第1話だと思った?残念、読み切りです!
十年くらい前に書いた、シリーズ予定の書き覚えを加筆修正した読み切りです。
今回の連載候補の一つでもありましたが、結局「神父と白い野獣」の連載を選びました。
この作品もいずれちゃんと書きたいと思っています。
今のところこれだけです。
虫の声響く夜。僕は体を休められそうな木の虚を見付けると、隠れるように入り込んだ。
「くそー。今日も牙兎一匹に勝つのがやっとだった……これで何で僕が魔王退治に送り出されたのか、訳分かんねーよ!」
牙兎とは、耳が長いのでそう呼ばれているだけの兎とは別物の、獰猛な四足肉食獣である。
強さとしては、ちゃんと戦闘訓練を受けていれば多少の数が現れても慌てるほどではない。
だが、今の僕には一匹でもそれなりの脅威だ。
僕は戦闘で負った怪我――かすり傷――を魔法で治しながら毒づく。
今、僕は魔王を倒すために旅をしているのだが、旅立たされた理由が滅茶苦茶で、理不尽もいいところだった。
今から一か月前の事だ。
ある朝、教会の連中がウチを訪ねて来て、訳の分からない事を言い出した。
僕が女神に選ばれし勇者だという託宣が下ったので、教会に来て欲しいと言われたのだ。
正直、何を言っているのか分からなかった。
神父様もよく分からないが、女神様がそう言い張ってしょうがないし、目覚めたら確かに祭壇に聖剣らしき装備一式が置かれていたので、一応迎えに来たと言った。
加えて言えば、その託宣の夢の中で十回くらい間違いはないのか確認したが、僕が勇者だと言って譲らなかったらしい。
取り敢えずそういう経緯もあって、神父様の言う事だし、僕は教会に向かった。
教会に着くと、話を聞きつけた村人で早速溢れていて、僕は凄く恥ずかしかった。
だが、神父様に促されるまま祭壇に行くと、そこには無茶苦茶ゴツい剣――多分まだ年齢十五にならない僕と同じ身長くらいの剣と盾が置いてあった。
『あの、神父様……聖剣ってこれですか?』
『いかにも』
『デカいですね……』
『確かに。因みに試しに牛使いのアルデオに持たせてみたら、持ち上がる前に肩の関節が抜けた』
『……マジですか?! それを僕が持てると?!』
神父様は視線を逸らした。
『女神様によると、勇者が持てば羽根のように軽く扱えると言っておった……』
『ハハハ……アルデオさんが無理だった物が、僕に持てるわけないですよ~』
ヒョイ。
それは一瞬の出来事だった。
アルデオの肩の関節をブチ抜いた剛剣を、僕は事もなく持ち上げてしまったのだ。
その瞬間、教会内が静まり返る。
『…………』
僕は一旦剣を祭壇に置いて持ち直す。
ヒョイ。
とてつもない剛剣が、まるで羽根のようだ……!
あまりの出来事に油汗を流す僕の背後で、村人達がざわめいている。
ごく普通の少年の僕がこんな凄い物を持ち上げたら、みんな驚くのは当然の反応だろう。
そして固まる僕に、神父様は静かに言った。
『決まりだな……勇者よ……魔王退治、頑張ってくれ……』
『え……?』
神父様の目には薄ら涙が浮かんでいた。
多分、同情の涙だろう。
顔を引きつらせる僕の耳に聞こえる言葉は、やっちまったな……と言わんばかりの哀れみの声ばかり。
それはそうだろう。
そう! 僕は普通の少年。とてもじゃないけど、戦いや勇者なんて柄でもない。
なのにどうしてこんな剣を手にしているのか? 一体何が起こっているんだ……?
結局、僕は訳が分からないし、周りからも勇者誕生を祝福する言葉は一言も聞こえないまま、一旦帰宅した。
そのままあれは夢だと思いたかったが、夢じゃなかった。
次の日には我が家に教会から出発支度金が支給され、僕はあれよという間に準備を済ませたかと思うと送り出されて、今ここにいる。
見送る時の皆の顔が今でも忘れられない。
あれはもう帰って来ない人間を見る眼差しだった。
「うぐ、うぐぅ……。どうして、どうして僕なんだ。学校の戦闘訓練だってまだまだこれからだったのに……!」
そんな事を考えている内に、疲れから僕はそのまま眠りの世界へと落ちていった。
そしてその夜、夢を見た。
『目覚めなさい……目覚めなさい、勇者バッツよ……』
身体を包み込むような柔らかな女の声に、僕は目を覚ました。
暗い森にいたはずなのに、起き上がると辺りは花咲き乱れ、蝶が舞い、小鳥が青空を飛ぶ野原に変わっていた。
そして目の前には、教会の絵画で見るような女神様が立っていた。
「貴女は……?」
彼女の神々しさに胸をときめかせながら思わず問いかけると、彼女は柔らかな笑みを浮かべて言った。
『どう? ちょっとは選ばれし者の気分、味わえた?』
とんでもないギャップ発言に、思考が停止する。
「え、何言ってるのか分からないんだけど……」
『いやぁ、君が旅立ってから何か凹んでるっぽいから、励まそうと思って』
「は、はあ……」
僕は一気に興ざめした気分で返事をして、彼女を見る。
女神はさっきまで花の枝とか持って佇んでいたのに、今は胡座を掻いて立て膝と、かなりラフな様子だ。
(この人……女……神……?)
僕の知ってる女神と違う。
聞いてる女神と何か違う。
『村を出てまだ一か月だけど、気分どう? 頑張れそう?』
いや、頑張るも何も、心の準備以前の状態だったんだけど。
「……もしかして、僕を勇者に選んだのはあなたですか?」
僕がそう尋ねると、彼女はニヤリと笑って『イエス!』と親指を立てた。
妙にノリノリな女神に戸惑いつつも、折角女神自ら現れたことだし、旅をしながら感じていた根本的な疑問をぶつけてみる。
「じゃあ……な、何で僕を勇者に選んだんですか?」
すると彼女は後ろめたそうに暫し明後日を向き、答えた。
『ごめん、ダイスゲームでファンブル出しちゃって……能力値の振り幅が全然なかったの……ぎりぎり頑張って割り振ったら、丁度合致したのが君でね……ゴメ……』
女神がウインク混じりに肩を竦めて謝る。
その言葉を聞いた瞬間、僕は頭を真横から殴打された気分になった。
「え、じゃあ……僕は何か意味があって選ばれた訳じゃ……」
『いやマジごめん。本当にたまたま……』
僕は思わずその場に倒れた。
(あ、ちょうちょが飛んでる……お空綺麗……)
それで、そんな事で僕はこんな苦労をさせられているのか。
暫しの間そのまま楽園風景の中で倒れこんでいたが、事実が分かったら何だか怒りが沸いてきて、起き上がるなり身体を震わせて「ふざけるな」と叫んでいた。
『うわっ怒った。まあ、気持ちは分かるよ。君、どう見ても訓練受けてないしね。よくやってると思って見てるよ』
「ああそうだよ! 特に専門的な事は一切してないし、学校でも普通だったよ! なのにいきなり勇者……それも理由がゲームでたまたま! つかダイスゲームとかファンブルって何? 聞いた事無いし。で、魔王退治!? どういう事だよ!」
思わず涙が溢れ、怒鳴り散らす。
僕の勢いに女神も閉口する。
『んー正直、悪かったとは思ってるんだよね……』
僕が一通り怒鳴ってしくしく泣いていると、女神が神妙な面持ちでポツリと呟く。
「……」
『何ていうかさ、神様やってるとさ、ついつい人間の気持ちとか無視した事を偶にやっちゃうのは確か……でもさ』
「でも何だよ……」
不貞腐れながら訊き返す。
『未熟って事はさ、これからいくらでも成長出来るって事じゃない?』
「はあ……」
女神は言葉を続ける。
『人間はいつか、我々神と違って寿命を迎える。だからこそ、成長したら自立しなきゃいけないし、そのためには経験を積む事が重要だ!』
「何が言いたい」
なんだか言い訳臭い説教を垂れ始めた女神に、僕は苛立ちを募らせる。
『だからさ、分からないかな? 人間にはどんな可能性も秘められている。君は今、犬コロ一匹倒すのにも苦労する状態かもしれないけど、やろうと思えば魔王を倒すのも別に不可能な事じゃないんだよ! だって、人間は成長出来るんだから! 故に! 君は弱いからこそ、勇者に選ばれたんだよ!』
僕は思わず言葉を失った。
「あの、さっきのダイスゲーム云々は……?」
『そういう不確定要素も含めて、人間には可能性があるって事さ☆ あ、そろそろ朝だね! 私は失礼するよ。それでは良い旅を! アデュー!』
「オイコラちょっと待て!」
追いかけようとするが、次の瞬間周囲の風景が歪み、暗転したかと思うと、朝日が瞼越しに眼球を包んだ。
僕はムクリと起き上がると、暫し呆然とし。
「ちっくしょおおおおおおおおおおおおお!!」
と、地面に拳を振り下ろした。
こんな不安要素しかない僕の旅に、夢や希望は生まれるのだろうか?
(とりあえず前を向くしかないよな……)
人間らしく開き直る事にした。
涙の滲む眼に、早朝の朝日が眩しかった。
「ふいー。ただいまー」
「あら、おかえりスーちゃん。あなた、勇者くんのところに挨拶に行ってきたんですって?」
花園の中に置かれた切り株の大きなテーブルに座る、紫色のロングヘアの女性が微笑みかける。
「うん。誤魔化してもしょうがないから、選んだ理由だけは伝えてきた」
「え、選んだ理由『だけ』?」
彼女はスーと呼ばれた女神の言葉に首を傾げる。
「だって、最初から全部種明かししたら面白くないし、どこから話して良いか分からなかったし、これから何が起こるか分からないしねー」
「あらあら、出たわね。スーちゃんの『これから何が起こるか分からない』。確かにそういう面もあるかもしれないけど、あたくしから言わせれば、そんなの博打。まあ、貴女はヴェルちゃんよりは堅実だとは思うけど、やっぱり物事は積み重ねが一番って事を証明してあげるわ」
そう言って紫色の髪の女性は強かな笑みを浮かべる。
「まー確かにウーちゃんの根回しっぷりは神がかってるっていうか、女神だし、ステ振りの時の動き、マジでチートも良いところでしょ」
「物事は積み重ね。何事もね。そんな事言って、貴女だって……あ、ヴェルちゃんも帰ってきたみたいね。あの子はどんなご挨拶をしたのかしら? 話を聞くのが楽しみだわ」
「ハハッ……優勝候補様は余裕ですなあ! でも、負けないから! 未来は誰にも予想できないんだからね!」
そう言ってスーは、こちらに向かってくるもう一人の女神を出迎えた。
※続く予定だが、いつになるかは未定。
ちなみに、モンスターなどの設定画などもあるので、後日別で記事にしたいと思います。




