1 出会い
「ごめんなさぁぁぁあああああいぃっっ‼︎‼︎」
全速力で俺はある事から逃げていた。ある事ってなんだ? 答えは簡単さ。人間だよ。怖い、人間。そう、ヤンキーだよ!
「ゴルゥラァァァッ‼︎ 待てやゴラァ‼︎」
「だからごめんなさいって言ってるでしょぉぉぉ‼︎」
もう嫌だ。なんで俺はこんな目に合っているというのだ。いつもそうだ。辛いことは全部俺ばっかり押し付けられる。
そもそもどうしてこんなことになってしまったのか。それは今から十分くらい前の話。
俺は、ただ歩いていた。学校の帰り道だ。俺は高校一年生で、まだ高校入りたてで慣れていなかった。友達もまだ少なく、いるとしたら中学の時の腐れ縁くらいだ。それでまあ、そいつと遅くまで話していていつの間にか七時を超えてたってわけさ。暗いから危ない奴らも出没しやすい。そして、俺はヤンキーにぶつかってしまった。いや、ぶつけられたというか。
「あっ……ごめんなさい!」
条件反射で俺は謝ってしまった。すっかり身に染み付いている。
「アア? んだテメェはよ」
「兄貴、服が汚れてますぜ」
二人組のヤンキーだった。俺から当たったわけじゃない。俺はちゃんと前見てた。こいつらは当たり屋なんだ。最近良くネットでも噂になっている。二人組で行動し、一人は当たり、一人は証拠を抑える。糞みてえな奴らだ。だけど、俺は非力だから抵抗なんてできるわけがなかった。
「なっ、ふっざけんじゃねえよ!」
この服の汚れも全部こいつらの仕業だ。わざわざご丁寧に仕込んでいる。
「ご、ごめんなさい」
「ごめんで済むかゴラァ‼︎ 弁償しろ、弁償! んでもって慰謝料もなぁ‼︎」
俺から示談金を大量にふんだくるつもりだった。俺は居ても立ってもいられなくなって、その場から逃げ出した。
「あ、おい待てや‼︎」
そうして今に至る。ただひたすら走り続けた。長距離には自信があるものだから、まだ大丈夫だ。奴らはというと普段タバコ吸っているせいか体力がない。それでもなお追っかけてくる。
「嫌だ……絶対に嫌だ!」
しばらくすると警察署が見えた。匿ってもらおうと思い、逃げ込む。
その後悲劇が待っていた。もちろん、暴力からは逃れられたが親の呼び出しもくらい、俺の面子はズタズタだった。唯一幸いだったのは、俺の両親が親バカだったことだ。警察から注意を受けると、顔を俯いたまま家に帰り、その日は夕食を食べなかった。だけど寝るということもなかった。何をしていたかというと、ネットサーフィンをしていた。面白い動画を見て、心を落ち着かせていたのだ。それが終わるとまた苦しい現実が待っていた。俺はこんな現実とは別れたかった。どうして神は俺に辛く当たるのか。寝転がりながら物思いにふけていた。
次の日、また放課後である。昨日の疲れが取れないまま下校していた俺は、また昨日とは別のヤンキーとぶつかってしまった。俺は本当に運がない。今回は五、六人はいる。今回はもうダメだろうな。でもやっぱり痛い思いをするのだけはごめんだ。せめてもの抵抗はしたい。そしてすぐにまたその場から逃げ出した。
「なんで、なんで俺が、俺がこんな目に合わないといけないんだ!」
現実とは一体何なのだ。俺を苦しめたいだけじゃないのか。誰も助けてなどくれない。ヒーローなんて現れない。住民は見て見ぬ振りだ。警察すらも呼ばない。誰も、俺を救ってくれる人などいないのだ。
そうやって泣きながら走っていると目の前に人が出てきた。
「っ!」
ぶつかってしまった。今度はこいつから逃げないといけないのか。しかし、もう後ろにはさっきの連中がいる。ダメだ、逃げ切れない。
それを思った瞬間、今ぶつかった人が話した。
「Hey! Guys! The weak person bullying is not good!!」
は? 英語? そう考えた俺はその人の顔を見ると少し長めの金髪で碧眼の男だった。外国人なのか。
「アァ? なんだって?」
ヤンキー達は英語を理解できず、聞き返す。
「Oh,sorry.まさかこれくらいの英語ができないとはネ……日本人はおばかサーン?」
「さっきからなんだよてめえ! お前には用はねえんだよすっこんでろ!」
「Uからすれば用はナイけど、僕には用があるんだヨネ」
「はぁあああ?」
こいつら、何だよ。こっそり逃げようとすると外国人に服を引っ張られる。
「Uは見ていなサーイ」
中途半端な片言にイライラしながら見ることにした。
「喧嘩上等ってわけか。いいだろう! 死ねや!」
その外国人目掛けて拳を打った。
「Nonsense……ダネ。Uは」
外国人は平然としていた。それもそうだ。右手でそいつの腕を自らの体に到達する前に掴んでいる。
「いでぇぇぇ!」
ギュッと力を込めるとミシミシと音が鳴っている。痛そう。
「Pitiable……それはU、君もダヨ」
まさかの俺に対する言葉だった。俺の顔を伺っていた外国人はニヤリと笑い、相手の腕の関節をあらぬ方向に曲げた。
「ァァァアアアアッ!」
「お、おい! こいつやべえぞ!」
「いっ、一斉にかかれば問題ねぇ!」
残りの五人が突撃してきた。が、外国人はスタスタと歩き、それを通り過ぎた。
「……ハッ?」
「U are already dead.クク……」
一瞬にして五人は悲鳴をあげて倒れた。
「死んだのか?」
「生きてるヨ。今のちょっとしたjokeって奴ダヨ」
こいつ、アメリカンか何かか? それはともかく、一応は助けてくれたんだよな。
「ありがとう、助けてくれて」
「礼には及ばないヨ」
「俺の名前は大和武って言うんだ。あんたの名前は?」
「Me? Ah……No name.名無しダヨ。名前なんて忘れたシ、持ってなんかナーイ!」
ハハハ、と彼は笑っていたが、笑い事ではないだろと心の中で突っ込んだ。
「じゃあ、名前つけてやるよ」
俺の悪い癖だ。何にでも名前をつける。
「今日からお前はスティーブ(仮)な」
「スティーブ! カッコカリ! That's my name? So funny!」
「いや、カッコカリは関係ないから……とりあえずって意味だよ……うん……ごほん、ともかくスティーブだ。よろしく頼むよ」
「Yes,Yes! 君とーっても面白ーイ!」
こんな現場だというのに能天気だなこいつは。その能天気からか、俺は心なしかちょっと救われた気分だった。言い方を変えれば楽しい、だ。
「なあ、スティーブ。お前んちどこなの?」
「Nothing」
「は?」
「何もないヨ。家も、記憶も、全部。All」
「じゃ、じゃあどうやって今まで過ごしてきたんだ……」
「どうダロ。マア気にしないデ」
いや、気にするだろ。怪しすぎるぞ。
「だったら俺んちで泊まるか?」
とはいて助けてもらった借りは返す。たとえ怪しくてもな。何かあったらすぐに追い出せばいい。
「Wonderful!! ゼヒそうさせてもらいマース!」
この出会いが俺のこれからの未来を大きく左右させることになることを、俺はまだ知る由もなかった。知りたくもなかった。
2 両親に続く。