慟哭
一度溢れてしまった感情は止められなかった。
落ちていく物体の速さがその落下距離に比例するように、
心の奥へ奥へと隠し込んでいた感情は、そこから這い出て表に出た時、反動としてより一層強いものとなっていた。
胸が、熱い。
その熱を必死に身体の外へ放出するように、大粒の涙が止めどなく溢れる。
両手で拭っても拭っても、涙は次々と頬を伝い、零れ落ちた。
どうして自分はこんなことをしているのだろう?
どうして自分は大切な人をこんなにも困らせてしまっているのだろう?
そんな自己抑制の想いも、かえって涙を助長した。
防音設備の整った地下の一室。
千尋のむせび泣く音だけが、この空間を満たしている。
目の前で跪いたまま立ち上がれない千尋の姿に、秀太も戸惑いを隠せずにいた。
「千尋……? どうしたの……? 何か僕、悪いこと、を?」
秀太は手にしていたギターを椅子の上に残し、千尋のもとに駆け寄って、その両肩に優しく手を置いた。
そんな彼に、千尋は止まらない嗚咽の中で辛うじて言葉を返す。
「--ううん、違う、違うよ。秀太は何にも悪くなんかない。悪いのは私。全部、私なの。今日だって……あの時だって」
「今日? あの時……?」
千尋の言葉が指し示すことを全く理解できないといった様子の秀太はさらに困惑していた。
「千尋、とりあえず落ち着こう? 一度落ち着いて、話を最初から聞かせてよ」
秀太の小さな手が、千尋の肩と背中で暖かかった。しかし、それでも涙は止まらない。
「何で……何で私は、ちゃんとヒトと話をすることができないんだろう……」
千尋の口から弱々しく発せられた言葉に、秀太はなだめるように囁く。
「そんな、さっきだって僕と一緒に話をしてたじゃないか」
「それは……」千尋は俯いていた顔を秀太の方に向けた。
「それは、秀太がすごいから! 私じゃない!」
「千尋……」
秀太は悲しそうな顔をしていた。
今まで千尋が見たこともないような悲しそうな顔。
耐えきれず、千尋は秀太の手をそっと払った。
「どうして?」千尋は再び視線を落とし、地面を両手をついて叫ぶように繰り返した。
「どうして? どうしてだろ……? どうしてみんなにはできて、私にだけはできないんだろう!? 私だって……私が嫌!」
身体が震えた。怒りと悲しみが入り混じった、千尋自身にも解ることのできない複雑な感情で。
「私はただ!」
秀太は黙って千尋の悲鳴を聞いていた。
「--誰も傷つけたくない、だけなのに……」