第2話 ここ、どこ……?
揺れているな、と思った。
揺れているから地震かな、とも思った。
でもずっとゆっくり揺れているし、揺れ方もなんだか心地良い。地震だったらすぐに机の下にもぐらないといけないけど、地震じゃないならもう少しこのまま寝ていてもいいかな……。
(ん……? あれ? そうか、わたし寝てたんだ……)
宇海の目が段々と覚めてきた。もう朝が来たんだ。そう思うと今度はお腹が空いてきた。起きて、朝ごはんを食べよう。でもなんで揺れているんだろう……? 宇海がぼんやりと考えながら目を開けると、女の人がそこにいた。
(お母、さん……?)
「あら、目が覚めた?」
優しい声で女の人が言った。こちらに近づいてきた彼女を宇海が寝ぼけまなこで見上げると、これまた優しそうに微笑んだ。茶色の髪を腰まで伸ばした、綺麗な人だった。お母さんじゃない。お母さんの髪は黒色だし、ここまで伸ばしていない。知らない人が、家の中にいる……?
「今、船長を呼んでくるから、ちょっと待っててね。ここに温かいスープが置いてあるから、よかったら飲んでね。お腹が空いているでしょう?」
女の人の質問に、宇海が口で答えるよりも先にお腹が「くう」と返事をした。宇海は途端に恥ずかしくなって女の人から目を逸らした。女の人はおかしそうに微笑んで、「好きなだけ飲んでいいからね」と言って去っていった。
(誰だったんだろう……)
一人きりになった部屋で、宇海はベッドから起き上がった。辺りを見回し、ぱちぱちと瞬きし、首を傾げ、もう一度ぱちぱちと瞬きした。
「どこ……?」
自分の部屋じゃない。自分のベッドじゃない。自分の勉強机じゃない。薄いピンクと白のストライプ柄だった壁も、花柄の絨毯が敷いてあった床も、星空の柄だったらいいのにと思っていた白い天井も、ふかふかのベッドも、秘密のノートを入れていた勉強机も、何もない。あるのは木でできた壁と床と天井に、硬いベッドとごわごわした毛布。横にはやはりこれも木でできた簡素な机があり、その上で木のボウルに入ったスープが湯気を立てている。
(ここ、どこ……? 何が起きているの……?)
それに、そう。さっきの女の人は、確かに「船長」と口にしていた。おまけにさっきから続いているこの〝揺れ〟。と言うことは、つまり……。
ベッドとは反対側に小さな丸い窓があるのを見つけた宇海は、はじけ飛ぶように窓に駆け寄り外を見た。
「ウソ……」
窓の外に広がるのは、青い海と青い空と水平線。それだけだった。
「ウソ、ウソ、ウソ……⁉」
(わたし、今、海にいるの……⁉ それじゃあやっぱり、ここは船の中……⁉)
なんで? どうして? これは夢? それとも現実?
色々な疑問が宇海の頭を駆け巡った。しかし一向に答えは出ない。頬っぺたをつねるべきかどうか迷っていると、突然扉の開く音が聴こえてきた。宇海がびっくりしてそちらを振り向くと、そこにいる人を見てさらにびっくりした。
(えっ……)
「もう立てるなら大丈夫そうだね。ようこそいらっしゃいませ、我がエタリップ海賊団へ」
そう言って深々とお辞儀をしたその人は、ライオンのたてがみのようにふわふわとした金色の長い髪をなびかせ、ところどころ金色のレースで縁取りされた豪華な服に身を包み、虹色に輝く羽飾りのついた派手な三角帽子をかぶった〝女性の〟海賊だった。
「ええ~~~~~~~~‼」