Trick or Treat ~菓子か悪戯か~
アスカの提案で鬼ごっこが始まった。
初めの鬼はヒナタだった。
ヒナタの次は、アスカ。その次はサカキ……
一応、全員一回は鬼になった。
だが、その程度では、終わらない。終わるわけがない。
とりあえず、俺は鬼ではないし、屋敷の中には鬼はいないようだから、夕方から用意していたものを、様子を見に台所まで行く。
案の定、誰もいない。
台所には、むせ返るほどの甘い匂いが立ち込めていたので、もうすぐ出来上がるんだろう。
後ろで、足音がした。
振り返れば、魔女の格好のあいつがいた。
あいつは、不思議そうにこちらを見つめ、でも匂いでなんとなく察したんだろう。すぐにオーブンを見た。
「パンプキンパイだ。すぐ出来る。」
俺がそういうと、こちらに顔を向け、嬉しそうな、驚いたような表情をする。
パンプキンパイ以外にも、クッキーやらマカロンやら、菓子を大量に作っておいた。
今日はハロウィンで、アスカはこういったイベントやら行事が大好きだ。当然、パーティがしたいとかいうだろうと踏んでいた。
それに、こういった行事は俺も嫌いじゃない。
皆が皆楽しめることは、昔から好きだった。
皆の笑う顔が、喜ぶことが、昔から好きだ。
まさか、鬼ごっこをやろうと言い出すとは思わなかったが、これはこれで楽しい。
だが、問題は菓子の量だ。
サカキやアスカは甘い物が好きだが、ヒナタや俺はあまり甘い物は好きではない。だが俺は別に食べれないわけじゃない。好んで食べようとは思わないだけだ。紗音は嫌いでもないが、好きでもないらしく。
でも、当然、腹は減る。屋敷の敷地は広い。
相当疲れるだろう。なら、甘い物は必要だ。
運動後なら、尚更いつも以上でないとすぐに無くなってしまう。
俺は仕方なく、もう一度クッキーを焼くことにした。
あいつも、手伝いたいと言ってきたので手伝って貰っている。
さすがに2人だから、作業は捗る。
あっという間に、クッキーは焼くところまで進んだ。
オーブンに入れて、焼き始める。
出来るまでの間のちょっとした時間。
俺は、自分でも気づかないうちに、言葉を紡いでいた。
「俺はお前に菓子をやる」
Trick or Treat?
「ーーお前は俺に何をくれる?」
きっと俺は、悪戯に、微笑っていたんだろう。
それは、できれば優しいものであってほしい。




