逃走
文字数が少ないですね……。
ソフィアは、異世界の街の広場で、十人を超える兵士らに囲まれていた。
出入り口は抑えられていて、残りは遠巻きに彼女を囲っている。
一般人は見当たらず、広場を囲う様にある店にも、商人の姿は見えない。
遠くに見える城を見ながら、ソフィアはつぶやいた。
「なるほど、異世界へ送られた勇者の現れる場所は、複数あるものの限られていて、そこで兵士によってあの城へと送られるわけね……ね?」
自分の語尾に違和感を覚えたソフィアは、自分の話し方すら変わってしまったことを知った。
一体何に影響を受けたのかは知れないが、しょうがないことだと受け入れ、兵士の集団を突破しようか考える。
「おいおい、あんなのが今回の勇者なのか?俺達でも倒せそうな少女にしか見えないんだが」
「ははは、何なら犯すか?」
「おお、いいねぇ~。送るのが遅くなったとか何とでも言い訳は付く」
「そうだな。いいんじゃないのか?」
「知覚強化Lv3の力ね。なかなか便利じゃない。兵士は倒すで問題ないはず」
兵士らの会話を聞くために知覚強化を使った結果、勇者の使命とかはどうでもいいと思わされたソフィアは、自分の持っている武器を探す。
(市民は圧政させられているか……。腰にある明らかに初期装備の短刀のみで、ここを潜り抜ける必要がある。それに、私に人が殺せるか。あの時(・ ・ ・)とはわけが違う)
「……。そこの兵士達!!私の行く道を妨害するなら、容赦なく叩き切るわよ!!」
「はぁ?頭大丈夫か?こっちは十七人、少女一人で何ができる?」
「まあそうなるわよね」
(こっちは使い方のわからない魔法系統は一切使えない。兵士全員を相手にするのも、相手の力がわからない以上危険。だとすると、跳躍で地面を蹴って、家の壁と兵士を越えて、町の中に潜り込む。幸い人数は向こうが明かしてくれたし、知覚強化で全員の居場所は把握できた)
即座に作戦を組み立てたソフィアは、短刀を抜き、身構えた。
その姿は、剣術Lv1の効果なのかそれなりに様になっていた。
まさか本当に抵抗するとは思っていなかった兵士たちは、一瞬動揺する。
その隙を、ソフィアは突いた。
「せいっ!!」
叫び声をあげ、一気に走り始める。
その速度は彼だった頃のソフィアよりもかなり早く、兵士は誰一人として彼女を止めることはできなかった。
兵士のいない壁へと向かって走り、一瞬のための後、目測五メートルはあるはずの壁を、足を少し引っ掛けながらもジャンプ一回で越える。
そのまま屋根を伝って走り、大通りに入れる細道に降りた。
そして、周りに人がいないことを確認して、自分の状態を確かめる。
服装は、細道から見える人々とあまり変わらない、麻のようなものでできたシャツとズボン。
腰には鞘に入った短刀。
そして、短刀の鞘が引っ掛けてある腰に巻くタイプのポーチには、金の入っている巾着袋と傷薬らしきものが入っている木でできた箱、さらに砥石と髪留めが入っていた。
ちなみにポーチは紐で口を縛るタイプのものだった。
「まずは物価の確認と通貨の価値、最悪寝泊りする場所はどこでもいいとして、身分を証明できるものが必要かな……。後はご飯を継続して食べられる準備」
そして密かに、彼女はこう考えた。
(そしてやっぱり、町の把握!冒険者ギルドがあればなおよし!!とはいえ、浮かれて足元をすくわれては元も子もないし、今は見かけは少女なんだから、その手の輩はたくさんいるはず……。慎重に行動しないと)
ダークなファンタジーなども読んでいたソフィアには、典型的な中世ヨーロッパにある闇に関しても詳しかった。
娼婦街に暗殺者、腐った貴族に飢えた庶民。
ソフィアがこの世界で落ち着いた生活を手に入れるには、それなりの時間がかかりそうだった。
もう一つ上げておきます。