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エタリップ海賊団と海の神  作者: みーこ


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ナイフを操る少女のお話

 とある街のかたすみにあるとある酒場のちゅうぼうで、ココという名の少年が毎日のように皿洗いをしていました。本当は自分もみんなと同じように料理がしたいと思っているのですが、酒場で働き始めたころに事件を起こしてしまい、それ以降料理をするなと固く禁じられているのでした。

 とある新月の夜、酒場のフロアで事件が起こりました。その酒場ではいつも音楽家たちが演奏をしているのですが、なんと男ばかりだと思われていた音楽家たちの中の一人、銀ぱつの貴公子と呼ばれているサミニクが実は女だということが判明したのです。しかもサミニクが女だとバラした女性客がサミニクをぼうけんにさそい、サミニクが快く返事をしたものですから、それはもう大変なさわぎになりました。ちゅうぼうの人たちはさわぎを収めようとフロアに出ましたが、さわぎは収まらないどころか、事件を起こした二人の手によってどんどん大きくなっていきました。

 その時ココは、ちゅうぼうからじっとフロアの様子をながめていました。事件を起こした二人、サミニクとピカネートの動きにみとれていたのです。ココには一目で二人がまじょなのだとわかりました。なぜなら、ココもまほうが使えるまじょだからなのです。本当は少女なのですが、女の子がまほうを使うとよくないことが起きると言われており、また、少女のかっこうをしているとどこのお店も働かせてくれないので、働くために少年のフリをしているのでした。

 フロアのさわぎは、サミニクとピカネートの二人が男の人たちをたおしたことで収まりました。フロアに出ていったちゅうぼうの人たちも、男性客たちと同じようにたおされてしまいました。静かになったところで、二人は酒場から出ていきました。それを見たココは、いてもたってもいられず、ちゅうぼうから飛び出て二人を追いかけました。


「ねえ、二人とも!」


 ココは二人の背中に呼びかけました。


「お願い、ボクも連れていって! さっきの戦いを見ていたんだ。二人ともすごくかっこよかった! ボクもいっしょにぼうけんしたい!」

「あの酒場でアンタの姿を見た覚えはないけど、いったいどこにいたんだい?」


 ふり向いたピカネートが、ふしぎそうにたずねました。するとココではなく、サミニクが答えます。


「かれ……いや、かのじょはちゅうぼうにいたんだろう。あの酒場で皿洗いをしているところを何度か見たことがある」

「うん、そうなんだ。ボクはちゅうぼうからずっと見ていた。とてもかっこよかったよ、二人の戦いは! 二人とも、まほうを使っていたよね? 実は、ボクもまほうが使えるんだ! きっとこれからの戦いでは役に立てるよ!」


 ココはどうしても二人の仲間に入れてほしかったので、自分は役に立てるんだとけんめいにアピールしました。しかしピカネートはなかなか首をたてにふってくれません。


「そうは言っても、まだ子供じゃないか。ぼうけんは楽しいだけじゃない。危険もいっぱいある。自分よりもずっと大きい男の人におそわれるかもしれないんだ。そんな時に、アンタは自分の身を守れるのかい?」

「もちろんだよ! 言ったでしょ、まほうが使えるって。ボク、こんなこともできるんだよ!」


 そう言ってココは、じまんのまほうをひろうしました。酒場から出る時にとっさにつかんだナイフを取り出して、それを自由自在に操ってみせました。宙に放り出して、ナイフをうかべたまま右へ左へ、上へ下へ。こんなこともできるんだと知ってほしくて、勢いよくナイフを飛ばして酒場の看板につき立ててみせました。


「どう? すごいでしょ? ボクもぼうけんの役に立てるよね?」


 ココは、きっとこれで仲間に入れてくれるはずだと思っていました。ですが、ピカネートは怖い顔をしてココの前に立ちました。


「アンタ、もしそのナイフが人に当たったら、どうする気だったんだい?」

「……え?」

「たしかにアンタのまほうはすごいよ。でも、どうしてまほうをこわがる人がいると思う? それは、自分がまほうでひどい目にあわされるんじゃないかって、不安になるからだよ。まほうはすてきな力だ。でも、おそろしい力でもある。だからこそ、使い方をまちがえちゃいけないんだ」


 ピカネートの話を聞いて、ココは思い出しました。ちゅうぼうで料理することを禁じられた理由。そして、酒場で働き始めた理由。それは、ちゅぼうの人たちの前で、それより前には両親の前でナイフを操るまほうをひろうしたら、こわがられたからでした。だから皿洗いだけを命じられたのでした。だから家から追い出されたのでした。


「ごめんなさい。ボク、ボク以外のまじょに会うのが初めてで、うれしかったんだ。ボクも仲間なんだって思ってほしかったんだ。だから……」


 ココがなみだぐみながら言うと、さっきまでこわい顔をしていたピカネートが優しい顔になり、ぽんとココのかたに手を乗せました。


「わかるよ。自分と同じ力を持つ人に出会ったときの喜びは。アンタはきっと、今までずっとがまんしていたんだろう。でも、もうがまんする必要はないんだ」

「じゃあ……!」


 ココが顔を上げると、ピカネートがにっこりして言いました。


「ああ。アタシたちといっしょにぼうけんしようじゃないか! でも、これだけは約束してほしい。故意にまほうで人を傷つけることはしない、ってね。約束、守れるかい?」

「うん、もちろん!」

「ああ、いい返事だ! それじゃあ、いっしょに行こうじゃないか! まだ見ぬ明日へと!」

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