表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エタリップ海賊団と海の神  作者: みーこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/61

第33話 海軍航海日誌

 オールクスル王国海軍航海日誌 一一七五年五月(ティルタル)三十日

 航海開始から九九日目。天気、晴れ。波、穏やか。風向き、北東。

 一昨日より続いた船の補修作業は早朝に終了した。これより海賊ピカネート・エタリップ捕獲のため針路を西へ。同乗している魔術師アーバント・クラーク卿の進言によるもの。


          ○


「〝宮廷〟魔術師、と書いてくれないかね」

「ですが、事実を書きませんと」

「事実となるのだ。憎き賊を捉え国王陛下の元へ引き渡し、婚約者殿を助け出すのだからな」

「ですが、今は……」

「うるさい。読み書きできるだけの学があろうと、下っ端は下っ端なのだ。黙って俺の指示に従えないのなら、今すぐに海に放り出してやるぞ」

「は、も、申し訳ございません」


〝下っ端〟の海軍兵士が航海日誌に修正を加えるのを、未来の〝宮廷〟魔術師アーバント・クラークはイライラしながら見ていた。まったく。これだから規律に従うことしかできない下っ端は使えない。〝抜け穴〟を知っている老獪連中の方がまだ扱いやすい。

 と、そこへ突然部屋の扉が開き、クリスナー大尉が現れた。難しい顔をするクリスナー大尉を見てアーバントは一瞬顔をしかめたが、すぐに笑顔を取り繕った。


「魔術師殿、本当にこの方向に奴らがいるのでしょうな」

「おやおや、これはクリスナー大尉殿。ご心配なさらずに。私とて彼女の身の安全を案ずる者。嘘は申しません。それに彼女の魔法は幼き頃から見ております。あの力の美しさを忘れたことは一度たりともございません。あれは確かに彼女の魔法によるもの。そして、ああ、これは一昨日も申し上げたと思いますが、魔法を使えば必ず痕跡が残ります。その痕跡は大抵その場に留まるものですが、わずかながらに尾を引くのです。使用者の動いた方向へ。その尾は確かに西へと向かっていた」

「それは確かですかな」

「ええ、もちろんですとも。幸運なことに、彼女は昨日も魔法を使っている。私はその軌跡をしかとこの目で見て、進む方向を進言しているのです」

「ふむ……」


 疑うような目付きのクリスナー大尉。それをアーバントは笑顔で受け止めた。宮殿で若い女性に向ければたちまち頬を赤く染めるような笑顔だが、たいして若くもない男に使っても効果は薄い。おまけにクリスナー大尉からは、この笑顔をうさんくさがられていた。もっと効果が薄い。それでもアーバントは笑顔を緩めなかった。この話が嘘だろうが本当だろうが、魔法の痕跡が見えないクリスナー大尉には確かめる術がないのだ。魔法の痕跡が見えるものは、この船にはアーバント一人しかいない。希少な能力なのだ。だから魔法に関しては、アーバントの言うことを信じるしかない。だからこの言い争いは、初めからアーバントの勝ちが決まっていた。

 しばらく二人が無言で見つめ合っていたものだから、航海日誌を書き終えた下っ端海兵が居心地悪そうに「うっ……」と喉を鳴らした。それを聞いたクリスナー大尉が鼻を鳴らし、無言で部屋を出た。ふん。愚か者め。始めからこんなことをしなければ無駄な時間を過ごす羽目にならなかったものを。アーバントが内心で毒づいた。


「さて下っ端くん。ちゃんと俺のことは〝宮廷〟魔術師と書いてくれたんだろうな?」

「は、も、もちろんでございますとも!」

「よろしい。言えばできるではないか。この任務を無事終えた暁には、お前を俺付きの従者にでもなれるよう陛下に進言してみせようではないか。今よりもずっと地位が高くなるぞ。もちろん報酬もな」

「こっ……光栄であります!」

「いい返事だ。よし、では君の名前を忘れてしまわないように、この下の空いている部分に君の名前を書いてくれ」


 そう言ってアーバントは懐から一枚の羊皮紙を取り出した。そこにはなにやら色々と書かれているが、現代では読める人の限られた古代の文字。知らない人が見ても何かの模様としか思えない。内容を確かめる術を持たない下っ端海兵は、疑問を抱くこともなく言われた通りに自分の名前を書き足した。

 アーバントはほくそ笑んだ。前言撤回だ。俺の言うことを素直に聞ける馬鹿は扱いやすい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ