船乗りのむすめのお話
港町で生まれ育った少女、ゴルタヴィナのお父さんは、他の家のお父さんと同じように船乗りでした。毎日のように船に乗って沖へ出て、魚をたくさんつかまえて帰ってきます。雨の日も、風の強い日も、波があれている日も、少しでも多くのお金をかせぐために沖へ出ます。ですのでゴルタヴィナとお母さんは、毎日のようにお父さんが無事に帰ってくるよういのっていました。そしてお父さんが帰ってくると、三人でだきしめ合いました。
お父さんは家にいないことがほとんどでしたが、家にいるときは、ゴルタヴィナはお父さんから船に乗っているときの話を聞いたり、道具の使い方を教わったりして過ごしました。
そんなある日のことです。その日は天気がよくて、波もおだやかだったので、ゴルタヴィナは特別にお父さんの乗る船に乗せてもらいました。ゴルタヴィナは船に乗るのは初めてだったので、とても喜びました。船に乗っている間、ゴルタヴィナは自分が海の上にいることや、たくさんの魚が引き上げられる光景に感動しました。なによりも風が自分の名前を呼んでいることに興奮し、何度も風とお話をしました。
ですが家に帰った後、ゴルタヴィナは風とお話したことをお父さんにおこられてしまいました。他の人がいる前で風とお話をすると、変な子だと思われてしまうからダメだと言うのです。そうなるとお父さんが仕事をさせてもらえなくなる、とも言うので、ゴルタヴィナは残念に思いながらもお父さんの言うことに従いました。それからゴルタヴィナは、一人でいる時にだけ風とお話をするようになりました。そして段々とそれがまほうの力なんだとわかるようになり、こっそりとまほうの練習もするようになりました。
大きくなるにつれて、ゴルタヴィナは少しずつお父さんの仕事を手伝うようになりました。二人で働けば、もっとお金をかせぐことができると思ったからです。というのも、お母さんが病気でたおれてしまって、薬を買うお金が必要になったからなのでした。ですがお母さんは死んでしまい、ずっと働き続けていたお父さんもたおれてしまいました。ゴルタヴィナは、今度はお父さんの薬を買うためにけん命に働きました。しかしどれだけ働いてもお父さんがかせいでいたお金の半分ほどしかもらえず、薬も高かったため、薬を買うお金はなかなか用意できませんでした。
ゴルタヴィナのけん命な努力もむなしく、お父さんも死んでしまいました。ゴルタヴィナは悲しくなり、一人きりになった家でわんわん泣きました。そんなゴルタヴィナの姿を見て、風もごうごうと鳴りました。するとそこへ、泣き声を聞きつけた三人組がやってきました。その三人は、酒場からぬけ出してきたピカネート、サミニク、ココでした。
ピカネートが聞きます。
「アンタ、そんなに泣いてどうしたんだい?」
「父さんが死んだんだ」
ゴルタヴィナは答えました。
「これから私はどうすればいいんだろう。ここにいても悲しいだけだ」
この家には、ゴルタヴィナの人生全てがつまっていました。楽しい思い出も、つらい思い出も、全部です。それらを思い出すたびに、もう両親と楽しくすごすことのできた日々にもどることはできないのだと、悲しい気持ちになりました。
するとピカネートが言いました。
「だったら、アタシたちといっしょに来ないかい」
ゴルタヴィナはおどろきました。
「いっしょにって、いったいどこへ?」
「これからぼうけんに出るのさ。船に乗って、航海をする。女だけの海ぞく団さ!」
「女だけで、船に?」
「ああ! どうだい? アタシたちといっしょに、新たな楽しい思い出を作ろうじゃないか!」
それを聞いて、ゴルタヴィナはしょうげきを受けました。また船に乗れる。楽しい思い出を作ることができる。なんて素敵なことだろう! 今まですごしてきた家をはなれるのはさみしい気持ちもありますが、お父さんがたおれてからは船に乗せてもらえなかったので、ずっとまた船に乗って、海の上で風とお話をしたいと思っていたのです。
「わかった。私も仲間に入れさせておくれよ! これでも船の仕事には覚えがあるんだ」




