やチッパなスライムさんを持ち冒険者暮らしの妹。
運命とは残酷なモノである。
余談になるが、クレアの祖母の当たる人はクレアソックリなヒトだったらしい。
クレアのような気質、クレアのようなドリル、クレアのようなスライムさん。
前の二つはともかく、最後のだけは似なくても良かったのに。
遺伝とは残酷なモノである。
俺が遺伝子の罪深さを憂いている間にクレアがエレさんを紹介し、ついでにケチャップの話もし始めてしまう。
そうなると子守りと洗濯物を干す担当がいなくなってしまうため、話に参加しない俺達で代わりを務めることにした。
ケチャップの話はフベルトゥス商会とウルザラ村の間で詰めるべき案件であり、村の関係者である『麗しき暁の旅団』の三人はともかく、俺やシャーロット、シュリ、それにレイアちゃん一家は無関係に等しい間柄だしな。
手の空いている俺達が代わりにやっておくべきだろう。
俺達がせっせと洗濯物を干している間、ゴルナさんが赤ん坊の面倒を見てくれている。
赤ん坊といえば人見知りで下手な人が抱けば二秒でむずがるモノだが、ゴルナさんのあやし方が上手いのか、赤ん坊は大人しくゴルナさんの腕に抱かれている。
流石は一児の母である。
決してゴルナさんに潜む、絶対強者の風格を感じ取っていた訳では無いはずだ。
もしくは、よっぽど赤ん坊が豪胆なのかもしれん。
ただ、時折ゴルナさんが赤ん坊を抱く姿を、レイアちゃんがジーっと見ているのが気になった。
もしかしてお母さんを取られたのかと思っているのだろうか?
あるいは羨ましいと思っているのだろうか?
だとしたら安心して欲しい。
ゴルナさんのベビーシッターは、あくまで話し合いの間の一時的なモノであり、レイアちゃんの母であることには変わりないのだからな。
レイアちゃんの視線に気付いたゴルナさんが、レイアちゃんを手招きしている。
その手招きに初めは遠慮していたレイアちゃんだが、やがてはおずおずと寄っていき、最後は赤ん坊と一緒にその腕に抱かれていた。
うーむ、流石はお母さんだな、愛情表現が絶妙だ。
ナイス親子関係。
その光景に衝撃を受けていたのがレウスさんだ。
なぜか一緒に洗濯物を干していた火龍の王様は、その手を止めるとレイアちゃんに向かって手招きをし始める。
しかし、レイアちゃんは、その手招きには応じなかった。
どうやら父の腕の中より、母の腕の中の方がいいらしい。
ショックを受け、洗濯物を干す手が止まるレウスさん。
いわゆる「パパ嫌い」なのだろうか。
いや、違うな。
母の腕の中ってのもあるが、赤ん坊に興味があるようだ。
さっきからゴルナさんの腕の中で眠る赤ん坊を、ジーっと見ている。
ひょっとしたら、レイアちゃんは初めて赤ん坊を見たのかもしれない。
その未知の生物に、興味を持ったようだ。
そのプニプニのほっぺをツンツンしたそうな、そんな顔をしている。
そのことに気付いたレウスさんは、赤ん坊に対して嫉妬の炎を燃え上がらせる。
火龍の王様が赤ん坊に嫉妬するなよ……まぁその影響なのか、干していた洗濯物がみるみるうちに乾いてったから良いけどさ。
ま、干した途端に取り込むことになったけどな!




