2 両親
「まああがれよ。きっと大丈夫だと思うぞ」
「ここがタケルのhome‼︎ Great‼︎」
スティーブを連れて帰宅した俺。昨日とは打って変わって元気だった。多分こいつのせいだと思うけどな。多分ではない、確実に。ところで、こいつアメリカンなんだろ? この平凡な家を見てグレートとか皮肉でも言っているのじゃないか?
どこかしら俺は捻くれていた。
母が玄関にやって来た。母は専業主婦で、いつも美味しい料理を作ってくれる。昨日は食べなかったけど。あ、俺も料理は得意な方なんだぞ。特に中華とかな。でもやっぱり母のが美味いから普段は任せている。
「Hi! I'm Steve‼︎」
「えっとぉ……」
こいつ、馬鹿だろ。いきなり名前言うとかさ。まだ何にも説明してないからな。仕方ないなあ。
「ごめんね母さん。えーっと、どっから説明しようかな。まずはこいつはさっき言ったとおりスティーブ。さっき助けてもらったんだ」
「ふむふむ、スティーブ君ね。で、助けてもらったって?」
「えっと……ま、またヤンキーに絡まれたんだ」
目を泳がせて言ってしまった。後ろめたいよ。
「ふぅん、またやっちゃったか。あんたもこりないねぇ」
「ごめん……で、その借りを返したくてうちに招待したんだ。こいつ帰るところがないらしくてさ。しばらく居候くらいできないかなーって……」
チラッと母の顔を見るとめちゃくちゃ輝いてた。
「いいわよ! てかすんごい美青年! 歓迎歓迎超歓迎! いつまでも泊まってっていいわ!」
ああ、そうだった。俺の母は、単なる親バカじゃない。壮大なるバカだ。
「ど、ドモデース」
スティーブもさすがに困惑していた。母恐るべし。
「夕食の支度しなくちゃ! じゃあ、スティーブ君。歓迎はするけど働かざる者食うべからず! 手伝ってくれるかしら?」
あんた仕事してないだろ。というのは野暮か。
「Yes! 手伝いマース!」
こりゃまた家が騒がしくなるな。ハァと溜息をついた。
二人が夕飯の準備をしている間、俺はというと相変わらず動画を見ていた。ああ? 勉強しろって? それか手伝え? バカ言え。俺くらいの年頃の奴らはみんなこうだよ。ま、こんなんだから俺は底辺高校なんだろうけどな。
「はぁ、今日はアップはなかったか……他には……」
お気に入りの投稿者の動画アップは今日はなかったことに少しだけ落ち込んでいる俺はランキングから何か面白そうな動画を探す。
「これはどうかな」
何やら人間を超えた系の物だった。俺はこういうのが好きだ。
と、くだらない事をしているうちに夕食が出来た。なので画面はそのままにして部屋を出た。
今日の夕食は野菜炒めと豚の生姜焼きと味噌汁だった。いつものメニューだ。だけどそれが良いんだ。
「いただきます」
食べ始めると母は話し出した。
「スティーブ君、結構手伝ってくれたのよ。野菜を切ってくれたり、味噌汁温めてくれたり」
初心者でも出来るだろうと苦笑するが、スティーブは鼻を高くしていた。
「中々やりマース。やりマーシタ? Anyway, I helped her. 頑張りマシータ」
「あ、ああ……」
すっかり仲の良さそうなことで。
食べ終わる頃には父の帰る時間だった。丁度チャイムが鳴る。
「おかえり父さん」
迎えに行くと父が靴を脱いで上がるところだった。
「おうただいま。武、今日は大丈夫だっか?」
「ああ、今日は、ね。まあ色々あったからまた後で説明するよ」
その後、父が夕食を食べながら俺は説明していた。
「ほぉ、良いじゃないか。スティーブ君、よろしく頼むよ。ここは君の家だと思っていい」
父も反対しなかった。やっぱりこの夫婦は似てるよな。そういうところに惹かれあったのかは知らないけどさ。
「よろしくデース!」
説明し疲れた俺は自室に入り、動画を引き続き見ようと思ったがパソコンの電源を消して布団に飛び込んだ。動画を見る気力すら失っていたのだ。明日は、土曜日か。休みだしゆっくり寝ていたいなあ、なんて思いながらそのまま風呂も入らず寝て行ってしまった。
次の日、俺は唐突に起こされる。バシン! という強い音を立てて。一体何が起きたかはわからないが顔が痛い。えーと、今何時だ。げ、もう十二時か。起きないとな。
「ところでさっき誰が俺を起こしたんだ?」
部屋には誰もいなかった。よく分からないがとりあえずキッチンに行こう。
降りるとおはようと母に声をかけられる。返すと、俺の異変に気付いたようだ。
「どうしたの? 顔赤いけど」
「え?」
「ほら、ここ」
右頬を突つかれると痛みが発する。
「いたっ⁉︎」
「あっ、ごめん。でも一体?」
「え、えと、わからない。俺も今赤いのを知った」
洗面所で鏡を見ると確かに赤く腫れていた。
「うわー夜中に無意識のうちにベッドから転げ落ちたのかな」
もはや既に起きた直後の記憶は失っていた。これが出来たのはその時だというのに。
「とりあえず顔でも洗うか。慎重にな」
ついでに歯磨きもし、朝食もとい昼食を取った。
「ごちそうさま」
「はいごちそうさま。今日なんか予定ある?」
「いや、特にないけど」
「じゃあ回覧板お隣に回してもらえるかしら」
お隣、あいつの家か。
「あ、ああ。わかったよ」
「ついでにスティーブ君もね」
いつの間にかいたスティーブが元気良く答える。
「ご近所付き合いは大事デスネ」
「ところで、父さんは?」
「部屋で仕事。邪魔しちゃダメよ?」
ここのところずっと忙しそうだ。IT関連の仕事となるとやはりそうなるのかなあとは思う。
「ん、わかった。じゃあちょっくら行って来る」
外に出て、隣のポストにそれを投函した。
「ここの家知ってマース?」
「一応」
「どんな人デース?」
「まあ、なんというか、幼馴染の家だよ。今はあんまり話さないけど」
高校生にもなったら幼馴染なんてもはや無いに等しい。漫画みたいにいつまでも続く仲じゃない。それにこいつは。
「フゥーン。なんかご機嫌斜めネ」
「悪かったな」
そう、こいつは女で、しかも彼氏がいる。高校入っていきなり作ってすっかりそっちの方に夢中さ。昔はよく遊んだけど、幼馴染は幼馴染で男女関係なんてない。
「でもカイランバーンを入れたことは言った方が良いのデハ?」
「お、おいやめろよ」
スティーブは躊躇なくベルを鳴らした。
すぐにそいつは現れた。デートとか行かないのか?
「あ……久しぶり武」
「よぅ……」
「この人誰デース⁉︎」
こいつはどこまでも能天気なのだか。それとも単純にアホなのか。
「貴方こそどちら様?」
「僕はスティーブ。ヨロシクヨロシク」
握手をしようとしていた。が、断られしょげていた。
「ごめんね。あんまりそういうのは」
彼氏以外の男の人とは触られたくない、という感じか。けっ、よろしくやってんな。これだから現実は嫌だね。
「私は咲夜っていうの。とりあえず、よろしく。なんで武と一緒にいるのかはわからないけど、まあこの際いいわ。で、用は何?」
咲夜、それがこいつの名前だ。頭は良いんだが何故か俺と同じ底辺校にいる。多分第一志望は落ちて滑り止めって感じだろうな。
「ああ、回覧板だよ。ポストに入れておいたから。……それだけ。ベルを鳴らしたのは悪かった。スティーブのやったことだ。じゃあな」
そそくさと俺の家に戻ろうとすると咲夜に言われた。
「たまには顔出してよ」
「……なんで」
「え、だって今まで一緒に遊んでたじゃん。高校になってたからいきなり会わなくなって私はちょっと寂しかったから」
こいつは何を言っているんだ。彼氏がいるんだから寂しいわけがないだろう。
「オーロロン、なんか不穏な空気ネー」
お前が作ったんだろうが。黙っていてくれ。
「……」
俺は無視して家に帰った。スティーブも慌てて入ってきた。
「もう、出しゃばるのはやめてくれ」
スティーブを咎めると案外素直に謝られた。でも、どこかしら満足いかないような顔をしていた。一体こいつは何がしたいのだろうか。
全てが狂い出すその瞬間まで、もう後がなかった。俺はむしろここまでの生活に感謝すべきだった。現実逃避などというくだらないことをせずに。
3 名も無き世界に続く