第35話 凄腕の魔女
一方その頃、エタリップ海賊団の乗る船ではギイギイと嫌な音が鳴り続けていた。
「サミニク! 頼むからもうその音を出すのやめてくれないかい!」
舵輪を握るピカネートが、見張り台にいるサミニクを見上げながら叫んだ。
「だが船長! 海軍の旗が見えた以上、我々は常に警戒する必要がある! 警戒心を忘れないためにも常にこの音が必要だとは思わないか!」
サミニクも負けじと大声で返した。しかしピカネートが「思わない!」と叫び返すと、驚いてミリーを演奏する手を止めた。ピカネートの顔が物凄く怒っていたのだ。
「海軍がこっちに来るまでずっとその音を聴いていたら、アタシたちが先に倒れちまうよ」
「…………それは、申し訳ない」
サミニクが大人しくなったのを見て、ピカネートは甲板にいるココとゴルタヴィナに声をかけた。
「さあ、アンタたち! いよいよこの時が来たよ! 海軍との対決の時が! とは言え、大事なのはいかに戦わずに済ませるか、だ。それが勝負所と言ってもいいね。いくらアタシらを憎んでいる海軍といえども、アーレフが乗っている以上おいそれとは手を出せないはずだよ。大砲の一発も撃たせずに終わらせる。これが目標だ」
二人が頷くのを見て、ピカネートは続きを話した。
「いかにこちらの話をアイツらに信じさせられるか、これが重要だよ。昨日ウミにもたくさん練習させたけど、それに合わせたアタシらの働きも失敗は許されない。アイツらにウミを神様だと信じ込ませられるかどうかは、アタシらの団結力にかかっている。いいね⁉」
「うん! ボク、今までで一番頑張ってみせるよ!」
「ここで負けたら今までの苦労が全部水の泡だからね。私も頑張るよ!」
ココとゴルタヴィナの返事の後に、ジャカジャン、と音が聴こえた。サミニクのやる気も十分のようだ。
「さて、後はアーレフとウミの準備ができるのを——」
「お待たせ、ピカネート」
「アーレフ!」
アーレフの部屋で準備をしていたアーレフと宇海が甲板に現れた。その二人の格好を見て、みんな驚いて目を丸くした。
「どうかしら、この格好」
「へ、変じゃない、かな……」
アーレフは真っ赤なドレス姿。宇海はなんと黒いドレスとローブを着て、いかにも〝魔女〟らしい格好をしていた。
「ウミちゃん用の服をつくろいながら、思ったのよ。海軍にウミちゃんを神様だと思わせるなら、海賊の格好じゃいけないって。でも、神様らしい服装がわからなかったから、せめて凄腕の魔女とでも思ってもらえそうな格好を目指したわ」
解説するアーレフの隣で、宇海は身体をもじもじさせた。海賊らしい格好もいいけど、魔女らしい格好もすごくいい! 鏡で自分の姿を見ると、今ならダンブルドアくらい強い魔法が使えるんじゃないかという気分になった。これで魔法の杖があればもっと最高!
「いいじゃないか! よく似合っているよ!」
「うんうん! ウミちゃんって髪も黒いし、真っ黒な格好するとすっごくそれっぽい感じあるかも!」
「なんだか、一気に成長したみたいだね。子供の成長を見守る親の気分だよ」
ピカネート、ココ、ゴルタヴィナが口々に宇海を褒めると、最後にサミニクもミリーで綺麗な音を鳴らして賛同した。
「みんな、ありがとう!」
こんなに褒められるとは思わなかったものだから、宇海はなんだか気恥ずかしくなった。しかしそれ以上に嬉しかった。この世界の格好をしたことで、自分は確かにこの世界の一員になれたんだと感じた。
この盛り上がりがひと段落ついたところで、ピカネートが話を切り出した。
「よし。それじゃあ全員揃ったから、もう一度おさらいするよ! この戦いを無事に切り抜けられることができれば、アタシたちはきっと、海の神様に、バーハローズ様に会える。そして自由を得ることができる! 気合い入れていくよ!」
「「「「おおー!」」」」
ジャン!
みんなの掛け声とミリーの音色。それらが合わさったあとに、海軍との戦い前最後の作戦会議が始まった。
○
「ねえ、ピカネート。本当に大丈夫かしら……」
「アーレフ。これだけやったんだ。この中で一番小さくたって、度胸がある。ウミなら大丈夫さ」
「そうじゃなくて……〝彼〟のことよ」
作戦会議の後、アーレフはピカネートと二人きりで話がしたいと言って、二人で船長室にやって来た。会議中、アーレフは不安を顔に出さないようにしていたが、どうにも胸騒ぎがするのだ。ピカネートもアーレフのその様子と〝彼〟という言葉を聞いて、すぐになんのことか思い当たった。
ピカネートは安心させるように言った。
「それも大丈夫だって、前にも言っただろう? アブレリート島に上陸した時だって海軍と鉢合わせちまったけど、アイツの姿はどこにもなかったじゃないか。海軍に混ざって何ヶ月も航海する度胸なんて、アイツにはありっこないさ」
「でも、それは上陸していなかっただけで、船に残っていただけの可能性だってあるじゃない。彼って、ああいう場所嫌いそうだもの」
「ああ……それは言えてるね」
「それに、もし彼も乗っているとすれば、海軍に対してどんなことをしているのか……。さすがに全員を操る、なんてことはしていないでしょうけど、必ずなにか仕掛けているはずだわ」
「それもありえそうだね。でも、アーレフ。大丈夫。アタシが……アタシたちが、アンタをアイツに奪わせない。絶対に。何があっても必ずアンタを守る。……信じてくれるかい?」
ピカネートの真摯な眼差しを受けて、アーレフはふわりと微笑んだ。
「……ええ。もちろんよ」




