第51話 願いを叶える方法
「なるほどね」
宇海が書いたお話を読み終えたバーハローズが呟くように言った。そしてピカネートの瞳をまっすぐ見つめた。
「ピカネート。あなたは願いを叶える方法を知っているかしら?」
「え? えっと……何度もお祈りをする、とか……?」
急に話を振られたピカネートは、しどろもどろになりながら答えた。するとバーハローズはくすりと笑って首を横に振った。
「それだけ神様のことを信頼してくれているのなら嬉しいけど……違うわ。願いを叶える方法はね、行動することなの。行動しなければ、いつまでも願いは願いのまま。でも行動すれば、変えられる。あなたは、あなたたちは、自ら行動したことにより、自由に航海をしたいという願いをほとんど叶えているのよ」
「……!」
予想外の言葉に、誰もが驚いた。もう既に、願いが叶っているだなんて!
「お姫様を盗んで海賊という道を選んだのだから、海軍や他の船に追われたり、海の魔物の攻撃を受けたりすることはこれからもあるでしょう。でも、あなたたちは必ず困難を切り抜けることができる。それをこの私、海を司る神バーハローズが保証するわ」
「あ……ありがとう、バーハローズ様!」
ピカネートが喜びの声を上げると、他の船員たちも口々にお礼の言葉を述べた。
(よかった……)
喜んでいるみんなを見て、宇海もほっと安心した。もし自分の書き方が下手なせいで願いを叶えてくれなかったらどうしよう、と心配だったのだ。
「あなたをこの世界に連れてきて正解だったわ」
バーハローズが宇海にだけ聞こえるように言った。
「え……?」
「ふふっ。だって、あなたも海で冒険したかったんでしょう?」
いたずらっぽく笑うバーハローズ。宇海は驚いて声を上げた。
「何でそれを知ってるの⁉」
「あなたが神様にお願いしたことを、神様が知らないとでも思ったの? さっきも言ったように行動することも大切だけど、あなたはいつも頑張っているから、そのご褒美。たしかにあなたがいた世界とこの世界は全く別のものだけど、だからこそ叶えてあげられることもあるの。ちょうどこの世界には、あなたが創造したような女海賊がいたし、あの子たちにもちょっと助けが必要だったみたいだし」
ね? と言ってバーハローズがウインクした。
「あ、ありがとうございます!」
宇海がお辞儀をすると、バーハローズは「どういたしまして」と言った。
「我が愛しの冒険者たち! あなたたちは海の神であるこの私、バーハローズと、この小さな創造神、宇海の加護がついています! 私たちの加護がある限り、あなたたちはどんな困難も乗り越えられるでしょう!」
バーハローズがそう言うと、船員たちはまたしても喜びの声を上げた。
○
それからは船の上で盛大な宴が催された。もちろん、海賊も海軍も入り混じり、バーハローズも魔法で人間の姿になって参加した。バーハローズが変身すると、肌の色も青から人間と同じ色に変わったものだから、誰もが驚いた。
料理はもちろんココと海軍の料理人たちで作ったものだ。海軍の料理長が「アーレフ王女を救出した際にお出ししようと取っておいたものだ」と言ってウミガメの肉を取り出したとき、ココはそれを海の神様に食べさせるわけにはいかないと必死に抵抗した。すると料理長も思いとどまって、海の生き物は使わないことに決まった。それ以外は問題も起こらず、みんなで楽しくご馳走を作った、とココが楽しそうに話すのを、宇海はそのご馳走を食べながら聞いた。だから今回は肉ばかりなんだ、と妙に納得した。でもウミガメのお肉も気になるな。どんな味なんだろう。
ご馳走を食べ終えた後は、サミニクがミリーを奏で、バーハローズが歌い、他のみんなはそれに合わせて踊った。アーバントはアーレフを誘って踊ろうとしたが、その間にピカネートが割って入って先にアーレフの手を取ってしまった。仕方がないのでアーバントは別の人を誘うことにした。
「俺と共に踊ろうではないか、小さな姫君よ」
「へ⁉ え⁉」
その別の人とは、宇海である。突然柔らかな笑みと共に手を差し出された宇海は、顔を真っ赤にさせた。アーバントは悪い人だとわかっているつもりではあったが、アニメでしか見たことがないような長い銀髪とミステリアスな紫色の瞳に見つめられると、どうしてもドキッとしてしまうのだった。
「だーめ! ウミちゃんはボクと踊るの!」
アーバントを前に赤面して何も言えずにいる宇海を、ココが急いで救出した。
「ウミちゃん、ヘンな男に騙されちゃダメだよ」
「う、ん……」
「俺は身元も身分もハッキリした男だ。ヘンな男ではないから安心するがいい」
「ウミちゃんをからかう時点で全然安心できないからダメ! ほら、行くよウミちゃん」
「あ、待ってココちゃん……!」
ココは半ば強引に宇海を引きずりながらアーバントから離れた。一人残されたアーバントは、もう他にからかい甲斐のありそうな人物もいなかったので、喧騒から少し離れた場所に移動し目を閉じながら歌声に耳を傾けていた。それはまるで、波の音を思わせるような心地の良い歌声だった。




