第40話 そんなの卑怯だよ!
「ピカネート船長! みんな……ひゃあっ⁉」
宇海はピンチに陥ったみんなを助けようともがいたが、すぐにアーバントに抱き上げられてしまった。
(お、お……お姫様抱っこ⁉)
かっこいい王子様にお姫様抱っこされるのも、それはそれで夢だった。しかし相手はピカネートたちを倒そうとする敵だし、どうも話を聞いていると王子様じゃないっぽいし、宇海はかなり複雑な気持ちになった。
でも、優しそうに微笑むアーバントの顔が近いことに気がつくと、宇海はすぐ顔を真っ赤にした。敵だけど、かっこいいものはかっこいい。
「暴れないでもらおうか、小さな魔女よ。アーレフが俺と共に帰ることに合意してくれれば、それで万事解決するのだ。なに、案ずるな。アーレフとて仲間の命は惜しかろう。断って君の目の前でむごたらしい景色を見せるようなことはするまいよ」
そう言ってにっこりと笑うアーバント。宇海は考えを改めた。やっぱり、敵は敵だ!
「そんなの……そんなの卑怯だよ!」
「ほう? なにがどう卑怯だと言うのだ?」
「だって、やってることがおかしいもん! アーレフさんと結婚したいなら、なんで〝好きです。結婚してください〟って言ってプロポーズしないの? なんで人質を取るの? こんなことしたら、大切な友達を守るために、嫌でも〝結婚します〟って言わなきゃいけなくなっちゃうじゃん!」
宇海はアーバントをおもいっきり睨んでやった。これでなにか変わってほしい。そう思ったが、しかしアーバントは笑みを深めるだけだった。
「なるほど。アーレフが王女だと知ったばかりの君には、想像もつかないことだろうな。一つ教えてやろう。俺とアーレフの結婚を決めたのは、俺たちではない。俺たちの父親だ。アーレフが生まれたときに、そう決められたのだ。俺たちの意思とは関係なくな。だから俺にも、アーレフにも、拒否権など初めから存在しないのだよ」
「そんな……」
アーバントの口から告げられた事実に、宇海はショックを受けた。心なしか、アーバントの表情もどこか悲しそうに見える。
「それに、彼女らは王女を攫った犯罪者だ。犯罪者は処罰せねばならん。それくらいは君でもわかるだろう」
「でも……」
「俺とて、好きで彼女たちを捕まえようとしているのではないのだ。国王陛下から王女を攫った犯罪者を捕まえるよう仰せつかっている。陛下の命は絶対だ。だから海軍とともにここまで来た。しかしアーレフが彼女たちのことを大切に想っていることもよくわかっている。俺はその気持ちを尊重したい。そのため先程から何度か言っているが、アーレフが俺と共に帰ることに合意すれば、彼女たちの無事も保証しようというのだ。だから、無理にとは言わぬが、君からも説得してもらえないだろうか」
「…………」
(この人の話、信じてもいいの……?)
宇海は悩んだ。ピカネートからは、彼の言葉を素直に信じちゃダメだと言われた。でも全部ウソだとは思えない。ウソとホントが混ざってる?
アーバントの言う通り、人を攫うのは悪いことだ。だから捕まえないといけない、というのはわかる。でも、ピカネートたちがなんの理由もなしに人を攫うとも思えない。なにか理由があるなら、その理由を聞かないといけないんじゃないの? 裁判ではそうやっていろんな人から話を聞いて判決を下している、と授業で習った覚えがある。
「説得する必要はないわ」
「……! アーレフさん!」
「アーレフ。やっと決心してくれたか」
剣を構える海兵たちの中から、アーレフが堂々と進み出た。アーレフには攻撃しないよう命じられているのか、海兵たちはアーレフが通れるように道を開けていく。宇海はその光景を見て少しほっとしたが、それ以上に不安がかきたてられた。このままでは、アーレフとアーバントの二人は親に勝手に決められた結婚をすることになってしまうし、ピカネートたちは捕まってしまうかもしれない。アーバントは無事を保証すると言っていたけど、きっとそれを最終的に決めるのは王様だ。もし王様が自分の娘を誘拐した人たちを絶対に許さないと言ったら、牢屋に入れられてしまう。
アーレフが二人の前まで来た。
「アーバント。ウミちゃんを下ろして」
「もちろんだ」
アーバントはゆっくりと宇海を下ろした。解放された宇海がアーレフに近寄ると、彼女は宇海を抱きしめてきた。
「ごめんなさいね、ウミちゃん。怖い思いをさせちゃって」
「ううん、大丈夫。ねえ、アーレフさん、その……」
「なぁに?」
「アーバントさんが言ってることって、本当なの? お父さんにアーバントさんと結婚することを決められたって」
「ええ、本当よ」
「嫌だって言えないの? 自分が好きな人と結婚したいって」
「嫌だと言っても、聞いてもらえないのよ。覚えているかしら、世界最古の魔女狩りの話を。あの時代は今よりも女性の地位が低かったことも話したと思うけど、今でも男性よりは下なの。だからたとえ一国のお姫様として生まれても、自由に結婚はさせてもらえない。王様の言うことは絶対なの。でも……」
アーレフは抱きしめる力を強め、宇海にだけ聞こえるくらい小さな声でささやいた。
「海は、自由よ」
「……!」
さっと立ち上がったアーレフの顔は、自信に満ちていた。
「抱擁は済んだか? 城に戻ってからでも、何度でもできるというのに。だが、その優しさもまた君の美点だ。さあ、おいでアーレフ。共に城に帰ろう」
アーバントがアーレフに手を差し伸べた。アーレフはその手を見つめ、しかし手を取らず、代わりに口を開いた。
「その前に、私の友人たちを解放してくれないかしら」
「ああ、いいだろう。……と言いたいところだが、万が一ということもある。反逆を起こされても困るのでな。城に戻るまで監視下に置かせてもらうぞ。この船の操縦も海軍の者どもに任せる」
「だろうと思ったわ」
「さすがは我が婚約者殿。俺の考えはお見通しというわけだ」
「さすがに全部ではないわ」
「では、後はなにを見通している?」
ニヤリと笑うアーバント。一拍置いて、アーレフが答えた。
「無事に帰す気がないってこと」
どおおおおおおおおおん‼
轟音と共に船が揺れた。




