第115話 心得不足
「ほら、サッサと戻って魔法の練習するのよ」
「ちょっ、せめて槍ぐらい持たせろよ」
クレアの奴め、早く教わりたいからって急かしすぎだろ。荷物は背負ったままだったけど、流石に槍は地面に置いたままだ。慌てて槍を拾い、出発する。
他の奴らといえば、既に先に歩き出している。よく見たら、ガッツリ休憩してたのは俺だけだった。
(魔法の練習をしていたとはいえ、武器まで手放して休憩するヤツは流石に居ないぞ?)
(なんというか……スマン)
シャーロットから小声で注意を受ける。慣れた草原に出た為か、あるいは人が増えたからか。どうやら気を抜きすぎてたようだ。油断大敵とは正にこんな状態なんだろう。気を引き締めねば。
一度両手で自分の顔を叩く。バチンと大きな音がする。よし! 気合が入った。
「何よ、突然! びっくりさせないでよ!」
前を歩いていたクレアが、振り向く。大きな音にビックリしたようだ。
「えーっと……ごめんなさい」
「……まぁいいわ。次からは気を付けなさい」
「ハイ」
(あと、突然大きな音を出すのもな。下手をすれば、モンスターに見つかるからな?)
(重ね重ねスマン)
うーむ……俺には冒険者の心得的なものが足りてないのかもしれない。ソロだったら自己責任で済むが、パーティーでは連帯責任になる。その辺も覚えていかないとな。
(あとでその辺の心得も教えてくれると助かる)
(……まぁ、教えてもいいが、致命的なものだけな。細かいのは失敗して覚えろ)
(……分かった)
確かにアレコレ言われるより、取り返しがつく時に失敗して覚えるようにした方が、忘れなくていいか。
暫く草原を歩き、北門が見え始めたところでアレク君が、止まれのハンドサインをする。まさか、またワイルド・ボアが出たのか?
アレク君が指さす方向を見ると、なんか白い生き物が地面をつついている。ぱっと見、白いコッコゥだな。というかタダのデカいニワトリにしか見えない。
(あれは?)
(あれは多分ウコッコゥです。ボクも初めて見ました)
(ウコッコゥ?)
烏骨鶏みたいな名前だな。白いけど。
(魔獣化したコッコゥのことを、ウコッコゥとよぶそうです。ほら、羽毛が真っ白になってるじゃないですか? アレって、魔石が出来たせいで、黒から白になったそうですよ)
(だが、こんな町に近い所で魔獣化するとは珍しいな)
(そうなんですよ。町の近くで魔力溜まりが出来るのは考えにくいですから、もしかしたら魔石を取り込んだのかもしれません)
(誰よ……魔石なんて放置してたバカは)
あれ? この場所って……いや……まさかね……。
(なぁ……コッコゥってゴブリンの死体とかも食べたりするのか?)
(奴らは雑食だからな。多分食べるだろうな)
ニワトリと違って肉も食べるのか。
(もしその死体に魔石が残ってたりしたら、魔石も食べたり?)
(そういえば、普通の石を食べてる所を見たことがあったな)
石も食べるって……あぁ砂肝か。鳥類は歯が無いから、飲み込んだ石で食べ物をすり潰すそうだ。コッコゥにあっても、おかしくは無いだろう。
つまり……とあるバカが、ゴブリン倒す。解体ムリ。魔石を取らず、立ち去る。
コッコゥ、ゴブリン発見。当然、ついばむ。あれ? なんか石もある。食べちゃえ。
こ、これは……みwなwぎwっwてwきwたwwwケコー! ってなったのか?
ちなみにゴブリンの魔石は小指の爪程度のサイズらしい。コッコゥなら食べられるサイズだろう。
(スミマセン。なんか、心当たりありまくりです)
(まさか……魔石を放置したのか?)
「はぁ? バッカじゃないの?! 魔石を取らないで放置したら、アンデッド化だってするのよ? 魔石の回収は、冒険者の常識よ?」
「ちょ、クレア。声が大きい! 見つかっちゃうよ!」
(……)
「「あ」」
むしろアレク君の声で見つかった気がする。
「見つかったなら仕方ない! 何とか討伐するぞ! 各自散開!」
「バカ! 散開したら各個撃破されるわよ! ベル! 盾になって! アレクはスキをついて攻撃。アタシは距離をとるわ!」
「お、俺は?」
「アンタは……邪魔にならないように頑張って!」
「お、おう!」
シャーロットは? と、思ったら既に、離れた木の上で見ている。いつの間に? というかお前は親か! 木の上に立って見ている、と書いて親だ。木の上から飛び膝蹴りを喰らわすのが、モンスターペアレントだ。どうでもいいな。
どうやら彼女は見守るだけのようだ。確かにワイルド・ボアをも倒せる彼女が参戦すれば、アッサリ終わるだろう。
だが、それでは俺達の成長はない。獅子は我が子を千尋の谷に落とすという。今の彼女の心境も、同じことなのかもしれない。
「だったら、期待に応えないとな!」
立て続けに強敵が現れるのは、きっと主人公補正のせい(誰のとは言わない)




