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エタリップ海賊団と海の神  作者: みーこ


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第43話 これを無効とする

 それからは、誰も彼もが慌ただしく働いた。

 アーレフは怪我人の手当て。ゴルタヴィナは海軍と協力して船の修理。ココも海軍の料理人と協力してみんなのためのご飯を作った。ピカネートはクリスナー大尉と共にこれからの進路を決め、サミニクはいつものようにミリーを奏でながら見張りをしていた。

 そして宇海うみは船長室にこもっていた。もちろんアーバントの魔法の契約書を全て無効にするためだ。机に向かい、ひたすら虹の羽ペンを走らせる。何枚もの紙に〝これを無効とする〟と同じ言葉を書いているので、だんだん頭がこんがらがってきた。今書いている文字って、これで合ってるの? 間違ってない?


「少し休んではどうだ? 同じ言葉ばかり書いていると、徐々にわけがわからなくなってくるであろう。そういう時は一旦距離を置き、別のことをするとよい」


 悪さしないように見張っておいて。とピカネートに言われ、宇海と共に船長室に押し込められたアーバントが言う。しかし、コイツの言うことを素直に聞いちゃダメだよ、とも言われていたため、宇海はピカネートの言う通りにした。


「べ、別に大丈夫だもん。わけわからなくなってないし」

「そうか? だが、先程書いたやつは、それまでのとは少し字が違う気が……」

「ウソ⁉」


 宇海は慌ててさっき書いた文字と、別の契約書に書いた文字とを見比べた。どこ? どこが違うの?

 するとアーバントがくすりと笑った。


「その行動こそが、わけがわからなくなってきている証拠だ。休め。なに、心配せずとも妙な真似はしない。それよりも君の書いているその文字に興味がある。少し話しを聞かせてもらえないか」

「……」

「睨むな。それともあれか? 一時いっときも休むなと言われているのか? おお、こんな幼い子供になんてひどい仕打ちだ。この船の船長はさぞ恐ろしい人間なのだろう」

「ピカネート船長はいい人だよ」

「そうか? 本当に〝いい人〟であれば、海賊になどなろうと思うわけがない」

「……アーレフさんがあなたと話をするのが嫌って言ってたの、わかる気がする」

「くくっ。拗ねるな」

(拗ねてないし……)


 宇海はアーバントを無視するように、手元の契約書をまた見比べた。やっぱり、違うところはない気がする。

 ところがこちらに近寄ってきたアーバントが、縛られた両手を持ち上げて、器用に宇海の書いた文字を指差す。


「ほれ。これと、これ。少し違うのではないか?」


 アーバントが指したのは〝効〟の字の右下。最初の方に書いたものは、しっかり丁寧に書いていたので()()があるが、段々と面倒くさくなってきていたので、さっき書いたものは()()がない。


「ちょ、ちょっとはね忘れただけだし。読めるから大丈夫だもん」


 むすっとしながら言うと、アーバントが疑うような目で見てきた。


「本当に大丈夫なのか? 俺にとっては初めて見る文字だから、本当に大丈夫なのか判断が……」

「は、はねさせればいいんでしょ」


 重箱の隅をつついてくるアーバント。宇海はそんな彼にイラっとしながら〝効〟の字に()()をつけ加えた。漢字のテストじゃないんだから、これくらいいいじゃん。


「しかし興味深い文字だな。簡素な字と複雑な字とが混じり合っている。いったいどこの国の字だ?」

「……日本」


 なおもアーバントが話しかけてくるので仕方なく答えると、彼は首を傾げた。


「ニホン? 聞いたことがないな。よほど遠いところから来たようだな。……それにしては滞りなく会話ができるのは不思議だ。その歳で遠いところから来て、ニホンとやらの国の文字が書け、オールクスル語が堪能とは、どのような環境で育ってきたのだ?」

「えっと……」


 宇海はそこで答えにつまった。言われてみれば、たしかに不思議だ。全然知らない場所に来たのに、どうして普通に会話ができるんだろう? 日本語の読み書きができるのは学校で習ったからだけど、オールクスル語なんて聞いたことがない言葉を習った覚えも、喋った覚えもない。ここに来てからずっと、日本語で会話してきたはずだ。自分も、みんなも。もしかしてみんなには、わたしがこの世界の言葉を喋っているように聞こえているの?

 思い悩む宇海を見て、アーバントは一人でなにかを納得するように頷いた。


「なるほどな。聞くべきことが増えた」

「……なんの話?」

「なに、こちらの話だ。それより——」

「ウミ! そっちは順調かい?」


 アーバントがなにか言おうとすると、突然扉が開いてピカネートがやってきた。宇海の側にいるアーバントを見て、ピカネートはすぐにその間に割って入った。


「ちょっとアーバント。アンタまたウミに変なこと吹き込んでるんじゃないだろうね」

「またとはなんだ、失礼な。俺は言語の話をしていただけだ。そうだな?」

「えっと……そう、なのかな……」


 宇海があいまいな返事をすると、「ほら!」とピカネートが言った。


「返事に困ってるってことは、そうじゃないってことだろう。すぐにウミから離れな。今度はアタシの仲間に妙な魔法をかけようってんなら、タダじゃおかないよ」

「そんなに心配するくらいなら、俺をどこか別の場所で、一人きりで隔離すればよかろうに」

「その間に消えちまうかもしれないだろう」

「だな」

「まったく……」


 ピカネートをからかったことで気が済んだのか、アーバントはまた元の位置に戻った。ピカネートはアーバントを一睨みしてから宇海に向き直る。


「ウミ。仕事はどう? 進んでる?」

「うん、進んでるよ。もう半分くらい終わった」

「そうかい。順調そうでなによりだよ。アイツになにか変なことされたり、言われたりしてないかい?」

「大丈夫」

「本当に? 間違えてないのに字が間違ってるとか言われたりしてない?」

「……した」

「やっぱり」


 宇海が正直に答えると、ピカネートは横目でアーバントを睨んだ。


「はねを忘れたとかなんとか本人も言っていたのだから、正しく間違いを指摘しただけだぞ」

「どうだかねぇ……。それよりウミ。それが終わってからでいいんだけど、少し手伝ってほしいことがあるんだ。後で船首まで来てくれるかい?」

「うん。いいよ」

「ありがとう。……ああ、一応コイツも連れて来てくれるかい? ここに一人きりにさせたくはないからね」

「わかった」


 返事を聞くと、ピカネートは「じゃあ、また後で」と言って去っていった。


「そんなにも不安なのであれば、目につく場所に俺を置いておけばよいものを」

「……うるさいから、嫌なんじゃない?」

「意外と辛辣だな、君」

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