冗談告白タイム:縦
「ごめん、私、ロクヨン世代だから。そういうのは世代が合わないと無理だと思う。」
「…!い、いやオレと同い年ですよね?へぇ、ゲームやるんだ。意外。」
「…と、まぁそういうことで、お話も合わないと存じますし、お引き取り下さい。」
「存じますって…いや、オレ結構ゲーム好きよ?話せる口だと思うけど?」
なにも好き好んで、このクラス1根暗で地味な女『横井 かなえ』と会話を続けようと苦労しているわけじゃない。昨日の昼休みに悪友と勝負に負けて、罰ゲームをする羽目になったのだ。
つまり…『横井に告白し次の日曜にデートする』という。
失敗の場合、奴らに馬鹿にされたあげく、焼き肉食べ放題2回分おごりとなるので、何が何でも成功させねばならぬ!
でも、簡単に進むと思ったんだけどな…相手を侮っていたようだ。
「じゃあ、何か話してみてよ。」
「えっ?!」
「話せる口なんでしょ?どーぞ?」
どーぞ、と言われても…最近のゲームだって、そんな語れるほどやってねーもんな。
しかもこいつ、ロクヨン?オレらが幼稚園出たか入るか、そんぐらいのじゃね?
しらねーよ、むしろ何でお前知ってんだよ。
…しかし、何か言わねばならぬ。何かないか…レトロゲームネタ、レトロゲームネタ。
「……ゼルダので「あぁ、ごめんなさい。私、用事があったんだった。」
ぐぬっ!かぶせやがった!!
「そう、用事。ふーん。バイトしてんの?」
「じゃ、また明日。」
…質問に答えるぐらいしろよ!!
翌日
「今ね、クラシックにはまってるんだ。そういう系の話したいから、あなたとは合わないと思う。」
「ぬ?」
ぬわにぃ~。
昨日一夜漬けで、PONから3DSまで、めぼしいソフトや隠れた名作なんかを調べ上げ、ちょっとした裏話までチェックしたというのに…クラシック?クラシックだとぉおおお!!
「いいい、いやいや、オレだってクラシック聞くよ?題名や作者は覚えられないけど…ほら、あいつら名前変わってるじゃん。そこがちょっと苦手なんだよなー。で、でも曲は良いと思うぜ。」
あ。余計なこといった気が…
「へー、どんな曲好きなの?」
あー、はいはい、やっぱそうなるよね-。といっても、クラシックなんて、どれも同じに聞こえるからコレっていう曲もわっかんねーんだよなぁ。
「特に…特定のはなく…色々と…。」
「……。」
「…。」
「…。」
「ベッ、ベートーベンとかっ、ジヤジヤジヤジャ~ンみたいなの。かっこよくね?」
「人間にはどうしても、合う合わないはあるんですよね。まぁ、それも運命のようなものなんだけど。それじゃ。」
「あ、おーい、ちょっと!まだ話が…」
…て、なぁんで、あんな地味で暗くて休み時間1人でいるような奴に、振り回されてんだよオレは!!あいつだって、どうせ付き合ってくれーなんて言って来るのオレぐらいなんだから、さっさとOKして一回出かけてくれりゃすむ話なのに!
とにかく、このままでは焼き肉はいいとしても、
『横井にすら相手にされないオレ』という格好のネタを提供することになってしまう。
それはやだ。それはやだ。
何とかしてアイツと打ち解けて、日曜日に連れ出さなくては…!!
「あの~、3度目だけど言いますけど。私とは話、合いませんからアナタ。いい加減ほっといてくれません?」
「具体的に!どこが!ゲームもクラシックも、ついでに最新CDランキングからドラマ、山ガールに歴女、鉄子、スィーツ、アロマ、歌舞伎、手芸、落語、英語、イタリア語…等々、目につくもん一通り調べてきたぞっ。さー、何が合わないのか教えてもらおうか。」
どうだ!とばかりに言ったが、もちろんそんなに詳しく語れるほどじゃない。
けれど、話を合わせるぐらいはできるはずだ。立ち読みしたんだからなー、手当たり次第。
今のオレはオールマイティーだぜ!!
「大いなる宇宙の神が、こいつに付き合うとろくな事がない、と申しております。」
ぎゃふん
「…悪かった。そこまで嫌か。」
そんなに嫌われていたとは。オレはちょっと傷ついた。
惚れられてる!とまではいかないが、せいぜい普通くらいだと思ってたのに『負の感情』を持たれてたなんて…オレの何を知っているってんだ!こん畜生!逆ギレ!
「当たり前でしょ。大体ねー、悪ふざけのネタに人を使うってなんなの。巻き込むなってーの。こっちは静かに生活しているのに、何の権利があって穏やかな日々をぶち壊そうとする?従うと思ったか?この諸悪の根源が。まぬけ、トーヘンボク、バーカバーカバーカ。」
「ひでぇ…。結構言うな、お前。―てアレ?罰ゲームの事知ってたのか?なんで?」
「なんでって…あの罰ゲームだかなんだかの時、マックで騒いでたでしょ。」
「……いらっしゃったのですか。」
「いらっしゃったのです。」
あー…あん時ってオレらそうとう好き勝手喋ってた様な気がする…そりゃ、横井にしてみたら面白くないわな。オレ達的には悪気はなかったんだけど、いや、むしろ仲間内でネタとして活用していただけなんだけど、別にイジメとかじゃなくて横井の存在自体が独自だから、なんかノリで名前を出せば盛り上がるっていうか…。
ああ、はい、わかりました!言い訳はするまい!!
「オレが悪かった!マジで申し訳ありませんでした。」
「ま、アンタだけが悪い訳でもないし…。」
「お前の気持ちの考えずに調子乗ってました。ホントごめん。」
先ほどよりも柔らかい表情になって、横井が頷いた…許してくれたかな?
「ふむ、まぁ、いいでしょう。そこまで反省しなくてもいいよ。それにしても縦野って意外と我慢強いねぇ。普通だったら一番最初の時点でキレてるとこだよ。」
「いや?キレてたぞ、内心。まー、それを外に出さないのがオレの良いとこだけど。」
「ははは。自分でいうかー普通ー。」
初めて笑った顔を見た気がする。そういや日頃から接点がないだけに、オレもコイツのことを何も知らなかったんだな。知ってる事といえば…教室の隅っこで何か読んでいるか寝てるか。今回のがなかったら永久に話すこともなかったろうし。
意外と話せるモンなんだな。コイツ、いつもは学校の外ではどうなんだろう?
「横井。」
「何?」
「日曜日、一緒にどっかに行ってくれない?」
「はあ?」
「いや、別に付き合い前提というわけでなく、罰ゲームもなんとかしたいし…じゃなくて、なんか興味というか…いてぇ!!!」
横井が赤鬼の様な顔になってサッと後ろへ歩いて行くのと、足の甲に強烈な痛みを認識したのは、ほぼ同時だった。
…失敗した。
日曜日までは後2日かぁ…でも、まぁ、少しは話せるようになったんだし。
明日はどんな感じのやりとりになるのだろう?
お読みくださりありがとうございます。
縦野視点です…って、文中で主人公の名前1回しか出てなかったですね…。