第116話 ウコッコゥ
どっかのアホが放置した魔石を取り込んだ事によって魔獣化したコッコゥ――ウコッコゥと呼ぶそうだ――に見つかってしまった俺達は、俺、アレク君、クレア、ベルの四人で戦いを挑む。シャーロットは観戦中だ。
ベルとアレク君がウコッコゥの正面を受け持ってくれている。ベルが背負ってた大盾を構え、斧でガンガンと叩く。
その音につられるように、ウコッコゥがベルに狙いを定める。なるほど、ああやって挑発するのか。
小手調べとばかりに、ウコッコゥがノーモーションからの突進を繰り出す。速い! が、ベルの大盾に阻まれる。そこへ、ベルの左側から飛び出したアレク君の剣が振り下ろされる!
その攻撃は見切っている! とばかりに大盾を蹴り、ヒラリと躱すウコッコゥ。だが、ヤツは宙に浮いた状態となる。
チャンスだ。俺は夢の中と同じように、宙に居るウコッコゥの左側目掛けて槍を逆袈裟に払う。
「な?!」
浮いた?! ウコッコゥは白い羽根を羽ばたたかせ、俺の槍を躱す。
そうか、コッコゥだって飛ぶんだから、ウコッコゥだって飛べるだろうし宙にも浮けるのか。あーでも、飛び方が違うな。
コッコゥはバタバタと羽ばたくけど、下手糞で結局落ちていくだけだった。
ウコッコゥの場合、同じようにバタバタと羽ばたき、その場でホバリングできている。あ、落ちた。あーあれはホバリングというより、必死にもがいて落ちないようしてただけか。
さらに、ホバリングはウコッコゥにとっても諸刃の剣だったらしく、その場で息を切らしている。
ここぞとばかりに畳みかけるべく、ベルが斧を振り下ろす……前にウコッコゥの右羽に矢が刺さる。クレアだ。彼女の放った牽制の矢が、たまたま当たったのだろう。
なんでわかるかって? だって当てたクレアが一番驚いた顔をしているのが見えたからな。
そこへ追撃の斧がヒットする。が、浅い。既の所で後ろに飛び退いたようだ。
第一ラウンドは10対9で俺達の優勢といったところか。ウコッコゥは刺さった矢を、嘴で器用に引き抜いている。思ってたよりも傷は浅そうだ。
「羽毛ね。あの羽毛が、矢を通しにくくしてるみたい」
「……」
魔獣化したことで防御力も上がってるってことか。矢を引き抜いたウコッコゥは、羽を広げ威嚇の構えだ。ここからが本番だな。
「さっきと同じ感じで、注意を引いててくれ。俺は後ろに回ってみる」
「……」
「気を付けてください」
アレク君達に頷くと、『隠密』を使いウコッコゥの後ろに回り込む。ウコッコゥはベルの挑発に釣られて、彼女の方を向いたままだ。
落ち着け……夢の中とはいえ、散々練習はしてきたんだ。練習は裏切らない……はずだ。
『隠密』を使ったまま慎重に、だが素早くウコッコゥの後ろに回る。ウコッコゥはベルの方を向いたままだ。コッコゥ同様、力を溜めてからの突進でもするつもりだろう。その前に仕留める!
大きく息を吸うと、そのまま駆け出す。『概観視』で見ていても、こちらに気付いている様子はない。イケる!
槍を捻るように突き出す。手応えは……ない。地面に突き刺さっただけだ。バカな?! 『隠密』が見破られたのか?
動揺する俺に、見えない攻撃がさく裂する。吹っ飛ばされる俺。何だこれは?!
「エアハンマーだ! ヤツは風系の魔法を使うぞ!」
シャーロットが叫ぶ。なるほど、風系魔法ね。おそらく『隠密』を見破ったのも、その類か。しかし見えない攻撃ってのは厄介だな。
さっきの俺への攻撃に味を占めたのか、ベルやアレク君にもエアハンマーを連発している。クレアの矢も撃ち落とされている。
更にはエアハンマーを自分に撃つことで、宙にまで舞うようになった。コイツ……空が飛べるようになったんで、調子に乗ってるな。いや待てよ?
「シャーロット! 魔獣のMPが尽きると、どうなるんだ?!」
「どうって……私たちと一緒なら、昏倒するだろうな。もしくは物凄くダルさを感じるようになる」
「聞いたな! クレア、矢を射かけてエアハンマーを誘え! アレクとベルもだ!」
俺の声に三人は頷くと、MP切れを狙うべくヤツの魔法を誘うように動く。クレアは碌に狙いも付けずに打ちまくっている。
近接攻撃の俺達は、攻撃二割の防御8割だ。いかな魔法といえど、来ると分かっていれば耐えられる。まぁ痛いけどな。ベルに至っては、上手に大盾に隠れてやり過ごしている。
よく見れば微妙にナナメに構えることで、正面から受け止めるのではなく、横へ受け流しているようだ。うーん、初っ端の防御といい、彼女の盾使いは参考になる点が多い。あとで教えてもらおう。
もちろん俺も槍を払って、空へ逃げるのを誘う。暫くこうした耐える戦いを繰り返していると、とうとうMPが尽きたのか、エアハンマーを撃ったと同時に動きが止まる。
昏倒には至ってないが、明らかに動きが鈍い。フッ、所詮はトリ頭か。魔法が使えるようになってニ~三日では、MP0になったこともあるまい。俺の作戦勝ちだ。
トドメは俺が刺した。命乞いをしているかの様な目で俺を見ていたが、お前から襲ってきたんだからね? 自業自得だよ?
トドメを刺したとき、力が漲って来る感じがした。おそらくレベルアップしたんだろう。そういや集団戦での経験値割り振りってどうなってるんだろうか。




