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第16話 帰ってきた!

 満足のいくまでオレンジを食べた一行は、自分たちの船が待っていると思われる港を目指した。さっきまでいた緑豊かな場所はすぐに終わり、何度も掘り返されたような、荒れた地面がずっと続いている。足元が不安定で、気をつけないとすぐに足をくじいてしまいそうだ。

 じりじりと太陽の熱に焼かれながら歩くこと一時間。ようやくお目当てのものが見えてきた。


「おお~! 帰ってきた~!」


 両手を突き上げながら、ピカネートが万感の思いで叫んだ。視線の先には、自分たちの乗ってきた船が静かに海の上で佇んでいる。ピカネートの声に気がついたのか、船の上ではサミニクが自分の帽子を持って大きく振っている。


「アンタたち、お疲れ様! でもここで気を抜いたらダメだよ。船に乗る時に転んで怪我でもしたら大変だからね」


 ピカネートの言葉で気合いを入れ直して、四人は船までのあと少しの距離を歩いた。

 アブレリート島に到着した時とは違い、船は港に係留された状態ではなく、錨だけを下ろして海の上に浮かんでいる状態だ。だから船から降ろされた小型の手漕ぎボートに乗って船の下まで行き、そこから梯子を使って上る必要があった。船の上から二人がかりでボートが降ろされるのを待ち、ゴルタヴィナがボートを漕いでこちらまで来るのを待ち、浅瀬まで来たボートに順番に乗り込んだ。五人も乗るとぎゅうぎゅう詰めだ。


「みんなよく無事に戻ってきたね。お疲れ様。……ところで、船長」


 笑顔で宇海うみたちを迎えたゴルタヴィナは、しかしピカネートにはなにかもの言いたげな顔を向けた。


「言いたいことはわかっているよ。でも、説明は船に戻って、みんな揃ってからね」

「……そう、わかった。ま、海軍が来たんだから、もしかしたら、とは思っていたよ」


 ゴルタヴィナは短く息を吐くと、気持ちを切り替えてまた笑顔を見せた。


「さあ、みんな。海の中に落っこちたくなければ、はしゃがずにじっとしててね。それじゃあいこうか、船長。せぇ……の」


 ピカネートとゴルタヴィナの二人でオールを動かし、小さなボートはゆっくりと進んでいく。大きな船の上とは違い、ボートだと海がすぐそこにある。宇海は船に着くまでの間、澄んだ海の中の様子を目を輝かせながら眺めていた。

 船のそばまでくると、宇海の心にも自然と「帰ってきたんだ」という思いが湧いてきた。まだ一日しか経っていないが、船のみんなが仲間の一人として接してくれるおかげで、ここは自分の居場所なんだと感じることができる。この船の一員として、あちこち冒険して知らないものをもっとたくさん見たい。


「さあ、着いたよ。一人ずつ順番に上っていってね」


 気がつけばボートは船の下まで来ていた。垂直に降ろされた梯子を、アーレフ、宇海、ココの順で上り、上まで来ると、サミニクの手を借りながら甲板に降り立った。最後に残ったピカネートとゴルタヴィナがボートを引き上げる準備をしてから上ってくる。


「やあ、船長」

「あーあー、はいはい、わかってるわかってる。ボートを上げたらちゃんと説明するから、今は待ってて」


 ここに来てようやくピカネートと対面したサミニクも、何か言いたそうに声をかけた。ヴィーナさんも、サミニクさんも、ピカネートの何が気になったんだろう、と宇海は首を傾げる。

 全員甲板に揃ったところで、ボートの引き上げ作業が始まった。宇海も手伝いたいと言ったのだが、危ないから少し離れたところから見ているように、とピカネートからきつく言われた。わたしだって船の一員だと食い下がっても駄目だった。こうした作業は危険がつきもので、下手をすれば大怪我に繋がるからみんなの安全を祈っていてくれないかと言われ、ようよう宇海は手伝うのを諦めて見守ることにした。

 ボートにくくりつけた二本のロープを、ゴルタヴィナとアーレフ、ピカネートとココとサミニクの二手に分かれて引っ張っていく。ピカネートの号令に合わせて、ゆっくりと、しかし着実にボートが浮き上がっていく。ボートは小さくても、決して軽いわけではない。少しでも気を抜いたら海の中に逆戻りしてしまうかもしれないのだ。みんなの真剣な表情を見て、宇海はピカネートがどうして駄目だと言ったのかを理解した。

 ボートの引き上げ作業が終わると、すぐ出港……というわけにはいかなかった。


「ここの入り江の中は、外からじゃ見にくいけど、同じように外の様子がわかりにくい。海軍がまだその辺をうろちょろしている可能性は十二分にある。下手に外に出ない方が身のためだろう。……アンタたち、すまない。アタシが上陸すると決めたばかりに、大変な思いをさせてしまった」


 そう言って頭を下げるピカネート。しかし宇海にはどこにピカネートが謝る必要があるのかわからなかった。


「ピカネート船長が謝ることじゃないよ。だって、悪いのは……」


 海軍だもん。と言いかけたところで、宇海の頭にぽんと手が置かれた。ピカネートの温かな手だ。


「ありがとう、ウミ。でも、アタシがアブレリート島に上陸すると決めた結果、海軍たちに追いつかれたんだ。これはアタシの責任だよ」

「でも……」

「ふふっ。アンタは優しいね、ウミ。わかった。これ以上謝るのはやめておくよ」


 ピカネートは優しくぽんと宇海の頭を叩くと手をどかした。そしてみんなの顔を見回しながら言う。


「日が落ちるまでは、ひとまずここで待機。日没後、しばらく経ってから闇夜に紛れてここを出るよ。よって只今より——」


 すうっと息を吸い、ピカネートは真面目な顔で宣言した。


「大反省会を執り行う!」

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