3 名もなき世界
くだらない土曜日を終え、俺は更に無気力になっていた。もはや家はスティーブに占拠されたようなものだ。俺なんかいなくなってしまったほうが良い。
そういう思いが、より強くなる。
親バカだったはずの両親はすっかりスティーブに夢中だ。良いさ、俺も構わないでほしいと思っていたから。
そんな俺の気持ちを無視して、スティーブとスーパーに行って夕食の材料を買って来いと言われてしまった。仕方なく俺は下唇を噛みながら、奴と一緒に出かけた。
どこで間違えたのだろうか。それともこうなるのはもはや定められた事なのか。それを考える余裕はなかった。
「暗い顔ネー。どしたの」
「うるせぇよ。さっさと買い物済まそう」
近所なので徒歩で行く。普段から愛用しているので何処に何が置いてあるかはリニューアルでもしない限りすぐに取りに行ける。さっさと終わらせよう。そしてまた自室に閉じこもってゲームと動画を見るだけだ。
「……ソーデスカ」
気に食わない。こいつがいなかったら俺は今頃もっとボロボロだった。だからこそ気に食わない。腹が立ってしょうがない。
そしてまた俺に災難が訪れる。どこまで不幸になれば良い。どうすれば俺は光を手に入れられる。
会計後、俺はカゴをサッカー台に置いた時、隣の人の肩に当たってしまった。そして丁度その人は卵を手にしており、落としてしまった。
「げっ……すみません。弁償しますから……」
俺が悪い。間が悪い。
当たってしまった人は、よりにもよってヤンキーと来た。何故ここまで俺は神に見放されているのか。
謝るくらいならやんじゃねえよと胸ぐらを掴まれ、何も言えなかった。
「マーマー落ち着いテ。ネ」
スティーブが千円渡すと、そのヤンキーは余計に怒り出した。火に油を注いでくれた。
「金の問題じゃねぇ!」
怒りの矛先がスティーブに向いた。俺は放されたので、瞬間的に逃げるという選択肢を取った。ああ、情けないよな。
材料が、などと言っている場合ではなく、ただひたすらに逃げた。スティーブも追っかけて来た。
「逃げる必要あるの?」
「とにかく走れ!」
路地裏に駆け込み、ゼェゼェと息を切らしながらその場に倒れた。
ヤンキーは俺たちを見失い、戻って行ったようだった。
「君さ、なんでそんなに逃げるノ?逃げても現実は必ず君を追いかける」
「うるせぇ……」
うるさい。黙れ。
「君が現実を受け止めない限り、君は不幸になる一方だ」
「うるさいんだよ!俺の気持ちを知らないでよく言えたな!」
「知らないし、興味ないネ」
「なっ……!」
「それとも、知ってもらいたいの?なら、言わなきゃ。それすらも逃げるの?」
「お前、何なんだよ。何なんだよ⁉︎」
これまでの奴の雰囲気が一気に、ガラリと変わった。背筋が凍る。
「名もなき存在。世界を再構築するために送り出された尖兵。貴様のような人間の屑を殲滅する」
「は?何言ってんだよ」
やばい。俺の頭が全身に対して伝えてくる。逃げないと。
後退りながら、睨み付けていたが、不意に壁に当たる。壁……?ここに壁はない。
「無駄だ。既にこの空間は現実と分断され、貴様が逃げる事はできない」
「嘘だろ……」
摩訶不思議な現象。こんな事があり得るのか。
「こうやって何度も僕は……私は貴様のような人間を排除してきた」
スティーブ、いや、その男は仮面を被り、鋭い目で告げた。
「私は名もなき世界」