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エタリップ海賊団と海の神  作者: みーこ


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第25話 見張り

 見張り台から下りてきたサミニクと一緒に、宇海うみは船の四方八方を眺めていた。ピカネートからは、周囲を見張って海軍の旗を探せと言われたが、今のところそれらしいものは発見できていない。見渡す限りにあるのは海と空と水平線だけで、時折魚が飛び跳ねるところを見かける程度だ。


「海軍の人たちって、本当に来るのかな」


 いつまで経っても目当てのものが見つからないものだから、だんだんつまらなくなってきて、宇海はそうこぼした。


「招かれざる来訪者の存在は、神のみぞ知る。我々はただ、座して待つのみ」

「いや、船に乗って移動してるから、ただ座って待っているわけじゃないけどね」


 サミニクの言葉に、ピカネートが苦笑いしながら返した。


「でも、前半部分はその通り。来るか来ないかなんて、そのときまでわからない。だから来たときのために、いつも備えておくのさ」

「へぇ……。なんだか、災害に備えるみたいだね」


 と宇海が言うと、ピカネートが思わず噴き出した。


「災害? 海軍が災害と来たか! あっはっは! 確かに、海賊にとっては海軍も災害みたいなもんだね! 突然現れては被害を出すだけ出して去っていく。だから被害を最小限に抑えるために、常に警戒しなきゃいけないんだ。ウミ、これで見張りをしなきゃいけない理由がわかったかい?」

「うん」

「だったらボケっとしてないで、しっかり見張っておきなよ」

「う、うん!」


 ピカネートの一言で、宇海は緩んでいた気を引き締めた。わたしのせいでみんなをまた大変な目にあわせちゃいけない!

 それから宇海はさっきよりもじっくり目をこらして、海の向こうに何か見えないか探した。とは言えやっぱり目ぼしいものは何も見つからなかったが、〝一人はみんなのために〟と気が緩みそうになるたびに自分に言い聞かせた。

 空の色は段々と変わり、澄み渡るような水色から侘しさの漂うオレンジ色になってきた。一旦休憩を言い渡された宇海は、それでも少しでもみんなの役に立ちたいのと何も見つからなかったことへの不満とで、ココの作ってくれた夕食を甲板で食べながら船の周囲を見ていた。


「そんなに肩肘張らなくても、食事中くらいもっとゆっくりしてもいいのに」

「あ、ヴィーナさん」


 今日の夕食である具沢山のスープの入った器を持ちながら、ゴルタヴィナが宇海の隣に腰を下ろした。


「船長から休憩していいって言われたんでしょ? だったら、何もない場所を睨んでいなくてもいいんだよ」

「でも、わたしも、みんなの役に立ちたいし……」


 宇海がそう言うと、ゴルタヴィナは優しく微笑みながら宇海の頭を撫でた。


「あんたは偉いねぇ。今朝は大嵐で大変な目にあったって言うのに、午後からはきびきび働いて。でもね、人は誰だって、休まないと働けないんだ。ずっと働いていたら、体が壊れちゃう」

「……そうなの?」

「ああ、そうさ」


 ゴルタヴィナは宇海の頭から手をどかし、夕日を眺めながら言った。


「私のお父さんは船乗りでね、毎日毎日船に乗っては魚を沢山捕まえてきたんだ。最後に休んだのはいつだったか、覚えていないくらい毎日ね。家に帰ってきても、ちょっと寝たらすぐまた航海に出かけたものさ。でもある日体調を崩しちゃってね。そのまま良くなることはなくて、数年後、息を引き取ったよ」

「……」

「だから、働きっぱなしの人を見るとすごく不安になるんだ。この人も、私のお父さんみたいになっちゃうんじゃないか、って。この船のみんなも、放っておくと働きっぱなしで全然休もうとしない。人数が少ないから仕方ないのかもしれないけど、でもやっぱり不安でね。気がついたら、適当に休憩できるよう声をかけているんだ。だからウミちゃんも、私を安心させるために、休めるときには休んでくれる?」

「……うん、わかった」


 宇海はゴルタヴィナの話を聞いて、いつだったか似たような話を両親がしていたことを思い出した。たしか、お父さんが夜遅くに帰ってくることが何日も続いたから、お母さんが「そんなに働きづめでいたら倒れちゃう」って言っていたんだっけ……? 〝お父さん〟がたくさん働くのは、昔から変わっていないのかな。

 宇海が〝働きづめ〟にならないように、食事中ゴルタヴィナはいろんな話をしてくれた。壊れていた床や壁を直したから、船の中を安全に歩き回れること、上陸した島での珍事件(人懐っこい犬をみんなで可愛がっていたら、その犬は島に常駐していた海軍のお偉いさんのペットだった)、自分は魔法が使えるんだと初めてわかったときのこと、などなど。


「この船の上でなら堂々と魔法を使えるけど、それまではバレないように隠していなきゃいけなかったから、ずっと窮屈な思いをしていたんだ。……と言っても、窮屈な思いをしていたことに気づけたのも、ピカネートたちに会って、この船に乗ってからだけどね」


 懐かしむように言うゴルタヴィナ。


「私は風を操る魔法くらいしか使えないけど、それでも、あー……なんて説明すればいいんだろうね。風の気分がわかるって言うのかな。喜んでいたり、怒っていたり、そういうのがなんとなくわかるんだ。ああ、強い風が吹いているから怒っているとか、柔らかい風だから落ち着いているとか、全然そういうのじゃないんだよ。嬉しいことがあって強い風を吹かせているときもあれば、静かに怒りながら弱い風を吹かせているときもあるの。そうした風の気分を感じて、私も同じ気分になることもあってね。でも、他の人から見れば、何で私が嬉しそうにしているのかとか、怒っているのかとか、なんにもわからないんだ。だから変な目で見られることもよくあったよ。……でも、ここのみんなは違う。みんな、わかろうとしてくれるんだ。それがすごく嬉しい」


 ゴルタヴィナはそこではたと気づいたように慌てて言った。


「ああ、ごめん。すっかり話が長くなっちゃったね。ウミちゃんはこの後も見張りをするの?」

「うん。船長からは『眠くなる前に切り上げて部屋に行くこと!』って言われたけど、でも、ギリギリまではなにか見つからないか、探してみたい」

「おお、頑張るねぇ。私もこれから船長と交代して舵を取るんだ。暗くなってからは近くにある障害物にも気づきにくくなるから、水平線だけじゃなくて、船の近くにも注意を払ってもらえると助かるよ」

「うん。わかった!」

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