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星とカレンダー~太陽系の物語

作者: 沢山書世

童話は、二作品目の挑戦です。自分なりの童話を書いてみました。

 むかーし昔、大昔の、宇宙が誕生してからしばらく経った頃のお話です。

 おとぎ話の始まりの部分で、昔々、と語り手がよく口にしますが、たいていの場合、それは現在から数百年程翻った時代のことを指しています。今回のお話は宇宙が舞台になっていますからねえ、その程度の昔はついさっきあったことでしかありません。億年単位で考えることがこの時代をイメージしやすくしてくれることでしょう。さあ、時代を遡ってみましょう。ずっと翻ることで我々の身体の細胞内に刻まれた記憶が、その時代を懐かしんでくれるかもしれません。その感覚をぜひ楽しんでみてください。

 宇宙が誕生してから延々と繰り返されていた星同士の衝突が日を追うごとに収まっていき、ようやくのこと宇宙に静けさが訪れてきました。私たちが暮らす太陽系がやっと形作られたようです。惑星たちが、太陽の周りを秩序を保ってゆっくりと回っています。

 おや? 惑星の並びが現代とは違っているようですよ。太陽から順番に見て行きましょう。月、火星、水星、木星、金星、土星、そして地球、天王星、海王星。我々が現在お世話になっているカレンダーの順番と同じですね。そうです、カレンダーはこの星の並びを一週間に見立てて作られたものなのです。一週間が初めて決められた時、地球と天王星、海王星を入れて一週間は十日間ありました。それが長すぎると言う理由から一日ずつ減らされていき、七日一週間へと引き継がれてきたのです。残念ながら当時のカレンダーは今のところひとつも現存が確認されてはいませんが、いつか発見されることを願ってやみません。

 ありゃ? 地球が何事かぶつぶつと言っていますよ、ちょっと聞いてみましょう。

「この場所って、なんか寒いんだよなあ。太陽からはずいぶんと離れたところだからなあ、きっとそれが原因なのだろう」

 目を細めて眺めると、はるか遠くに光る太陽が見えてきます。

「土星さんの辺りまで行けば暖かくなってくれるかもしれないな。このまま寒い思いを続けるのはしんどいや、ひとつ引っ越しをすることにしよう」

 土星に向かって旅立った地球。両極から出した羽をパタパタと振り続けます。

「しばらく自転運動しかしていなかったからなあ、身体を動かすのはけっこう疲れるなあ」

 土星までの距離がかなりありますし、前進するスピードもそれほど速くはありません。土星にたどり着くまでに一億年がとこかかってしまいました。

「土星さーん」

 土星は太陽系では二番目に大きな星です、おしゃれで、女性に弱いのが特徴です。

「おーい、帽子の似合う土星さあーん」

「やあ、なんだい、地球さんかあ。遠いところをよく来なすったねえ」

「あいかわらず輪っかがおしゃれですねえ」

「ありがとう、似合うかなあ」

「ずいぶんと、様になってきていますよ」

「そうかい。そう言ってくれると報われるなあ。ここまでになるのにはずいぶんと年月がかかっているからねえ」

「そうでしょう、そうでしょう。いつも見とれていたんですよ。宇宙でも屈指の存在ですよ」

「いやあ」

 まんざらでもない様子の土星。地球はこのタイミングをのがしません。

「時に土星さん、ここの居心地はどうですか?」

「うん、すこぶる良くてねえ、僕は満足しているなあ」

「そうですか。でもここにいると、せっかくの帽子が日焼けしちゃいますよ。太陽からもっと離れた場所に移動した方がいいんじゃあないのかなあ」

「そうかい? ここも結構離れていると思うんだけどねえ」

「毎日のことですからねえ、太陽エネルギーを休みなしに受け続けていれば、小さな日焼けも積み重なってダメージになりますって」

「そうかねえ」

「そうですよ、そうに違いありません。そうだ、ちょうど私のいたところが今空き家になっていますから、どうぞ使ってくださいな。取り返しがつかなくなってからでは遅いですからね」

「引っ越すのかい? なんかめんどうだなあ」

「ご近所の天王星さんと海王星さん、女性ですよ」

「なに! そうなのかい」

 土星は地球の話術にはまり、陥落しました。

「それはいいことを教わった、さっそく引っ越すとしよう。どうもありがとう」

「何のこれしき、お礼をいわれるほどのことではありませんよ」

 地球は引っ越していく土星に向かって、羽を振りながら見送っています。

「暖かいなあ、ここに引っ越してきたのは正解だったなあ」

 まんまと土星の居場所を頂戴した地球、ここで暮らすことにしました。

 が、そこでめでたしめでたしとはいきません。

「以前いた場所よりもずっと暖かいや、こいつはありがたい、ありがたい」

 そう言っていたはずなのに、年月が経つといつしかその環境にも慣れてしまったようで、暖かさを感じなくなってしまったようです。

「もっと暖かい場所で暮らしたいなあ」

 太陽を見つめている視界の中に、金星が入っています。

「こんどはあそこに引っ越すとするか」


 パタパタパタ

「やあ金星さんこんにちは」

「これはこれは、地球さん。こんなところまでやってきて、いったいどうしたというんです」

「暖かさを求めて旅をしてきたんですよ」

「そうでしたか。それはごくろうさまです」

「あれ? ここは僕が思っていたほど暖かくはないなあ」

「そうですか。がっかりさせてしまいましたかねえ」

「金星さんのせいじゃあありませんよ。しかたがない、もうちょっと先まで行くか」

「ちょっと待ってください」

「はい?」

「これ以上先に行くのは、やめといた方がいいのではないかと・・・」

「なにか心配事でもあるんですか?」

「この先には木星さんがいるんですが、とても大きな星でしてね」

「そうですか」

「もしも彼が乱暴者だったりしたら、どんな目に合わされるか・・・」

「いじめられるとでも?」

「そうですよ。こら、俺の縄張りに入るんじゃあない! とか言ってひっぱたかれたりしませんかね」

「ひっぱたかれた勢いで太陽の近くに飛ばしてもらえれば、暖かくてそれはそれでラッキーなことですなあ」

「なるほど、そういったのん気な考え方もあるんですな」

「悲観的な考えばかりしていては、旅は出来ませんからねえ」

「なるほど、それを聞いたら不安が引っ込んでくれました。私も温かいところに行ってみたい。ひとつ私も連れて行ってくださいな」

「どうぞどうぞ、旅は道ずれと言いますからね。長旅には仲間がいた方が心強い、僕としても大歓迎ですよ」


 二人が見つめる先に木星がいます。太陽系の中で一番大きな惑星です。性格は親分肌。

 パタパタパタ

 そろって羽をばたつかせながら木星を目指します。これまた一億年かけて、やっとたどり着きました。そして、こそこそと作戦会議を始めました

「ほんとうに大きい星だなあ」

「そうでしょ。ひっぱたかれたら、太陽のずっと向こうまで飛ばされてしまいかねない」

「今よりももっと寒いところまでいっちゃったりして・・・」

「それは困る、やっぱりここは引き返すとしましょうよ」

 弱腰の金星がそう言っています。

「大丈夫大丈夫。体格ではかなわなくても、口先ひとつで乗り切って見せますよ」

 土星とのやりとりで実績のある地球は自信満々です。

「そうですかあ」

 不安げな金星をなだめて、地球が木星との交渉に入ります。

「木星さん、木星さん」

「やあ地球さん金星さん、なにかな」

「あなたは大きいんだからさ、列の後ろに並んでもらえませんかねえ」

「後ろというと?」

「太陽から離れた方に行って欲しいんです」

 地球が羽で指し示します。

「あっちにかい」

「ええ」

「それはいやだね。僕はここが気に入っているんだ」

「なんとかなりませんか」

「ならないね、うだうだ言っているとひっぱたくぞ」

「木星さんが、力持ちなのは知っています」

「だったら、痛い思いをする前に行った行った」

「そこを曲げてお願いします。みんなを後ろから見守っていてくださいな」

「見守る? なんだいそりゃあ」

「土星さんと一緒に太陽系を警護して欲しいんです、お願いしますよ。土星さんだけではどうも頼りなくって、一番頼りになる木星さんが守っていてくれれば我々太陽系の惑星一同はもう安心して暮らせるというものです」

「頼られると、俺は弱いんだよなあ」

「よろしくお願いします」

 二人して頭を下げる。

「よっしゃ、ここは一肌脱ぐとするか」

「ありがとうございます」

 まんまと木星の位置を手に入れた地球と金星、ほくほく顔です。

「暖かい暖かい」

 月日は流れ、ここの暖かさにも満足がいかなくなってきました。

「この際だから、先頭まで行ってしまおうか」

 地球が金星に提案する。

「私もご一緒しますよ」

 二人はまた旅を始めました。


 水星は太陽系で一番小さい星です。

「水星さん、ちょっと庭先を通してくださいな」

「どうぞどうぞ」

「失礼しまーす」

 水星の横をゆっくりと進んで行く。

「それで、お二方はどちらまでいらっしゃるの?」

「実は、先頭に出てみようと思いまして」

「そうですか、いってらっしゃい」

「いってきます。どうもおじゃましました」

「いいえ、道中お気を付けて」


 先頭の火星に到着した地球と金星。

「火星さん、もう充分温まったことでしょう」

「温まったというよりも、暑くてゆだってしまっているんだよ」

「だったら引っ越しをされたらどうです?」

「引っ越す? おお、その手があったか」

「そうですよ。我慢していることはないですよ」

「でも、引っ越すといっても、どこへ?」

「我々が以前暮らしていた、木星さんの手前の場所が開いています。どうぞそこを使ってください」

「そうかい、わるいね。じゃあお言葉に甘えて、移らせてもらうとしよう」

「どうぞどうぞ」

「ご親切にどうも」

「道中気をつけて」


 とうとう先頭に立った二人、その喜びもつかの間、すぐに暑さがこたえ始めた。

「こりゃ暑すぎるわ、僕ものぼせちゃったよ」

「火星さんが逃げ出すわけだなあ」

「あちちちい」

「こりゃたまらん」

「引き返すとしましょう」

 回れ右をして戻ろうとする二人に、後ろから声がかかった。

「ちょっと待ってください」


「誰だい?」

 振り返る地球と金星。見るとかなり小さな星が二人に向かって手を振っている。

「月です」

「火星さんではなくて、君が本当の先頭だったのか」

「そうなんですよ」

「ずいぶんと暑いところにいるんだねえ」

「小さい星なので、自力では引っ越せないんですよ」

「そうか、それはかわいそうに」

「お願いだから僕も連れて行ってください」

「どうしようかなあ」

「夜を明るく照らしますから、頼みます」

「それは助かるなあ」

「でしょ、でしょ」

「いいよ、ついておいで」

「ありがとうございます、よいしょっと」

 地球の軌道に乗っかる月。

「あちちちち、さあ急ごうか」


 再び水星の横を通った三人。地球が叫びます。

「水星さん、あなたの持っている水を僕達にかけてくださいな。身体を冷やしたいんです」

「水をかけてあげたくとも、あいにく柄杓があそこにしかないんですよ」

 水星が指し示すはるか遠くに北斗七星が見える。

「あそこまで行っている時間はないな、引力を使うとするか」

 水星に近寄って、いきむ地球。

 どどどどど

 水星にあった水が一気に水星から地球へと移っていく。それと同時に、あたりに大きな虹がかかった。

「うわあ、綺麗なものだなあ」

 金星が見とれている。

 どどーんんん・んん・ん・・・

 水の移動が終わるとともに、虹も消えた。我に返った金星が叫ぶ。

「あっ、水星さん、私にも水をくださいな」

「ごめんなさい、水は地球さんに全部移ってしまったの」

「そんなあ」

「すみません」

「地球さん、私にも水を分けてください」

「それどころじゃないんだ、水が煮立って熱湯になってしまったんだよ。あちちちちちい」

 地球の表面でお湯がぐつぐつといっている。

「げげげ、そうとう熱そうですねえ。それはちょっと貰いたくないなあ」

「冷えたら分けてあげるから、それまで待っていてくれ」

「解りました、羽で扇いで我慢しているしかないようですね」

「寒いところまで移動して冷やしたいには冷やしたいんだけど」

「長旅をする気力も体力ももう残っていないからねえ」

 金星と地球は、水星の横の場所で並んで休むことにしたようです。


 約束があってから数億年後の現在。月日が経ったおかげで地球の水の温度は下がりました。やっとひとごこちついた様子です。

 一方の金星はというと・・・ちょっと空を眺めてみてください、金星からは朝と夕方にチカチカと地球に向かって合図が送られていますよ。羽をぱたつかせているんですね。そろそろ水が冷めただろうから、こっちに分けてくれという催促の信号のようです。

「私の方が太陽に近いんだから、地球さんよりも暑いんですよ」

 そう言いたいわけです。

 水の惑星として、気持ちよーく暮らしている地球。水を減らしたくはないということなのでしょう。知らんぷりを決め込んでいます。


 現在の太陽系の惑星配列は、こういった経緯があって、太陽から順番に水金地火木土天海という並びに変わりました。そんな変化を続けてきた太陽系の中で、カレンダーは頑張ってきました。一週間が七日と決められてから、星の配列が変わった現在でも、カレンダーの一週間は変更による混乱を避けるために、四十数億年経った今でも過去の順番を維持し続けているのです。変化は必然かもしれませんが、そんな中で、一つくらいは変わらずにいてくれるものがあってもいいのではないでしょうか。ずっと同じという安心感、カレンダーが、これからも変わることなく、太陽系に安心感をもたらし続けてくれることを願ってやみません。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アイデアがすばらしい。 テンポのいい文章。最後まで一気に読めました。 [一言] はじめまして。 天体が好きなので、読ませていただきました。大変素敵なお話でした。歴史の教科書に載せたいくらい…
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