第45話 書き終えた!
船の修理もあらかた終わり、大量に作られた食事をみんなで食べているころ。宇海はまたしても船長室で書き物をしていた。今書いているのは、バーハローズ様に読んでもらうための、海賊のみんなの話だ。
「う~~ん……」
サミニク、ココ、ゴルタヴィナから聞いた話をまとめるのはそんなに苦労しなかった。けれどもアーレフとピカネートから聞いた話は、どうまとめればいいのか悩ましい。さっきから何度も書いては消して、書いては消してを繰り返している。
「ごめんよウミ。思ったより大変なことを頼んじゃったね……」
宇海にみんなのお話を書くよう頼んだピカネートも、そんな宇海の姿を見て自分の思いつきでした発言を反省していた。
「大丈夫だよ。みんなのお話を聞いて、自分が知らない世界のことを知れたのは嬉しかったし、聞いててワクワクしたもん!」
「そ、そうかい?」
「うん。ただ、その、さっきサミニクさんも言ってたし。半端な音色は怒りを買うって。人に……神様に読んでもらうんだもん。中途半端なものは見せられないなって、そう思ったの」
「……そっか。ウミは頑張り屋さんだね」
そう言って微笑むピカネート。宇海はこそばゆい思いをしながら手元の紙に視線を落とした。間違えたり、なんか違うなと思ったものにバツをつけた跡がいくつもある。でもバツをつけるたびに、別の書き方が浮かんで、より良いものに近づいてきている気がする。簡単ではないけれど、それがなんだか楽しい。
「でも、根を詰めすぎなくてもいいからね。休憩も大切だよ。まだご飯食べてないだろう? アタシがウミの分も持ってくるから、一緒に食べよう」
「うん。ありがとう」
ピカネートが船長室を去るのを見送り、宇海はまた羊皮紙と向かい合った。ピカネートから聞いた、大胆で、スリルがあって、そして感動したお話。それをどう書くべきか。どうすれば読んだ人にも同じドキドキを味わってもらえるのか。そんなことを考えながら、また書き進めていく。
○
ランタンに火が灯されるころ、宇海はようやくお話を書き終えることができた。
「できた~!」
ぐっと伸びをしながら声高に叫ぶ宇海。
「お疲れ様、ウミちゃん」
「ありがとな、ウミ」
ピカネートとアーレフに協力してもらいながら、最後までたどり着けることができた。今までもいくつかお話を書いてきたが、その中で一番難しくて、一番楽しかった。
「ピカネート船長とアーレフさんも、ありがとう! これでちゃんと、神様の〝お墨付き〟もらえるかな」
「ああ。これを読めばバーハローズ様だって、アタシたちの想いも、ウミの頑張りも、わかってくれるよ」
「うん……!」
ピカネートから褒められて、宇海は素直に嬉しい気持ちになった。が、すぐに心配な事柄が思い浮かんだ。
「バーハローズ様って日本語読めるのかな……」
宇海は日本人なので、当然のように日本語で書いた。でもみんなは違う国の人だ。アーバントも宇海の書いた字を「初めて見る文字だ」と言っていた。だから、たとえ神様でも知らない国の文字で書かれたお話は読めないんじゃないか。
「大丈夫よ。その時はウミちゃんが読んであげれば問題ないわ」
「え⁉ わたしが自分で読むの⁉ ……あ、でも、うん。そうだよね。わたししか読めないもんね……」
自分で書いたお話を友達に読んでもらったことはあるけど、自分で音読したことはない。考えるだけで恥ずかしい気分になる。
「恥ずかしがることはないよ、ウミ。だって、お話を書くなんて、誰にでもできることじゃないだろう? 自信をもって、堂々と読めばいいんだ」
「でも、うまく読めないし……」
「そのくらい、バーハローズ様も大目に見てくれるよ。大丈夫。ウミはウミにしかできないことをやってのけたんだ。そこはちゃんとわかってくれる。わからないような神様なんて、こっちから願い下げだよ」
「……うん」
「本当にありがとうな、ウミ。今日はもう休みな。明日に備えて、ゆっくり寝るといいよ」
「今日は一日中大変だったものね。明日もどんな一日になるかわからないけど、きっと、今までで一番素敵な日になるわ。そんな時に疲れていたらそれこそ大変だもの、今日はゆっくり休んでね」
「うん。ありがとう、ピカネート船長、アーレフさん。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい」
宇海はまだ眠くはなかったものの、ずっとペンを動かし続けていたから腕が疲れていた。だからお言葉に甘えて、一足早く船室に戻って休むことにした。
(明日、神様に会う……)
昨日も水の神様だというアグリアに会ったが、今日一日でいろんなことがありすぎて、遠い昔のことのように思えた。
(明日、海の神様に会う……)
バーハローズという名前の神様。聞いたこともない神様だけど、ピカネートたちも、海軍の人たちも会いたがっていた。だからきっと、素敵な神様に違いない。それにバーハローズは人魚でもあるという。アリエルみたいにきれいな歌声なのかな、と宇海は想像した。だから〝音をたよりに〟するのかな。
そんなことを考えながら、宇海はだんだんと眠りに落ちていった。




