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第23話 片付け

「あ、ありがとう……ココちゃん……」


 宇海うみはココから受け取った果物と薬のおかげで、だいぶ最悪だった気分もいくらかマシになってきた。食べながらさっきの光がアーレフの使った魔法だったことや、それが原因で今は医務室で休んでいることも聞いた。もちろん海軍のことも。


「今は船長がアーレフさんの看病をしているから、その分ボクとウミちゃんも働かないといけなくなるけど……もう動けそう?」

「う~ん、まだちょっと変な感じはするけど、でも、わたしも何か役に立ちたいなって思ってたから、頑張るよ!」

「そっか。でも、無理はしなくていいからね。もう少し休んでから甲板に出ようか。外の空気を吸えば気分もよくなるし」

「うん、ありがとうココちゃん」


 宇海はまだ本調子ではなかったものの、これでわたしも役に立てるんだ! と気合いは十分だった。

 しばらくすると船の進む速度が上がった。ココが「少し外の様子を見て来るね」と部屋を出ていく。宇海ももうだいぶ調子が良くなってきていた。お腹が空いて動けなくなっちゃうといけないから、と思ってココからもらったリンゴを食べながら、ココが戻るのを待つ。少ししてバタバタと足音が聴こえてきたと思うと、すぐに扉が開いた。


「お待たせウミちゃん! もう外に出ても大丈夫そうだよ。……と言っても、あー、嵐のせいであちこちぐちゃぐちゃになってるから、それはそれで危ないんだけど……。でも、ずっと部屋の中にいたから、外に出て新鮮な空気を吸うといいよ」


 ほら、一緒に行こう。と差し伸べられたココの手を握って、宇海は部屋の外に出た。

 部屋を出るとすぐにココの言っていたことがわかった。いろんなものが散乱している。足の踏み場もない……ほどではないが、間違って踏んだら転びそうだ。先を歩くココと同じ場所に足を運びながら慎重に進んだ。

 数時間振りに見た外の景色は、実に見事な快晴だった。そろそろ真上に到達しそうな太陽が、温かく宇海を迎えてくれた。嵐が来ていたなんてウソのようだが、船尾側に目を向けるとどんよりとした雲が見えた。


「ウミちゃん、もう調子は大丈夫そう? いっぱい揺れたから、ずいぶん怖い思いをさせちゃったね」


 宇海の姿を見たゴルタヴィナが心配そうに声をかけてきた。宇海は無事だと伝えるためにそちらに駆け寄った。


「うん、もう大丈夫! すごい揺れたけど、ココちゃんがいてくれたおかげでそんなに怖くなかったよ」

「あれ~? ウミちゃんてば揺れに驚いてボクにしがみついてたのに、怖さは〝そんなに〟だったんだ~?」

「コ、ココちゃん! そ、それなら、ココちゃんだって怖いって言ってたじゃん!」

「そ、それは怖がってるウミちゃんを安心させようと思って……!」

「ふふっ……あっはっは!」


 どちらがより怖がっていたかと言い争う宇海とココを見て、ゴルタヴィナが笑い声を上げた。


「もう、二人とも、素直に怖かったって認めちゃえばいいじゃない。誰だって怖いものの一つや二つ、あるものなんだから。私だって、もし大波に飲み込まれたらとか、船が壊されちゃったらとか思って、ずっと怖がっていたんだよ。大丈夫。怖いと思っていたのは、あんたたち二人だけじゃない。二人とも、よく頑張ったね」


 そう言ってゴルタヴィナは二人一緒に抱き締めた。ゴルタヴィナの優しさに包まれて、宇海は知らず知らずのうちに張り詰めさせていた心が柔らかくなっていくのを感じた。その拍子に少し涙がにじんだ。

 二人を離すと、ゴルタヴィナは真面目な顔になった。


「さあ、嵐は過ぎたけど、だからって心配事まで過ぎ去ったわけじゃないよ。船長は海軍が追ってくるかもしれないと予想したようだし、そうでなくとも嵐のせいであちこち損傷が出ている。二人は、ひとまず片付けをしてくれる? 床に転がってるものがあれば、元の位置に戻してほしい。でも、もし壁や床で壊れていたり、ヒビが入っているような場所があれば、危険だからそこには近づかないで。後で私にその場所を教えてほしい。私が補修する。とりあえずはこんなものかな。二人とも、できるよね?」

「「うん!」」

「よし。それじゃあ頼んだよ」


 はい、と返事をして、宇海とココは船の掃除を始めた。

 ぐちゃぐちゃに壊れているものは一ヶ所にまとめて、そうじゃないものは元々あったところに(どこにあったのか宇海にもココにも謎なものもあったが)戻す。簡単な作業……かと思いきや、どこもかしこも物が転がっているから大変だった。衝撃を受けたせいで壁が崩れかかっていたり、床板がめくれあがっているところもあった。なのでそこの片付けはしなかったが、それでも終わるまでに二、三時間はかかったんじゃないかと宇海は感じた。身体はへとへと、お腹はぺこぺこだ。


「二人とも、ごくろうさま。食糧庫が無事だったんなら、なにか食べるものを持ってきてくれるかい? 私もさっきからお腹が鳴ってばかりいるんだ。船長とサミニクの分も頼むよ」


 片付けを終えたことをゴルタヴィナに報告すると、彼女はそう言ってきた。二人ともお腹がぺこぺこなことまでは言っていなかったのに、すぐ見破られた。言わなくても顔に出ていたのかもしれない。

 二人して食糧庫に行き、簡単に食べられるビスケットとオレンジを持って甲板へ戻った。それをみんなに配り歩き(このとき医務室をのぞいたら、数時間前にココが見たときよりもアーレフの顔色は良くなっていた)、自分たちも少し休憩することにした。


「今日は朝からいろいろあって、疲れちゃったね」


 ビスケットをほおばりながらココが言った。


「ねえココちゃん。航海してるときって、いつもこんなに忙しいの? 今日はもう何もやりたくな~い! って思ったりしない?」


 オレンジの皮をむきながら宇海が聞くと、ココは笑いながら答えた。


「あははっ! なるなる。船に乗ってすぐのころはずっとそうだったよ。船に乗ること自体初めてだったし、何度も船酔いで気持ち悪くなったし。船に乗らなきゃよかった! って思ったことも、何度かあるよ」


 でもね、とココは続ける。


「同じように船酔いで気分悪そうにしていた船長は、それでも文句も何も言わずに堂々と振舞おうとしていたし、アーレフさんは何度もボクの心配をして優しくしてくれたし、ヴィーナさんもさっきみたいに上手くサボる口実を作ってくれたし、サミニクさんは……う~ん、サミニクさんはいつもミリーを弾いてるだけだから、特別何かをしてくれたって感じはないんだけど、でも、サミニクさんの演奏好きだし。それに、みんなボクの作る料理を美味しいって言って食べてくれたんだ。だから、何て言うのかな。ここがボクの居場所なんだって、思うようになってきたんだ。たまにケンカすることもあるけど、それでも大切な仲間なんだって感じるんだ。だからみんなのために、ボクも頑張ろうって思える」


 そんなココの話を聞いて、宇海はある言葉が浮かんだ。


「〝一人はみんなのために、みんなは一人のために〟」

「……? ウミちゃん、今のなに?」

「えっと、確か『三銃士』っていうお話の中に出てくる言葉……だったかな。みんなで力を合わせて頑張ろう、って感じの意味だったと思う」


 知っているのはこの言葉だけで、宇海は『三銃士』の話自体はよく知らなかった。だから合っているか不安で、恐る恐るココの顔を見たが、ココは感心するような顔をしていた。


「へぇ……いい言葉だね。〝一人はみんなのために〟か。ボクもみんなのためになれるよう、もっともっと頑張らないとな」

「……うん。わたしも、みんなのために、頑張る!」

「うん! 一緒に頑張ろう、ウミちゃん!」

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