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サクッと読める短編集

最後の電車に咲く花

作者: ある六芒星
掲載日:2026/07/30

終電が発車したホームには、夏の夜の熱気だけが残っていた。

高校二年生の遥は、誰もいないベンチに腰を下ろし、小さくため息をつく。今日もまた、父とは言い争いになった。進路、成績、将来。答えのない言葉ばかりが部屋を飛び交い、逃げるように家を出てきたのだ。


「それ、落としましたよ。」


声をかけてきたのは、古びた制服を着た少年だった。遥の足元には、いつの間にか小さな青い花が落ちている。


「私のじゃないけど……。」


「そうですか。」


少年は微笑んだ。その笑顔はどこか懐かしく、まるで昔の写真から抜け出してきたようだった。


「この駅、不思議なんです。」


「不思議?」


「人生で一番後悔している人だけが、たまにここへ来る。」


冗談だと思って笑おうとした遥だったが、少年の瞳は真剣だった。


「君は後悔してる?」


そう尋ねられて、遥は答えられない。


後悔ではない。ただ、自分が何をしたいのか分からない。それなのに、みんなは未来を決めろと言う。


少年はホームの向こうを見つめながら言った。


「未来は選ぶものじゃない。歩いた先で、振り返って初めて名前がつくんだ。」


その瞬間、風が吹いた。


駅名標がきしみ、ホームに青い花びらが舞う。


気づけば少年の姿は消えていた。


遥の手の中には、さっきまでなかった一枚の古い切符がある。


裏には、小さくこう書かれていた。


「後悔しない人なんていない。それでも明日へ向かう人を、人は"生きている"と呼ぶ。」

始発電車がホームへ滑り込む。

遥は立ち上がり、切符をポケットにしまった。


家に帰ろう。


謝ることも、話すことも、まだ遅くない。


夜明け前の空は、少しだけ青く染まり始めていた。

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