第31話 願いを叶えてくれた——?
「なんだか、夢を見ていた気分だねぇ」
アグリアが消えた後、一旦みんなで昼食を取ることになった。これからどうするのかを話し合うためでもある。今から力をつけておかないと、とココが張り切って作った、肉や野菜が盛りだくさんの料理をみんなで食べる。
そんな中でピカネートが言った。
「聞いたこともない名前の神様が現れて、明日のことを予言した。これが夢ならまだわかるけど、現実だなんて……」
未だに信じられないね、と消え入るような声で言うピカネート。確かに会話をしたはずなのに、今では雲をつかんでいたかのような気持ちだ。
宇海も、ピカネートと同じく夢見心地な気分だった。アグリアが現れる前に見た透明なボール。近づいてくる時にわかったが、あれは水でできていた。きっとあれも〝アグリア〟だったんだ。水の神様だから、水にもなれるんだ。宇海はそう感じた。アグリアの姿が消えた時も、もしかしたら目に見えないだけで、空気中の水分となってどこかにいたんじゃないかと思っている。それなら今もこの近くで船のことを見ているかもしれない。そんな予感がした。
(神様は、本当にわたしたちのことを見守ってくれているんだ……)
宇海は神様の存在を心の底から信じていたわけではない。でも、だからといって信じていないわけでもなかった。日本には八百万の神様がいる、という話を聞いたことがある。その時にたくさん神様がいて面白いな、と思った程度ではあるが、それからなんとなく神様を信じる——と言うよりも、一種のお話として面白がるようになった。まさか(おそらく別の世界とはいえ)本当に神様がいるとは思いもしなかったが、これでまたなんとなく嬉しい気持ちになった。わたしの想いは、神様に届いているんだ。
(もしかしたら、それで……)
わたしの願いを、叶えてくれたの——?
本当にそうであれば、どれだけ嬉しいことだろう。しかし宇海も、そこまで素直に信じられるほど〝子供〟ではないと自分で思っていた。だってここは別の国、別の世界だ。日本に住んでいる人の願いを、日本以外の神様が叶えてくれるなんて、ありえるの?
誰がわたしの願いを叶えてくれたのか? それはわからない。でも、だからこそ、バーハローズという海の神様に会って、真実を確かめたい。会えば何かわかるかもしれない。そう宇海は気持ちを新たにした。
「さて、いつまでもこんな浮ついた気分でいちゃダメだね。これからのことを考えなくちゃ」
ピカネートもピカネートで、気持ちを切り替えるように大きめの声で言った。
「明日、海軍が来る。ま、いつかは海の上で出会うだろうとは思っていたさ。そしてその〝いつか〟がいつなのか知れただけ、アタシたちは運が良い。入念に準備をすることができるからね」
「でも、準備って言っても具体的には何をするの?」
ココが質問した。
「そうだねぇ。まずは、いつ鉛玉が飛んできてもいいように、防護魔法を船全体にかける。昨日の嵐と魔物の影響で、魔法の効果が切れている場所もあるだろうからね」
「それなら私に任せて。船のどこに魔法をかければいいのかは、私が一番よく知っているわ」
とアーレフ。
「ああ、そうだね。これはアンタに任せるよ。次に、万が一アイツらと交戦することになった時のために、武器の手入れ。戦わずに済むのが一番だけど、念には念を入れておかなくちゃね」
「手入れって言うと、剣のサビを落とすとか、そういうのでいいのかい? だったら私がやるよ」
と今度はゴルタヴィナ。
「ああ。それじゃあこれはヴィーナに任せたよ。それから必要なのは……」
と、ここでピカネートは言葉を切り、じっと宇海を見つめた。
「うぅぅぅぅん……」
「な、なに、船長……?」
なんだか険しい顔で見てくるものだから、宇海はおどおどしながらピカネートに話しかけた。
「いいかい、ウミ。一番重要なのは、いかに戦わずに終わらせるか、なんだ」
「う、うん……」
「アタシたちが出会った時にも言ったよね。アンタを交渉の道具に使うって。アイツらに、この船には神様が乗ってて、その神様はこの先に起きることを知っていると思わせるって」
「うん……」
宇海がピカネートたちと出会った日。確かにそんな会話をしていた。そうやって、戦わないための交渉をしよう、と。
「でも……ああ、気分を悪くさせたらごめんよ、ウミ。この数日間アンタを見てきて、アタシは思ったんだ。とっさにウソはつけなさそうだ、ってね。もちろんそれはいいことだけどね。……だから」
ピカネートは息を吸って、大真面目にとんでもないことを言った。
「今から、お芝居の練習をしよう」




