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第3話 ようこそ、エタリップ海賊団へ!

「おやおや、元気いっぱいだねぇ!」


 あっはっは、と豪快に笑う女海賊を、宇海うみは目を丸くしながら見ていた。


「アンタみたいに元気のいい子は嫌いじゃないよ」


 女海賊が宇海に近づいてきた。目の前まで来ると、しゃがんで目の高さを合わせる。海のように青い瞳がとても綺麗だと宇海は感じた。


「はじめまして、お嬢様。アタシはこのエタリップ海賊団の船長、ピカネート・エタリップだ。アンタ、自分の名前はわかるかい?」


 おとぎ話に出てくる王子様のように凛々しい声で、ピカネートと名乗る女海賊が言った。宇海はなんだか夢見心地のまま、ゆっくりと頷いて答えた。


「わたしは、宇海。……波風、宇海です」

「ウミか。いい名前だね。それじゃあウミ、アンタはどうして空から落ちてきたんだい?」

「空……?」

(空から、落ちて……)


 親方、空から、女の子が……?

 わたしはいつの間にシータになったのだろう。なにも理解できずに宇海は目を丸くしたままピカネートを見つめた。


「おや、覚えていないのかい? アンタは空から海に落ちてきたんだよ。それをアタシが見つけて助けてやったんだ。もしかしたら神様が落っこちてきたのかもしれない、と思ってね」

「え、でも、わたし……」


 寝て起きたらなぜかここにいたのだ。空から落ちた覚えもなければ、神様になった覚えもない。突然こんなことが起きて混乱はしているが、その二つははっきりわかる。

 困惑した様子の宇海を見て、ピカネートは優しく言った。


「ウミ。覚えているところまででいいから、何か教えてくれないかい? アンタが困っているなら、アタシは助けてやりたいんだ」


 ピカネートがそっと宇海の肩に手を触れた。ほのかな手の温かさが宇海の心をゆっくりと落ち着かせていった。宇海は一度深呼吸をして、「うん」と頷いた。


「昨日は、学校の宿題をやってて、でも、その……途中で小説を、書いたりしてて……。えっと、それから、夜寝る前に……」

(どうしよう……。正直に話すのが、怖い……)


 今でも小説を書いていることや、ましてや星空に願いごとをしているなんて、誰にも話したことがないのだ。それを今さっき会ったばかりの人に話すのが怖かった。あの時のように小説を書いていることを怒られたり、どうせ叶いもしないのに星空に願いごとをするなんてと馬鹿にされたりするのではないか。お母さんみたいにあの嫌な視線を向けてくるのではないか。そんな負の感情が宇海の心に渦巻いた。

 黙りこくった宇海を不審に思ったのか、ピカネートが「どうしたんだい?」と声をかけた。


「夜寝る前に、何か嫌なことでもあったのかい?」

「う、ううん。そうじゃないの」


 宇海は首を横に振った。この人なら大丈夫かな。怒らないかな。笑わないかな。以前に一度だけ、まだ宇海が友達にノートを見せていた頃、宇海が短いお話を書いていることを馬鹿にして笑ってきた男子がいた。すぐに友達が注意してくれたし、宇海ちゃんの考えるお話は面白いんだから気にしなくていいと言ってくれた。それでもそれ以降、仲良しの子以外には知られたくないと思うようになった。もしいつか仲良しの子にも「つまらない」と言われたらどうしようと、心の奥底で考えるようになった。

 それでも、少し怖いけど、この人なら大丈夫な気がして、宇海は勇気を出して口を開いた。


「あの……わたしが何言っても、笑わない?」


 そう聞くと、ピカネートは不思議そうに首を傾げた。


「どうして笑うんだい? 誰かの話を笑う奴は、自分が馬鹿にされたくないから笑うだけの愚か者さ。アタシがそんな愚か者に見えるかい?」


 宇海はまたぶんぶんと首を横に振った。違う。やっぱり他の人とは違うんだ、この人は。


「それじゃあ話しておくれ」

「うん……。わたし、昨日、女の子が女の人だけの海賊団と出会って、海で冒険するお話を書いたの。それで、夜になってから、星空にお願いごとをしたの。夢でもいいから、わたしも船に乗って冒険したいです、って。……ねぇ、ここってわたしの夢の中なの?」

「夢? アタシは今自分が夢の中にいるとは思わないけどね。ほら、おいで」


 ピカネートは立ち上がると、宇海の手を取って歩き出した。


「確かに夢のようだと思うときはあるけど、この潮風は現実のものだよ」


 そう言ってピカネートは部屋の扉を開けた。


「わぁ……!」


 潮の香りを含んだ風が、宇海の頬をなでる。一面に広がるのは、太陽の光を受けて輝く海と、晴れ渡る青い空。ずっとずっと向こうには水平線。今自分が立っているのは、木造の船の上。顔を上げると大きな帆が見える。

 わたしは今まさに、海に浮かぶ帆船の上に立っているんだ! 夢のような光景に宇海は目を輝かせた。しかも、これは……。


「夢みたいだけど、これは確かに現実だよ」

「うん……!」


 夢ではないと、潮風が、太陽の熱が教えてくれる。これは本当に現実なんだ。どうしてかはわからないけど、わたしは確かにここにいるんだ。


「アンタがこの世界の創造神だって言うならそれは面白い話だけど、そしたらアタシたちはみんな昨日生まれたばかりってことになるねぇ。ねえ、アンタたち! この中で昨日生まれたばかりの奴はいるかい?」


 ピカネートが誰かに呼びかけるように、大声で言いながら扉のそばに吊るされている鐘を鳴らした。するとピカネートほど豪華ではないが、海賊らしい服装の女の人たちが四人甲板にやってきた。その中には宇海が目覚めた時にいた茶髪の人もいる。


「私はあなたと同い年でしょう、ピカネート」


 と、真っ先に答えたのは茶髪の人。


「ボクももう子供じゃないよ」


 頬を少し膨らませながら答えたのは、燃えるような赤い髪に黄色のリボンをつけた少女だった。


「私はこの中で最年長だと思っていたけど、違うの?」


 頭に青色のバンダナを巻いた、がっしりした体格の人が不思議そうに言った。


「今日の我々が昨日の我々と同一とは限らない。だが昨日生まれたばかりの存在であるとも限らない」


 最後に芝居がかったような答えかたをした人は、銀髪をゆったりと一つ結びにして黒色の帽子を被り、ヴァイオリンのような楽器を携えていた。


「だそうだよ、ウミ。アンタがこの世界を昨日作った創造神だとしても、アタシらにとっては、ずっと続いている現実なのさ」

「なぁに、ピカネート。その子、神様だって言うの? しかも創造神?」


 茶髪の人が聞いた。


「ああ。昨日女の子が女海賊と冒険するお話を書いたんだってさ。あ、もしかしてアタシたちみんなの名前もわかるかい?」


 ピカネートが興味津々な顔で聞いてきた。だが、宇海は名前まで考えていなかったらわからない。考えていたとしても、もし違ったら申し訳ない。宇海は首を横に振った。


「そうか。それじゃあアンタたち、ウミに自己紹介しな」


 ピカネートが命令すると、みんながさっきと同じ順番で自己紹介を始めた。まずは宇海がここで初めて会った茶髪の人。


「私はアーレフよ。この船でお医者さんをしているわ」


 次に赤髪に黄色のリボンの少女。


「ボクはココ。船のみんなのご飯を作っているんだ!」


 そして青いバンダナを巻いたがっしりした人。


「私はゴルタヴィナ。一応航海士……って言ってわかるかな。船の操縦をしているの。ああ、名前は長いからヴィーナでいいよ」


 最後に銀髪に黒帽子を被り楽器を持った人。


「我が名はサミニク。こちらは相棒のミリー。歌い、奏でることこそ我らが喜び」

「んで、アタシが船長のピカネート。この五人とこの船で、この海を冒険している。人呼んで、エタリップ海賊団さ!」


 ピカネートが高らかに言うと、アーレフが小さな声で「呼ばれたことはないけどね」とつけ加えた。

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