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エタリップ海賊団と海の神  作者: みーこ


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第49話 お互いを認め合う

 その後、ゴルタヴィナは船の操舵、ココはまた海軍の料理人と一緒にご飯を作るために抜けたが、宇海うみ、ピカネート、アーレフ、アーバントの四人で、古いお話の中から海の神バーハローズに会うための手がかりが得られないか話し合った。アーレフとアーバントの二人はたくさんのお話を知っているようだったが、どのお話も初めて聞く宇海は内容を覚えきれなかったので、途中からメモを取ることにした。

 お話は『ティポーダの船』以外にも色々あった。恋人を失った悲しみで海に飛び込んだら人魚に出会ったお話。ゴミを何度も海に捨てていたら海の怒りを買ったお話。傷ついたイルカを助けたら海から贈り物をもらったお話。嵐に巻き込まれ無人島へ流れ着いたらきれいな女の人がいて、その女の人が人魚に変身したお話。などなど。


「この中になにか共通点があるかしら」


 アーレフが悩まし気な表情を浮かべながら言った。


「ピンチに遭ったら助けてくれてるような気はするけど……どれも昔のことなんだろう? 今でも同じように現れてくれるのかねぇ」


 ピカネートも眉間にしわを寄せるほど考えながら言う。それを聞きながら宇海も思った。昔話で起きたような出来事が現代でも同じように起こった、なんて話は聞いたことがないかもしれない。


「では試しに遭難してみるか? 多少無茶をすることにはなるが、魔法でどうにか——」

「しなくていいわよ」


 アーバントの無茶苦茶な提案を、アーレフが即座に却下した。


「いい案だと思ったのだがな。君はどうだ? なにか思いつかないか?」

「え、わたし⁉」


 突然アーバントから話を振られた宇海はびっくりして声を上げた。


「君の耳と知識では、同じ話を聞いても俺たちとは違うとらえ方をしているかもしれん。〝頼り〟と〝便り〟のようにな。なぜ俺たちが話題に出していないのだと不思議に感じるようなことはなかったか?」

「え? え~っと……」


 急にそんなことを言われても、宇海にはとんと思い当たるようなことはなかった。仮にあったとしても、そんなすぐにはわからない。

 宇海が黙っていると、アーバントはあからさまに不満そうな顔をしてみせた。期待外れだとでも言うようにふんと鼻を鳴らす。するとすぐにピカネートがそれを注意した。


「ちょっとアーバント。その態度はないだろう。ウミだって一生懸命考えてくれているんだ。誰だってアンタみたいにすぐ答えを出せるわけじゃないんだよ」

「ああ、そうだな。忘れていた。俺以外馬鹿であるという揺るぎようのない事実を」

「だから、いちいちそういうことを言わなくったっていいだろう! なんでアンタは余計なことしか言えないのかね」

「言葉にしなければ伝わらんであろう」

「しなくていいことだってあるんだよ!」

「ああもう、二人とも落ち着いて。ウミちゃんが困っているでしょう」


 ピカネートとアーバントの言い争いをアーレフが止めた。自分のせいでこうなってしまったのかとおろおろしていた宇海だったが、アーレフが「気にする必要はないわよ。この二人はいつもケンカしてばかりだから」と小声で教えてくれたのでほっと胸をなでおろした。


「そんなことよりも、考えるべきことがあるでしょう。本当に黄昏時にならないとバーハローズ様には会えないのか、それ以外にも方法はあるのか」

「ごめん、そうだったねアーレフ。ううん……。こんなことになるなら、一昨日アグリア様に会った時にもっと具体的な場所を聞いておくべきだったね」


 ピカネートが溜息をつきながら言うと、アーバントが驚いたように言った。


「アグリアだと⁉ まさか、原初の神の、あのアグリアに会ったと言うのか⁉」

「ゲンショ……? ああ、なんだかそんなことも言ってたっけねぇ」

「あら、あなた知っているの? アグリア様のこと」


 アーレフが問うと、アーバントは「当然だ」と頷いた。


「古代の魔法について調べている時に出てきたのだ、原初の神という集団が。しかし先にも言ったが、宗教革命の折に原初の神に関する資料が失われたのか、今ではほとんど残っておらん。それでも集められるだけ集めてはみたのだが……くっ……なぜ俺の前には現れなかったのだ……。本人から直接聞くことができれば、資料を作り直すことができたというのに……!」


 会えなかったのが相当悔しいのか、アーバントは握りしめた拳をぶるぶると震わせた。


「いや、しかし、これから別の原初の神に会うわけだからな。ククッ……水の神に会えなかった分、海の神に大量の質問を浴びせかけてやればいいのだ……」

「お願いだから、神様相手に無礼なことするのはやめてよね」


 また妙なことをしようと考えているアーバントを、アーレフがやんわりとたしなめた。


「う、む……。アーレフがそう言うのであれば、仕方がない。加減はしよう。しかし、アグリアが姿を現したとはな……。その時、かの神はどのようなことを言っていたのだ?」


 アーバントが尋ねると、アーレフが答えた。


「たしか……海軍の攻撃をかいくぐったその先でバーハローズ様は待っている、とおっしゃっていたわ。勇敢な船乗りが好きなんだそうよ」

「ふむ……」


 話を聞いて考え込みだしたアーバントの横で、宇海が「あ!」と声を上げた。


「もしかして、海軍を倒さないとダメだった……とか? あ、でも……」


 宇海はぱっと思い浮かんだことを咄嗟に口走ったが、それからすぐにまた別の考えが浮かんできた。


「どうかしたのかい、ウミ」

「うん、あの……アグリア様って、勇敢で、優しさに満ち溢れていることをバーハローズ様に示すといいって言ってたよね」

「ああ、言ってたね」


 とピカネートが頷く。


「わたしたちって、海軍と戦ったけど、結果的には引き分けっていうか……倒してないから、どっちが勝ったとかないし、それに今一緒にいるよね。一緒に船を直したり、一緒にご飯作って食べたりしてる。こういうのも、優しさに入る……のかな」


 宇海は自分が変なことを言っていないか、ちゃんと言いたいことが伝わっているのか段々不安になってきた。だが、アーレフが笑顔で頷いたのでほっとした。


「そうね。敵対していた相手と協力する。これを優しさと言わないなら他になんて言うのか、私にはわからないわ」

「お人好しであるな」


 アーバントがぼそりと言ったのは聞かなかったことにして、宇海は続ける。


「でも、その……ピカネート船長とアーバントさんは、ケンカしてるでしょ?」

「「ん?」」

「だから、もしかしたら、ケンカしてる人たちがいると、現れてくれないんじゃ……ないのかな……」

「「……」」


 おどおどと言い終えた宇海は、ちらっとピカネートとアーバントの二人を見上げる。二人とも、じとっとした目で相手を見ていた。


「どうするんだい、アーバント。どうやら原因はアタシが人魚の像を壊したことだけじゃないみたいだよ」

「なにを言っているのだ貴様は。彼女は貴様のその態度が悪い……すなわち貴様の存在それ自体が神の現れない原因だと言って」

「言ってないわよ」


 アーバントの台詞に被せるようにアーレフが言った。アーレフもこの二人の仲の悪さには困っているようだ。


「ウミちゃんの言う通りかもしれないわ。人であれ、神様であれ、ケンカしている人たちの前に現れたいとは思わないでしょう。ピカネートも、アーバントも、仲直り……はちょっと違うわね。そう……お互いを認め合う、というのはどうかしら」

「認め合う?」

「こやつとか?」


 アーレフはゆっくり頷いた。


「無理に仲良くなれとは言わないわ。誰にだって、好きになれない人くらいいるもの。だから、そう、認め合うの。相手のいいところも、悪いところも。違いを認め合って、協力できるときには協力して、相手が間違っていると思ったときには協力しない。で、今はお互いバーハローズ様に会いたいから協力する。これでどうかしら、ウミちゃん」

「うん! いいと思う!」

「さあ、どうするの、二人とも」


 問われて、ピカネートとアーバントの二人はじっと相手を見据えた。しばらく誰も何も言わなかったが、不意にピカネートがすっとアーバントに向けて手を差し出した。


「二人の言う通りだ。今はちっぽけなことでアンタと言い争っている時じゃない。アンタのしたことの中には、許せないこともある。でも……アンタは凄腕の魔法使いだ。見習うべきところもある。アタシも、その……昔は、アンタの魔法に憧れてたからね。それに、堂々とアーレフと一緒にいられるのも、羨ましく思ってたんだ」


 ピカネートがそう言うと、アーバントは驚いたように目を見開いた。


「初耳だな。憧れていたのか、貴様も、この俺に。そうか……そうか! ふっ……ふふっ……アッハハハハハ! そうかそうか! 貴様も可愛いところがあるではないか!」

「ちょ、ちょっと! なんでそうなるんだい! これだからアンタってやつは……!」

「俺もだ!」

「……は?」


 突然何を言い出すのかと、ピカネートだけでなく、宇海とアーレフも首をかしげた。


「俺も、貴様が羨ましかったのだ。アーレフと仲睦まじく遊んでいる貴様が」

「え……」

「俺はアーレフが生まれた時から側にいた。兄妹も同然のように育ってきた。だが、俺はアーレフの婚約者であり、魔法を教授する立場でもあった。俺は未来の宮廷魔術師として様々なことを覚える必要もあった。ただの子供同士としてアーレフと遊ぶことはできなかったのだ。だから、ただの子供同士としてアーレフと遊べる貴様が羨ましかった」

「そう、なのかい……?」

「ああ」


 アーバントは自嘲気味に笑うと、差し出された手を握った。


「案外、ないものねだりの似た者同士だったのだな」

「……ああ。そうだね」


 ピカネートは握られた手を強く握り返した。その様子を、宇海とアーレフは笑顔で見守った。

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