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エタリップ海賊団と海の神  作者: みーこ


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第12話 変装

(追いつかれちゃったんだ……!)


 宇海うみはピカネートの一言で察した。ピカネートたちを追っているという人たち(なんと海軍!)がこの島に来ている。

 四人はまた市場に向かって歩き出した。アーレフが心配そうにピカネートに尋ねる。


「これからどうするの、ピカネート」

「こんなときのために、ヴィーナとサミニクには海軍の船が見えたら港から離れるように言ってある。待ち合わせ場所も決めてあるから、そこまで行くよ」


 ピカネートがなんでもないような顔をしながら、自分たちにだけ聞こえるような声で答えた。自分たちこそが海軍のお尋ね者だとバレないようにだ。宇海も不安を押し隠して笑顔を作ろうとしたが、どうにもぎこちなかった。


「その場所ってどこ? 二手に分かれたほうがいい?」


 ココが質問する。


「ここの隣にあるアラクレー島っていう小島さ。干潮時には陸続きになるから、歩いていけるそうだよ。二手に分かれると、もし片方が捕まったら人質にされかねないからね。そうしたらこっちは手も足も出せなくなる。目立つ危険性はあるけど、なるべく四人一緒に行動するよ。わかったね?」


 三人が了承したのを確認すると、ピカネートが明るく言った。


「よぉし! 今日はオレのおごりだ! お前ら、好きなだけ飲んでいいぞ~!」

「やった~! さっすが船長!」

「うふふ。太っ腹ね!」

「え、え~っと……や、やった~!」


 急にわざとらしい会話をし始めたのに戸惑いつつ、宇海もみんなのノリに頑張って合わせて会話に混ざった。他の誰にもバレてなければいいけどな。

 市場に戻ってきた宇海たち。みんな荷物を抱えているので周りの人たちから邪魔そうな視線を浴びたが、ピカネートが陽気な声を出してかわしていく。


「おっと、すまないねぇ。ちょっと買い忘れたものがあってね」

「船に乗る前に一杯ひっかけるのを忘れてたんだ。ほら、あそこのラム酒を飲まなきゃ島から出られないって言うだろう?」


 そんな感じのことを言いながら、ピカネートを先頭に一行はずんずん進んでいく。

 幸運にも、海軍と鉢合わせることなく一軒の酒場まで辿り着いた。そこでふと宇海は(酒場ってお酒を飲むところだから、子供は入っちゃいけないんじゃないのかな……)と心配になった。しかし同じく未成年であろうココも堂々と酒場に入っていくし、ピカネートは早く入りなとせかしてくるし、アーレフも早く入りましょうと背中を押してくるので、ちょっとだけ悪いことをしているような気分になりながらも宇海は入店した。

 酒場の中は、ほこりっぽいような、むっとするような、なんだか変なにおいがした。きっとお酒のにおいと、洗濯をしていなければお風呂にも入っていないような人たちのにおいが混ざっているんだろうと宇海は思った。砂ぼこりも舞っているから、あまりいい環境とは言えない。店内にいるお客さんたちも、小汚い格好の人や、酔っぱらって乱暴な喋り方をしている男の人が多く、映画で見るのとは違って少し怖かった。宇海は誰とも目を合わせないように、うつむきながらピカネートの背を追った。

 ピカネートは店内の奥のほうにあるテーブルまで進んだ。どかっと荷物を置くと、店員に声をかけてラム酒とフルーツジュースをそれぞれ二つずつ頼んだ(ジュースもあるとわかって宇海はほっとした)。それから宇海が持っていた布を手に取ると、広げてマントのように体に巻きつけた。


「どうだい? これで多少は変装になるだろう」


 ほら、アンタたちも。と言うので、各々布を手に取ってピカネートを真似して体にまいてみたり、頭からかぶってみたりした。


「でも、これだと途中で脱げちゃわないか心配だよ」


 とココ。彼女は自分の目立つ赤毛を布の中に隠してしまおうと四苦八苦している。


「こんなことになるなら、船から下りるときにお裁縫道具を持ってこればよかったわ。誰か持っている人いないかしら」


 アーレフは最初に取った布が気に入らなかったのか、別の布を三枚出して自分の体に当てながら吟味している。宇海はそんな三人を見ながら気になったことがあったが、言ってもいいかどうか悩んでいた。


「どうした、ウミ。お腹でも痛いのかい?」


 宇海の様子がおかしいことに気づいたピカネートが話しかけてきた。


「えっと、そうじゃないんだけど……」

「あ、もしかして、苦手なフルーツでもあったかい? このあたりならオレンジかレモンか、そのあたりだと思うけど」

「あ、えっと、その……」


 宇海が言おうか言うまいか迷っていると、アーレフが優しく尋ねてきた。


「もしかして、変装のことで何か困っているの?」

「う、うん……。あの、みんなで」

「はい、お待ちどうさん! これ、きれいなお嬢さんがいるからサービスね!」


 宇海が喋ろうとしたら、大きなジョッキになみなみと入った飲み物と、サービスだというフルーツの盛り合わせがテーブルの上にどんと置かれた。店員が勢いよく置くものだから、その拍子に飲み物がジョッキからあふれ出し、しずくが宇海の顔に少しかかった。


「ありがとよ」


 ピカネートは店員に礼を言うと、さっそくラム酒の入ったジョッキを持ってグイっと一杯飲み込んだ。


「う~ん! やっぱり陸で飲むラム酒は違うね! ああ、それで、ウミ。変装がどうしたって?」


 宇海は顔にかかったしずくを手でぬぐい、気後れしながらピカネートに言った。


「うん。あのね、みんなで布をかぶってこそこそ歩いてたら、逆に目立つんじゃないかなって……」


 宇海としても、海軍の目をあざむくために変装をする、というのはとても魅力的だった。しかし、もしその変装がすぐ見破られてしまったら、と思うと気が気ではない。変装がバレて捕まっちゃったらどうしよう。

 すると宇海の不安な気持ちを感じ取ったように、アーレフも心配そうな声を出した。


「それも一理あるわね。これがスカーフならまだしも、ただの布だもの。やっぱりお裁縫道具が必要だったわね」

「ちょっとアーレフ。気持ちはわかるけど、悠長に切ったり縫ったりしている暇はないんだからね。でも、確かにね。ウミの心配もその通りだよ。服でもスカーフでもない、ただの布をかぶった妙な四人組がいれば、悪目立ちするかもしれないし、目撃証言も出やすいだろうねぇ……」


 どうしたもんかね、とピカネートが悩み始めると、やっとのことで赤毛をしまいこんだココが意見を述べた。


「そんなの、サミニクさんが酒場で演奏してたときみたいな魔法を使えばいいじゃん」

「「「……」」」


 何の気なしに言ったココの意見に、ピカネートとアーレフはぎょっとした。宇海はというと、たっぷり三秒程かけてココの言葉の意味を理解し、二人のようにやっぱりぎょっとして、二人とは違って驚きの声を出した。


「ええ⁉ まほ……むぐっ!」


 宇海は海軍に捕まる前にピカネートとアーレフに取り押さえられた。

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