Trick yet Treat ~悪戯したい~
鬼ごっこをやろうと言い出したのは、おれだった。
みんなは、珍しく同意してくれた。
最初はヒナタが鬼で。
次はおれが鬼で、たまたま近くにいたサカキを捕まえて。
そのあと、サカキが鬼で、あいつが鬼になって、紗音が捕まって…シオ兄が捕まって……。
それでも終わらないのが凄い。
いつもなら、全員一回は鬼になると、自然と終了するのに。
とりあえず、逃げなきゃいけない。鬼ごっこだから。
鬼がいないか確かめるために辺りを見回すと、そこにはあいつがいた。
鬼ではないようで、少し不安気に辺りを見回している。
おれはゆっくりゆっくり近づいて、後ろから勢いよく抱きしめた。
案の定、可愛い叫び声とも取れる声が聞こえた。
ーーあぁ〜可愛い。
でも、まだ鬼ごっこは続いてる。
おれは渋々体を離して、彼女の手を取って言った。
「とりあえず、鬼きたらまずいから、逃るぞ!」
そういって、走り出す。彼女の手を引いて。
走りながら、「おれ、鬼ごっこは昔から得意だから大丈夫」とか言った気がする。
そうして今、木の上におれらはいる。
昔から、鬼ごっこをしていると木の上に見えなくなるような高さまで登る。そうしていつも寝てしまう。だから、あまり捕まったことはない。
おれは木の幹に背中を預けて、彼女を背中から抱きしめている。
すぐ近くに、彼女の温もりが感じられる。
高すぎるから怖いのか、少し震えていた。
その姿でさえ、可愛いと思ってしまうのだから、おれはどこかおかしいんだろう。
抱きしめる腕に力を入れて。
そっと、自分なりに一生懸命優しくして、
でも落としてしまわないようにしっかりと、
彼女を、抱きしめた。
彼女の心音が響いて、温もりとともに、おれに届いてくる。
ああ、おれはなんて酷い奴なんだろう。
Trick yet Treat
お菓子なんていらない。
あんたが欲しい。
それで、
『悪戯したい』




