Trick and Treat ~お菓子なきみ~
みんなで騒いだ。鬼ごっこをした。
提案したのは、アスカ。
突然、なんとなく、やりたくなったらしい。
「まあ、ハロウィンだし。」「なんとなくだが、雰囲気があってるんじゃないか?」「こういったことでやるのもいいかも。」とみんな言った。彼女も、嬉しそうだった。
ぼくも、「楽しそう」と言った。
本当に、そう、思った。
じゃんけんをして、ヒナタが鬼になった。
みんな、逃げた。
逃げて、追いかけられて、逃げて、追いかけて、追いかけられて、逃げて、また逃げて……
楽しかった。
鬼ごっこはまだ続く。
逃げる範囲は、屋敷の敷地全部。
広い。広すぎるけど、そのぶん楽しい。
ぼくは、今、屋敷の中にいる。
鬼のアスカが、紗音を追いかけて外へ出た。
紗音はドジだ。よくこけたりする。
でも、意外に足が速い。
そう簡単には、捕まらない。
だから、外から中へ。今は誰もいない。
そう思った。けど、違った。
彼女が、いた。
ここは、リビング。彼女はソファーに座って、少し休んでいた。
考えることは、一緒。なのかな。
鬼がいないところを、選ぶ。
ただ、それだけなのに。
嬉しい、と思った。
同じことを、考えていたのが。
思っていたのが、同じだったのが。
なんでだろう。わからない。
ぼくは、彼女の横に座る。距離は近い。
ここには、ぼくと彼女以外、誰もいない。
少し、疲れた。
気がつけば、ぼくは彼女にすり寄っていた。
しばらくして、体を横にして、彼女の太腿に頭を乗せた。
彼女は少し驚いたけど、すぐに受け入れてくれた。
そのうち、彼女の手がぼくの頭を撫でた。
優しい、温かい手だった。
昔、お母さんがしてくれたように。
不思議と心がいっぱいになって、何かが満たされたような感じがする。
ぼくは、彼女の腰に手をあて、彼女のお腹に頭を押し付けた。腰にあてた手は、自然と彼女の服を掴んでいた。
甘い、お菓子のような、いい匂いがする。
「お菓子、頂戴。きみの、お菓子。」
そんなことを言って。
頭を上げて、きみをみて。ぼくは微笑う。
鬼ごっこは、まだ続いている。
ここにはまだ、二人きり。
ぼくの影から生まれた二つの黒い蝶が、
そっと羽を動かして。
ぼくらを見守った。
Trick and Treat
『お菓子、頂戴。きみを、頂戴。』




