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第19話 約束を破った

 夕食を食べた後、宇海うみは早めに寝ようと船室までの道のりを歩いていた。たくさん歩き回り、逃げ回ったものだから、くたくたに疲れていたのだ。ピカネートからも「不慣れな奴が夜中に出航準備をするのは危ないから、明日の朝まで寝ていても構わないよ」と言われていた。出航する時の様子を見たい気持ちもあったが、「寝ぼけた状態で船から落っこちても、助けてあげられないよ」と言われてしまったので、大人しく言うことに従うことにした。

 何度か開ける扉を間違えつつも、宇海は自分に与えられた部屋の前にたどり着いた。簡素な机が一台とハンモックが二本つり下がっているだけの狭い部屋だが、宇海は秘密基地みたいだと思っていた。

 ドアノブをひねって扉を開けると、驚いたことに先客がいた。サミニクは見張り台の上で演奏していたし、ココもきっと厨房にかどこかにいるから自分一人だけだろうと思っていた。しかしハンモックの上でこちらに背を向けて丸まっている人物がいた。


「ん……? ああ、ウミちゃんか」


 そこにいたのはココだった。宇海に気がついたココは、器用にハンモックの上で姿勢を変えて、宇海と向き合うように座った。


「ウミちゃんも今からお休みするの?」

「うん。ピカネート船長に危ないから寝てるように言われたし、それに、今日はいっぱい動いて疲れちゃったから、実はご飯食べてる時からちょっと眠たかったんだよね」

「そっか。今日は色々あったもんね。ボクももうへとへとだから、出航するまでひと眠りするんだ~」


 と力なく笑うココ。しかし宇海はその様子が気にかかった。なんだかただ疲れているだけではないように感じる。


「ココちゃん、なにかあったの?」

「なにって、ウミちゃん今日一緒にいたから知ってるでしょ。あの海軍の奴らに追いつかれないように、ボクってばもう本当に頑張ったんだから」

「あ、うん……それは、知ってるんだけど……。でも、なんだか、いつものココちゃんらしくないような……」


 いつもの、とは言っても昨日今日の二日間しか知らないが、それでも天真爛漫を絵にかいたようなココの姿とはやっぱり違う。

 宇海が心配そうな顔を向けると、ココは目を逸らしながら乾いた笑い声を出した。


「あ、はは……。やっぱりわかっちゃうか……。うん。実はさっき、ピカ姉……船長にちょっと怒られちゃってさ」

「え? どうして?」


 今日のココの働きに、怒られなきゃいけないことがあったのだろうか。追ってくる海軍の足止めをしてくれたのに? それとも、ご飯の中にピカネートの苦手なものでも入っていたのだろうか。


「ほら、さっきみんなで集まってる時に言ったよね。ボクたちみんな魔女だってこと。ボクはそう大した魔法は使えないんだけど、でも、昔から小さな道具を操ることは得意だったんだ。たとえば、こんな風にね」


 ココは自分の髪を縛っている黄色いリボンをほどき、それを宙に投げた。するとリボンは弧を描いて落ちる……ことはなく、ふわふわと宙をただよいだした。


「わあ、すごい!」


 宇海が素直な感想を伝えると、ココははにかみながら「ありがとう」と答えた。


「船長に怒られたのはね、約束を破ったからなんだ」

「約束?」

「うん。魔法を使って、誰かを傷つけてはいけない。そういう約束」

「……逃げてるときに、誰かを傷つけちゃったの?」

「う~ん、どうだろう。あのどんちゃん騒ぎの中だと、足止めのためにボクが使った魔法で、結果的には傷がついちゃった人もいるかもしれない。でも、ピカネートが怒っていたのは、ボクが明確な意図を持って傷つけようとした人がいるからなんだ」

「……どういう意味?」


 宇海がココの言っている意味をわかりかねていると、ココが懐から何かを取り出した。


「……ナイフ?」


 ココの手に握られたのは、一本のナイフ。フォークとセットで使う、食事用のものだ。


「やっぱ船長はすごいや。ボクを一目見ただけで、いつも持ち歩いているナイフが一本減ってることに気がついちゃうんだもん。……ボクね、このナイフを使って、あのクリスナー大尉って奴の肩を刺そうとしたんだ」

「え……」


 突然の告白に宇海は戸惑った。いつも元気いっぱいなココちゃんが、ナイフでクリスナー大尉の肩を刺そうとした……? にわかには信じられない。でも、ココの寂しそうな笑顔を見ていると、本当にそうなのかもしれないという考えが湧いてくる。そんなこと、信じたくないのに。


「ごめんね、ウミちゃん。急にこんなこと言われても、怖いだけだよね。でも、そうだな……まだ起きていられるなら、ボクの昔話を聞いてくれないかな。このまま隠し続けているのも苦しいからさ」


 そうしてココは、ぽつりぽつりと自分の過去を語り出した。

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