ひとり
千尋は高校生で、この春2年生になった。
通っている学校は普通科だが、どちらかといえば勉強よりも部活動に力を入れている。
実際のところ、文武両道とは程遠い進学実績だ。
そのため生徒の9割以上が何らかの部に所属しているが、千尋はどの部にも入っていない。
より正確に言えば、1年生の1学期以降、千尋は部活動に所属していない。
以前は参加していた。入っていたのは軽音楽部。パートはボーカルだった。
その軽音楽部をたった3ヶ月で辞めてしまったのは、組んでいたバンド内の人間関係が上手くいかなかったからだ。
もともと千尋は人付き合いが得意な方ではなかった。
しかし、人が嫌いなわけではなく、自ら好き好んで孤独を望むようなタイプとは違った。
ただ、積極的にコミュニケーションをとるのが苦手で、たとえ相手から声をかけられたとしても、なかなか会話は弾まなかった。
そんな性格上どうしても「箸が転がっても……」な、お年頃の同世代達の中では浮いてしまう。
幼い頃は割と明るく、積極的な性格だったのだが。
それでも中学校までは、休み時間に他愛もない会話を交わせるようなクラスメイトが毎年何人か、いるにはいたのだ。
しかし、高校に進学してからというもの、簡単な挨拶をする相手すらいなくなってしまった。
原因は、女子たちの千尋に対する嫉妬にあった。
千尋は容姿に恵まれていた。
小柄でモデルのような背の高さは無かったが、その端正な顔立ちはクラス中の男子の目線を奪った。
そのため、高校入学当初は多くの男子達が千尋に声をかけた。
しかし、千尋は彼らの見え隠れする下心が嫌だった。
そんな気持ちが表情や声色に無意識のうちに出ていたのだろう、入学後1週間もすれば千尋に寄ってくる者はいなくなった。クラス中の女子たちの嫉妬心を残して。
そんなクラスから逃げるように、居場所を求めて軽音楽部に入部したものの、ここでもつまらない嫉妬心が千尋を孤立させた。
入部後、千尋は5人組のガールズバンドを組むことになった。
他の4人は同学年で千尋と違うクラスだったが、既に噂は流れていたようで、彼女らは始めから千尋に冷たかった。
千尋のパートがバンドの顔のボーカルだったことも良くなかったのだろう。
メンバー達との関係は良くなるどころか、日に連れてどんどん悪化していった。
千尋は「ここで逃げたら駄目だ」と頑張った。歌うことも好きだった。
しかし、段々とエスカレートするメンバー達の嫌がらせに耐えきれず、結局千尋は夏休み前に退部届を提出した。
その後千尋は違う部活に入りなおすことも考えたが、結局どこへ行ってもクラスや軽音楽部と同じことの繰り返しになるのではないかと思うと、実行に移せなかった。
千尋は独りで、2学期そして3学期を過ごした。