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少しして、雫は王都の中に転送された。
その頬は微妙に赤かったが、雫と空間の精霊『エレナ』しか、その理由は知らない。
そこにいた兵士の指揮官らしき人物が、雫へと近づく。
「君は、異世界から来たのか?」
「はい。私を勇者か何かとして城へと案内するんでしょう?早くお願いします」
「……ふむ。理解が早くて助かる」
髭を生やした強面の指揮官は、雫の対応に驚いたのか、すぐに城へと案内した。
ソフィアへの対応とあまりに違うが、実は彼らと、ソフィアと遭遇した兵士とは全く違う。
ソフィアが遭遇した兵士たちは、勇者たちに唾をつけておきたい貴族が自分の領土から呼んだのであり、貴族の名前で勝手にいろいろやっていたバカたちである。
一方雫と遭遇したのは、本来は城の付近の治安維持の部隊であり、かなり真面目な人物たちが揃っている。
本来同じ任務に就くことはないはずの彼らが同じ目的のために動いているのは、勇者が召喚されると予測される地点が二十か所以上あり、必要な人数があまりにも多かったためである。
雫は指揮官からこの世界の常識をいろいろと教わりながら、城へと向かう。
結果として、ソフィアが観察のスキルを乱用して知った事以外にも、いろいろなことを教わることができた。
曰く、人間によって数千年もの間大陸ごと統治されていた。
大陸の大きさは、隊長の言葉から推し量るに、大体ユーラシア大陸よりも少し大きいくらいのようだ。
しかし、最近になって魔族の動きが活発になっている。
魔族とは何者なのか、人間に分かっていることは少ないが、人数はそれなりに多く人より力も魔力も強い。
すでに、大陸の十分の一が魔族によって占領された状態であること。
これらに対応するため、勇者を召喚したこと。
他にも、この国以外にもいくつかの国が存在していること。
エルフ等のいくつかの種族が存在していること。
この世界の強さの基準は、冒険者ギルドが採用しているA~Eランクになっていること。
Eランクなら普通の町人で倒せるが、Dランクになると冒険者の協力が必要になり、Cになると普通の村でも壊滅しかねないこと。
Bランクなら一つの大きな街が滅びかねないこと。
Aになると、下手したら国が滅びること。
そして、歴史的にも数度しかないSになれば、大陸そのものから文明がなくなりかねないこと。
人間の強さは、敵がDランク以上なら同レベルの六人ほどがパーティーを組んで討伐するくらいのレベルであること。
同じランクの中でも、それなりに力の差はあり、特にB、Cランクになると、上位の一体と下位の百体ほどで戦っても無傷で上位が勝てるほどの差がある。
魔物と魔人は違い、魔物は自然発生するが、魔人は一つの種族であること。
雫は、これらの事をすべて頭に叩き込んだ。
「開門しろ!勇者様を連れてきた!!」
指揮官の命令で開いた門をくぐると、そこにはかなり大きい水の入った堀と、滑車式の上げ橋があった。
今は降りている橋を渡ると、再び別の門をくぐる。
周りを見回していると、エレナが話しかけてきた。
エレナも雫も、契約を結んだ後からややフランクな話し方になっている。
『普通、こんな風に素通りできるものじゃあないよね』
「やっぱりか。頼んでおいたのは設置しておいてくれた?」
『もちろん。いつでも合図ひとつで可能よ』
「よし、あとは、できれば姿を現さないで。ばれるかも知れないから」
傍目から見ると、雫がぶつぶつと、一人でつぶやいているようにしか見えなかったが、指揮官はこういうものだろうと放置していた。
ヨーロッパ風の城の中を案内され、大きな門の前に出た。
「ここが謁見の間?」
「そうです。私はここで失礼します」
去っていく指揮官には目もくれず、雫はこれからの行動を考えていた。
最悪、勇者たちを洗脳したりして魔族と戦わせることだって有り得るのだ。
しかし、いざとなれば保険を使えばいいのだからと、結構落ち着いていた。
伏線なのだよ……!




